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インクルージョン×防災セッション報告(3)NGO、障害当事者、若者の視点から by 原裕太(GEN世話人、東北大学助教)

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セッション内容をご紹介する3回シリーズの最終回。地域に密着したNPO法人で障害当事者として障害者支援に携わってきた曽田さんと、多様な人々を巻き込みながら若者目線の活動を展開されてきた全盲の東大生(当時)・菅田さんのお話をご紹介します。
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曽田さんには、フィリピン農村部の障害者団体での活動と、ほぼ全域が浸水想定区域に指定されている東京都江戸川区での支援活動についてお話し頂きました。フィリピンでの活動中、ご自身も大型の台風で被災された曽田さん。台風襲来時に奥さんが子どもを避難させるために出ていた際に逃げ遅れ、命を失ってしまった車椅子ユーザーの男性や、災害後も周りの復旧情報を全く手に入れられていない聴覚障害者の同僚等のエピソードを紹介しながら、平時に穴になっているところが災害時に強く浮き彫りになること、平時から「誰も取り残さない」ことに取組んでいかなければならないことを指摘されました。加えて、そのフィリピンでの台風被害からの復興にあたって、ローカルな障害当事者団体が果たした役割に言及され、障害者は「災害弱者で脆弱な人たち」と捉えられることが多いが、障害者だから気づけることや独自のネットワーク、信頼関係があり、障害者も助ける側に回ることができること、ローカルな団体には政府や国際NGOにはない力があることを具体的な例を用いて説明されました。さらに江戸川区では、災害時に障害者と介助者、その家族が一緒に逃げる集団広域避難が必要である一方、2019年の台風19号では壁に直面し、台風直撃前にバリアフリーな避難先を確保しようとしても各施設やバリアフリーのホテルは予約がいっぱいで逃げられず、役所にニーズを訴えても反応が薄かった現状、それを踏まえて、当事者だからできる独自の訓練、計画づくりを進めるようになったこと等を伝えて頂きました。そして、災害が起こる前から当事者の声を聞きパートナーシップを築いていくこと、地域の現場での実践が重要であることを強調されました。

東京大学で総長大賞を受賞されたばかりの現役大学生・菅田さんには、若者を代表してご登壇頂きました。ピンクの星のマークであるマゼンタスターを使って協力したい人がその気持ちを表明できるようにする「協力者カミングアウト」、Empower Project、若者向けのオンラインメディア・ボイスオブユースジャパン等の取組みをご紹介頂きました。なかでも「協力者カミングアウト」の意義について菅田さんは、「マークを身につける」というとヘルプマークのように協力を必要とする人が身につけることが想像されるが、知らない場所に行けば誰しもが道に迷うかもしれないし、反対に車椅子ユーザーはバリアフリーの道をよく知っているかもしれない。協力する/してもらうという関係性において、個人のステータスや属性は問題ではなく、その場のニーズや各々ができること・得意なことが重要な要素になるのではないかと指摘されました。また、ボイスオブユースの活動では、ソーシャルメディアでは自分の想いを発信することが難しかったり抵抗を感じていたりする人たち、障害やそれぞれの境遇によって想いや声を届ける機会がない人たちが、自由に安心して発信できることを大切に運営していること、コロナ禍では、国連と協働して世界各地の難民や障害者、若者等の阻害されやすい人たちの声を世界中に発信する会議を開催してきたこと等を紹介してくれました。そして、以上のような属性にとらわれない協力関係や、多様な人々が安全・安心に思いをシェアできる環境を平時から整えていくことが、よりインクルーシブな社会、災害時にも強い社会を作ることになるのではないかとの想いを伝えて頂きました。

以上のように、本セッションを通じて、あらゆる人が取り残されるリスクを抱えていること、同時に誰もが支援する側に回ることができること、だからこそ多様な声を反映できる平時からのパートナーシップ・協働が重要であることが確認されました。緑の地球ネットワークとしても、多様な方々との国内外の連携を深め、その声をよりよい団体、よりよい活動に活かしていきたいと思います。


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