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私たちはおいしいコーヒーを飲み続けられるか? by 小倉亜紗美(GEN世話人、呉工業高等専門学校准教授)

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私たちが飲んでいるコーヒーが取れる場所が2050年には半減してしまうかもしれないという研究予測が発表されました。これも温暖化が大きく関係しています。
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 呉工業高等専門学校の小倉亜紗美です。今回は私たちが飲んでいるコーヒーについてのお話です。
 コーヒーはコーヒーノキ(アカネ科コフィア属)の実の種子(コーヒー豆)を炒って粉にし、お湯などで抽出したものです。コーヒーノキは、赤道付近のアフリカが原産で、赤道を挟む北緯 25 度から南緯 25 度の「コーヒーベルト」と呼ばれる地域で主に栽培されています。

 一般的に流通しているコーヒーは主にアラビカ種とロブスタ種の2種類です。このうち、コーヒーショップなどで提供される良質な酸味を持ち香味に優れているアラビカ種は、世界のコーヒー豆生産量の70~80% を占めていますが、エチオピア原産で標高 500~2,000 m 以上の高地に適しており、高温多湿、低温少雨の両方に弱く、虫などにも弱いのが特徴で、栽培が難しい品種です。一方で標高 500 m 以下の低高度で育成することができ、病害虫に強く1本からの収量が多いロブスタ種は、酸味がほとんどなく苦味が強いため、インスタントコーヒーの原料としてもよく使われています。

 コーヒーはたくさんの健康効果も認められている飲み物ですし、何より、一杯のコーヒーから一日が始まるという人も多いと思います。しかし、地球温暖化の影響でコーヒー生産の適地が約半分に減少してしまうという予測が2015年に発表されました(Bunn et al. 2015)。

 具体的には、あまり温暖化対策を行わないという予測(IPCC第5次レポートのRCP 6.0)でコーヒー産地への影響を予測した場合、2050年には世界の主要なコーヒー生産地であるブラジルとベトナムでは、コーヒー生産に適さない気候になってしまう可能性が高いそうです。
 その一方で、東アフリカとアジアの一部の地域はコーヒー生産により適した気候になる可能性がありますが、これらの地域の一部は森林地帯であるため、その森林をコーヒー農園に変えることは、CO2を吸収し、温暖化を進めないようにするための温暖化緩和策と逆行してしまうことに繋がる可能性があります。また、ラテンアメリカの他の地域では、現在よりも高度の高い場所がコーヒー生産の適地となる可能性が高いそうですが多くの山の山頂近くというのは、自然保護地区になっているところが多く、ここでのコーヒー生産というのは現実的に難しいと考えられます。

 しかし、温暖化対策を最大限行えば(RCP 2.6)、最も適性が低下すると予測されているブラジルと東南アジアのアラビカ種でも、30%程度の減少に抑えられると予想されています。
 いずれにせよ、コーヒー生産に適した場所が変わるということは、そこで働く人の仕事が失われたり、収入が減少したりするということを意味しており、それは巡り巡って私たち消費者が「おいしいコーヒーを飲み続けられるか?」ということに繋がってきます。

 これは「コーヒー2050年問題」と呼ばれていますが、温暖化が進行していく社会において、温暖化緩和策だけでなく、それに対応するための適応策を進めることを同時に進めていくことが求められています。コーヒー生産者の立場で言うと、コーヒー生産に適した場所の移動に伴い、別の農産物を生産したり、別の収入の手段を確立したりしていくことであり、消費者である私たちは、それを支えるために、それに必要な費用をまかなえるだけの費用をコーヒー代として支払っていくことかもしれません。
 フェアトレードは、貧困削減の手段と認識されていると思いますが、これからは、このような今までCO2をあまり出してこなかった地域の人たちがより早く、より多く温暖化の影響を受けるという「不公平さ」を正していくことにも有効だと言えるかもしれません。
 
【参考文献】
Christian Bunn, Peter Läderach, Oriana Ovalle Rivera & Dieter Kirschke (2015) A bitter cup: climate change profile of global production of Arabica and Robusta coffee, Climatic Change volume 129, pages89–101.
小倉亜紗美(2019)スリランカにおける小規模コーヒー農家の持続可能性-流通面からの検討.広島平和科学40号,51-67.
 

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