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森林再生で利用可能な水資源は 減る or 増える?(1/2) by 藤沼潤一(Tartu大学、GEN世話人)

緑の地球ネットワーク

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水をたくさん吸って育つ森は、人が使える分の水を減らしてしまう? 雨が少なく水が貴重な地域においては深刻な問題? 最近、この問題に地球規模で取り組んだ論文が発表されたので、わかりやすく解説してみます!
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 「自然はいろいろな恩恵をもたらす」ことは何度となく耳にし、当たり前のように納得しているかと思います。が、実際にどんな恩恵がどれほどもたらされているのか考えたことはありますか?今回~次回(たぶん11月末)にわたって、森林再生とそれによってもたらされる水資源という恩恵の関係について考えてみましょう。

 森林再生における疑問の1つに「森林再生によって増加する蒸散※は、地域的な水資源を減少させる?(※植物の葉からの水分の蒸発)」というものがあります。例えば、GEN(https://gen-tree.org/)が森林再生を行なう中国黄土高原では、降雨量も地下水資源も限られているため、水の確保は地域社会にとって大きな課題です。森林再生に期待される様々な効果(例:炭素固定、薪炭確保、土壌侵食の阻止、etc…)の中でも、「利用可能な水資源の回復(地下水や小規模河川の回復)」は、地域社会の安定に直結する効果です。草原から森林へ植生が置き換わることで生態系の水源涵養サービスが強化され、地域社会は水に困らなくなる…と予想したいのですが、ここはもう少し複雑です。

 森林は色々なメカニズムによって局所的また広域的な水循環に影響を与えます。例えば、草原植生などと比べた場合の森林の高い蒸散量、葉群による降水の遮蔽(葉っぱ表面に雨水が捕まって地面まで届かない)によって、森林は雨水や雪を蒸発させて大気へと戻します。また、暗色の林冠(森林の一番上層部分)は、草原や雪原と比較して光をより多く吸収して熱へと変換するため(低いアルベド→高い蒸発エネルギーの供給)生態系内の水分をより多く蒸発させると言われています。つまり、森林が再生することによって、人が利用できる水の量は減少するんです(1つの山ぐらいの広さで考えた場合)。これは湿潤な日本で生まれ育った私たちには意外かもしれません。さらに、乾燥地の樹木種の多くは深い根を発達させ、乾季でも土壌深層の水分を吸い上げて蒸散するので、さらに利用可能な水を減らします。一方で、森林からの蒸散で大気へと消えた水は、局所から広域にわたって降水パターンに影響し、特に風下の地域の降水量を増加させます。つまり森林は、狭い範囲では地域にとどまる水を減らしつつ、広い範囲では大気を介して水を他の場所へ運ぶ役割を担っているんです。では果たして、中国黄土高原での森林再生は地域社会の水資源利用にプラスに働いているのでしょうか?

 今年5月のNature Geoscience紙に掲載された論文(Hoek van Dijke et al. 2022; https://www.nature.com/articles/s41561-022-00935-0)は「地球上の森林再生が可能な地域全てで森林を再生する」というとても大胆なシミュレーションをコンピュータ上で行い、各地域ごとの水の利用可能性の変化を推定しました。具体的には、まず、森林の再生可能地域の地理データ、非森林→森林の蒸散量の変化モデル、植生変化に伴う降雨パターンの変化モデル、この3つを組み合わせます。その上で、非常に粗い作業仮定をいくつも敷いて、地球上の各地点ごとに、森林再生がどれほど水資源を減らすのか/増やすのか、を推定したわけです。もちろんGENが取り組んできた黄土高原地域の推定値も公開されました。次回(11月末)は、この論文の結果を噛み砕きつつ、実際の黄土高原の森林再生後の水資源の状況についてお話ししましょう。

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