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固定ドと移動ドについて(駄文)

 移動ド・固定ドの違いは、何をドレミなどの音節として認識して、何を頭で理解するかの違いとも言えます。音名唱・階名唱はそれぞれのメソッドにおけるトレーニング方法(ただドレミ音名唱は国際的にも多分ほとんど用いられないリスクの大きいトレーニング)で移動ド・固定ドの話とは少し切り離す必要があります。

 「ドレミ(Do,Re,Mi)音名唱はイタリアやフランスで用いられる」と書いている論文・紀要をときどきみますが、イタリアは詳しくないものの、少なくともフランスでは原則用いないです。歴史的にも母音唱が推奨され、固定ドでDo,Re,Mi音名唱をすると先生によっては結構嫌な顔をします。ただ、コミニュケーシンの一つの方法として、メロディーと音名を同時に伝えるときに使うことはあり得るので、皆無という訳ではないです。その一方で日本ではドレミ音名唱が頻繁に用いられ、その結果として固定ドの問題とドレミ音名唱の問題がセットで論じられるという事態になっています。

 絶対音感と固定ド唱が一部の特に英才教育で成果をあげていますが、その影でふるい落とされる人の数を考えると、公共教育で実施するのには相当に慎重になるべきと思います。また、楽器を操作することにのみ特化した教育になりがちで、総合的な音楽力は個人の資質まかせになりがちという問題もあります。現にいわゆるフランス式ソルフェージュ(ドイツなどでもフランス式ソルフェージュという言い方や教育は存在します)で、固定ド読みはするが歌うときは母音唱を用いるという方法、またアナリーゼ、聴音などと組み合わせたメソッドで一定の成果は得られていますので、固定ド唱法を排除した方が無難に思えます。またフランスでは最近は科目名としてはより総合的な音楽の土台を作るという意味でFormation musicale(フォルマション・ミュジカル)が使われます。一方で、固定ドでオーケストラのスコアなど複数の音部記号や移調楽器を含む楽譜を読もうとすると、7つの音部記号を即座に読む「クレ読み」のトレーニングが必要になり、そこへの道のりはそう簡単なものではないです。

 移動ド・階名唱のメリットとして、調性や音階の構造がドレミ等の音節を通して把握できるということがあります。一方で、楽器を弾く人は何らかの方法で音符を体の運動と紐づける必要があり、移動ドの場合そこの部分がやや複雑で、特に器楽奏者に受け入れられにくい原因になっていると思います。ドレミが固定された音を表さない移動ドでは12の調で体の運動と階名を紐づけるのは難しいはずなので、ABCやハニホなどの音名と紐付けたり、あるいは楽譜の視覚的な認識と紐付けたり、場合によっては耳コピ的な方法(必ずしもCDからの耳コピでなく自分でゆっくりと音にしたものを覚える方法もあります)を使ったり、それらを総合的に使っていると思います。

 それらを一つずつ簡単に検証していくことで、必ずしも移動ド・階名唱も万能ではないことを指摘したいと思います。ABCやハニホなどの音名と紐付けるのは、特に大きな問題はないと思いますが、それらがドレミやDo,Re,Miと比べて音節として速く繋げて発音しにくいので、楽譜を音名読みするトレーニングがややしにくい点にありそうです。楽譜の視覚的な認識と紐付けるのは、複数のクレが目まぐるしく変わる曲や、複数の音部記号が出てくるスコアなどを読んだり演奏するのには向かない方法です。耳コピ的な方法は初見力に弱点があります。もちろん、それらを巧みに使い分けてそれぞれの弱点をカバーすることで移動ド・階名唱はより力を発揮しますが、決して初心者に優しいものとは言えないです。

 以下は個人的な見解ですが、階名的な概念は教育の方法として非常に有用だと思うのですが、Do,Re,Miを音名のように用いる国はイタリア、フランス、スペイン以外にも多くあり、それらの国のミュージシャンとのコミュニケーションで負荷が生じやすいことが心配です。もっとも固定ドの人はしっかりと7つの音部記号でクレ読みができれば、移調楽器の人と話しているような気分で普通に会話できるでしょうし、移動ドの人はドレミとDo,Re,Mi(何語式かはわからないです)とで使い分けられれば大丈夫だと思います。もっとも、固定ドで教育を受けている人も、ただコミュニケーションのためだけでなく、自分のトレーニングとして階名(ドレミに限らず数字でも何でも)読みや階名唱をすることはよいトレーニングになると思いまし、いずれにしても音名をそれぞれの調での位置付けと紐つける必要があります。

 結局のところ、最初に書いた通り、何をドレミなどの音節として認識して、何を頭で理解するかの方法の違いなので、音節の部分だけ論じても仕方なく、頭で理解する部分と合わせることによって、初めて音楽をどのように認識するかという議論ができると思います。また、各国での音楽教育の取り組みも、歴史的な変遷も正しく認識する必要があると思います。

 つまり、皆さん仲良くしましょうねという話です。(PCのバッテリーがなくなりました!)

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