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サブスクとタイパとホタル by小倉亜紗美(GEN世話人、呉工業高等専門学校准教授)

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最近、サブスクやタイパに代表されるように便利さや効率が求められています。しかしそれらを求めすぎるあまり、その時しか見られない、大切なことを見逃しているかもしれません。ホタルもその一つかもしれません。
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呉工業高等専門学校の小倉亜紗美です。
今回はサブスクとタイパと、その対極にあるようなホタルの関係について考えてみたいと思います。
 
5月下旬から6月下旬(地域によって多少時期がずれています)は、ゲンジホタルの舞う姿を見られる大好きな季節の一つです。


ホタルについて、地域の方とお話をすると、「昔はたくさんいたのに、最近見なくなった」、「減っている」という声をよく聞きます。
でもそこで、「最近ホタルを見に行きましたか?」という質問をすると、皆さん首を横に振られます。
 
ここ数年はサブスク(サブスクリプション:定額で一定期間はいつでも使い放題のサービス)が人気で、タイパ(タイムパフォーマンス:いかに効率よくできるか)を重視して、様々な選択をする人が増えているという報道を耳にします。これらは、とても効率的で便利で使う人のQOL(生活の質)を上げてくれるものかもしれませんが、それが当たり前になることで見落としてしまっていることもあるような気がしてなりません。
 
私自身も、仕事をしながら家事・育児もこなすために、いかに効率よく仕事や家事をするかを考え、ロボット掃除機や圧力鍋、全自動洗濯機にいつも助けてもらっています。でも、これらを使って捻出した時間は、子どもと昆虫を探しに行ったり、公園に行ったりと、のんびり過ごすことに使うようにしています。
 
冒頭のホタルは、サブスクもできないし、タイパを求めて短時間で見るということが出来ない、その対極にいるような生物だと思います。
生物の保全や環境教育に関わっていると、地域の方や学校の先生から子供たちに色んな経験をさせてあげたいと相談を受けることがよくあります。
先日相談をしてくれたある小学校の先生からは、「小学校でホタルを飼って昼間に暗くした教室で子どもに見せられますか?」という質問をされました。
ホタルを子どもたちに見せてあげたいという熱い想いは伝わってくるのですが、子どもたちに伝えるべきは、ホタルという生き物の姿だけでなく、ホタルはどういう環境で過ごしているか、ホタルが見られる時間や場所はどういう条件なのか、そして次世代の子どもたちにもホタルを見る喜びを伝えられるように、その環境を守っていくことが大切だということではないかというお話をしました。
 
実はホタルに関しては他にもたくさんの誤解があります。
「ホタルは清流の生き物だ」とよくきれいな川のシンボルに使われますが、環境省の「全国水生生物調査」(https://water-pub.env.go.jp/water-pub/mizu-site/mizu/suisei/about/about.html)の水質階級を判定するための指標生物29種のうち、ゲンジボタルとその幼虫の餌として有名な貝のカワニナ類は水質階級II(栄養塩の流入がある中流域の環境)、つまり“ややきれいな川”に住む生き物に分類されるのです。
 
そう、ホタルは「清流の生き物」ではなく、水田や民家がポツポツとあるような人の影響が少しあるような場所で暮らす生き物で、卵を産んで、それが幼虫になり、蛹になり、成虫になるまでには、草が生えているような土手(川の中に堆積した土がその役割を果たしていることもあります)も、人の生活の影響を少し受けるような川も必要で、ホタルが光っている姿を見るためには、そんな場所に5月下旬から6月下旬に、真っ暗になる20時以降に街灯の光もないような場所に静かに見に行くことが必要なのです。
 


私たちは便利さや効率を求めすぎるあまり、大切なことを見逃してしまっているかもしれません。
「ホタルがいない」と思っている人も、実は見逃してしまっているだけかもしれません。
GENが守ろうとしている自然環境はもちろん、文化を守ることも私たちが次世代に繋げることが出来る大切な財産だと思います。

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