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世界の森林と日本の森林(その2)by 立花吉茂

日本は全土森林だった 
 農耕をおこなう以前の日本は全土が森林でおおわれていたらしい。その証拠は、現在の植生から察することができるし、温量指数や乾湿指数などの推定からも、また全国の社寺林にその断片が残っていることなどからもうかがい知ることができる(図1)。その当時の樹種がほとんど生きて残っているのもまことにありがたいことである。もし、社寺林がなかったら、原生林は復活できないことになるであろう。
 

図1 日本の三大樹林帯

 現在の植生は低地では、雑木林と呼ばれる二次林か、杉、桧の植林地である。高地は手つかずの自然が残っている場所もあるが、背丈の低い林か、低木草本、岩石露出といった自然の場所が多い。
 伐採以前の原生林はその数がきわめて多い多層構造の森林であったと考えられるが、伐採した跡地と考えられる低地の二次林でもその種類数はけっこう多い。もっとも少ないのが植林地であり、杉か桧が1種だけという姿である。多様性に富む日本の自然をたった1種という単純植生にしても大丈夫なのであろうか。しかも、間引きさえしていない密植状態で放置されている場所がけっこう多いのである。
植えるより切るな
 メキシコで「樹木を切ったらその5倍植えなければならない」と聞いたことがある。山奥へ入るとそんなことに無頓着に伐採しているのも見かけたが、雨の少ない地方が多い国だけに、植樹の意義は大きいと思う。われわれが、毎年緑化協力している黄土高原はもうずいぶん昔に切ってしまった場所だから、同じように植樹の意義は大きい。
 しかし、世界でただ1国、植えるよりも、切らない方が良い、といえる国がある。それがわが日本である。山火事で植生が失われても、翌年に行ってみると、もう草がいっぱい生えている。数年後に訪ねるともう樹木が背丈よりも大きく育っている。これは誰が植えたのでもない。自然が復活しようとしているのである。しかし、よく見ると最初に茂っていた木と種類が違う。先駆植物と呼ばれる陽生植物群である。
 やがてアカマツなどの多い二次林となって、数百年後には元の森林に戻るはずである。遷移によって元に戻るといっても、何百年もかかるのである。植林しようとしても、杉や桧なら植えられても、日本の自然林はそんな単純なものではない。複雑に多数の種類が組み合わされた日本の自然の植生を簡単に人手で再現できるものではない。高木だけで600種もあり、低木を加えたら何千種にたっする。狭い面積でも数十種はあるだろう。種子の発芽の性質もよく解っていないものが多い。何の利益もない雑木、雑草なんて調べなくてもいい、というわけだったのだろう。しかし、時間さえかければ植えなくても勝手に復活するのである。だから「植えるよりも、切るな」ということになるのである。
(緑の地球48号1996年7月掲載分)


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