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紛争による地球環境への負荷 by 藤沼潤一(Tartu大学、GEN世話人)

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今年は地球環境に関わる色々なニュースの前後で、黒煙を上げる紛争地の映像も毎日届きます。気候変動や環境保全に対する様々な努力が、紛争によって全てキャンセルされているのでは?という疑問…
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 今年は毎日のように、弾薬庫や石油備蓄庫、パイプラインが着火して黒煙を噴き上げる動画を目にします。紛争のもたらす直接的な破壊と、社会経済活動を介した間接的な影響によって、地球環境は様々な様式と規模の環境負荷を負います。地球環境と社会経済の間の相互作用は緻密で膨大であり、それら全てを理解することは挑戦的な課題ですが、紛争の環境負荷を詳細に把握し、それを極力反映した形で地球環境問題を定義し直す必要があります。自然環境が人間社会を制約し、紛争を含む様々な社会活動に強い影響を及ぼすことから、紛争で失われる人命と同じものが、今日も将来も、紛争に起因する環境負荷の影響下にあると捉える必要があるのです。


 環境問題は大きく分けて「生物多様性損失」と「気候変動」の2つの課題を抱えており、紛争は「生態系の破壊」と「温室効果ガスGHGの排出」によって直接的にこの2つの課題に影響します。原子力を含む発電所、化学物質や燃料を大量に扱うプラント・採掘地・輸送ラインなどの破壊は、生態系の物理的な破壊(局所)と二次災害(局所~地域)、化学的な汚染(土壌・水・大気;局所~地域)およびGHG排出(全球)をもたらします。また、紛争当事国の弱体化は、環境の保全利用に直接影響し(例:森林火災や汚染の放置、天然資源の無計画利用)環境負荷を増大させます。紛争が武力行使に及ぶ以前にも、地域間の緊張、軍備増強と刷新は「破壊のトレッドミル(Hooks & Smith, 2004@American Sociological Review)」とも言われ、生産消費による経済活動とは異なる原理によって環境負荷を拡大させます。さらに軍需産業の場合、環境意識を持ち込む消費者が不在となるため、環境配慮は度外視された状況で軍備増強が進みます。 当事国の社会経済が衰退することで、一時的部分的に環境負荷が緩和される可能性も報告されています。しかし衰退した社会においては、復興や人道支援が優先課題となり、十分な環境対策が講じられない可能性も高いです。また当事国の経済力や国際支援も、環境という中長期的な政策方針に対して十分に注力できるかを左右する上で重要となります。 では、日本に暮らす一般市民として、紛争に起因する地球環境問題に対して、傍観する他はないのでしょうか。民主的~非民主的な体制とで、紛争の前中後で、環境負荷軽減に対する取り組みの違いが指摘されています。紛争下にあっても、民主的な意思決定が行われる場合、緑の党系の意見が反映されたりNGO等の関与によって、ある程度の環境への配慮が期待できます。当たり前のようですが、一般市民や社会としてこれらの問題に高い関心と知識を維持し、どのような民意を形成するかが鍵となります。そして紛争を含めた様々な危機や環境問題に対し、持続的で強い民意を届け続ける必要があります。
 
 


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