見出し画像

外国人住民とのコミュニケーションを補助するシート by 小倉亜紗美(GEN世話人、呉工業高等専門学校准教授)

======================
日本に住む外国人はどのように災害時に情報を得ているのでしょうか。また保育園等では、保育士と外国人の保護者はどのようにコミュニケーションを取っているのでしょうか。そんな疑問を調べ、保育園でのコミュニケーションを補助するツールを作ったのでご紹介します。
======================
呉工業高等専門学校の小倉亜紗美です。
今回は皆さんの身近にもきっとおられる外国人住民とのコミュニケーションについて考えてみたいと思います。
 
私が住む広島県東広島市は広島県内で2番目に外国人比率が高い市です。
外国人住民が多い理由は、外国人技能実習生に加え、国立大学があるため留学生が多いからです。かつてその大学で留学生の支援の仕事をしていた際に、「留学生の子供たち(「外国にルーツを持つ子ども」と呼びます)は保育園や小学校でどう過ごしているんだろう」と疑問に思っていました。
 
その当時は留学生の子どものことまでとても手が回らなかったのですが、自分の子供が生まれて保育園に入り、保育園の先生と外国人の保護者がコミュニケーションにとても困っている現状を目の当たりにし、「これは大変だ、何とかしなければ!」と思いました。
 
始めは私自身も育休から仕事に復帰したばかりで、自分の育児と仕事に必死だったので、保育園の先生と外国人の保護者が困っているところに遭遇した時にだけ通訳をしていました。
でもその3カ月後、西日本豪雨が発生し、道路も線路も寸断され、東広島市は陸の孤島と化してしまいました。SNSで繋がっていた外国人の保護者には英語で状況を伝えることが出来ましたが、その他の人はどうしているのだろうととても心配になりました。
 
そんな経験から、外国人住民が災害時にどのように情報を得ているのか、また保育園等(幼稚園、保育所含む)で、どのようにコミュニケーションが行われていて、どんなことに困っているのか、どうしたらこの状況を改善できるだろうかということを考えるようになりました。
 
ちょうどその頃、新しい職場に変わったので、それを研究テーマにしてみようと考えて、西日本豪雨の際に外国人住民(留学生、外国人技能実習生など)がどのように情報を得ていたのか、どのように情報を発信して欲しいと考えているのかを調べました。その結果、日本語と同じ情報を、同じタイミングで、スマートフォンなどで受け取れるように、英語または「やさしい日本語(Simple Japanese)」で発信して欲しいと思っていることが分かりました。やさしい日本語については、文部科学省がガイドライン(https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/92484001.html)を出していますが、これを使うことで日本語能力が初級後半~中級前半の外国人のニュースの理解度が約30%(普通の日本語)から90%以上に上昇することが確認されています(松田ら、2000)。
 
また、保育園での外国人の保護者と保育士とのコミュニケーションの課題についても調べました。保育園等では主に日本語で会話を行なっていて、日本語が分からない保護者はコミュニケーションが取れていないこと、保育士さんもアレルギーの情報などが伝わらなかったことで事故が起きることを不安に思っていることなどが分かりました。また宗教による制限や文化の違いが分からず困ることが多いという話も聞きました。
 
そこで、やさしい日本語、英語、中国語、イラストが描かれた、指差しでコミュニケーションを取ることができるツールと、宗教による食事などの制限を簡単に掲載したシートを作成し、アンケートに協力してくれた保育園等に配布しました。HPから無料でダウンロードもできます(https://asaminno.wixsite.com/asamiogura/laboratory)。

外国人住民の増加は、これまでになかった様々な問題を生じさせるかもしれません。しかし、それを「問題」と受け取るのか、異文化を学ぶ「チャンス」と受け取るかによってその後の対応は変わってくると思います。
「チャンス」と感じることができる人が増えれば、日本の社会はまた一歩優しい世界に近づくのではないでしょうか。
 
<参考文献>
・小倉亜紗美、田村麻歩、神田佑亮、八島美菜子(2023)保育園等における外国にルーツをもつ子どもの受入れの現状と課題―コミュニケーション補助ツールの提案―、実践政策学、第 9 巻第 1 号、83-100.(https://policy-practice.com/db/9_83.pdf
・小倉亜紗美・岩本みさ・神田佑亮・河村進一(2020)外国人住民に対する防災情報提供方策の現状と課題、実践政策学第6巻第2号、209-220.(https://policy-practice.com/db/6_209.pdf
・坂越 正樹 (監修)、八島美菜子、小笠原文、伊藤駿(編)(2023)「未来をひらく子ども学 子どもを取り巻く研究・環境・社会」​、福村出版(pp.214-227、第15章 異文化の中の子どもと平和).(https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784571102035

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?