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恒山山頂の不思議な光景~陰坡と陽坡(1) by高見邦雄(GEN副代表)

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 植物や緑化について門外漢の私はなにも知らないことの自覚のうえに、自然を観察し、専門の先生たちに教わりながら、少しずつ理解を深めていきました。これはその出発点。
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 中華五岳の一つ北岳恒山は山西省大同市渾源県にあります。この県で1992年に緑化協力を始め、最初のころは何回もこの山に登りました。道教の聖山で山腹から山頂付近までたくさんの廟堂があるのに、不信心の私はそこを素通りし、山頂(2016.8m)をめざしました。
 


 するとそこにこんな風景が現れるのです。踏み分け道をはさんで、左(北面)には樹木が繁り、右(南面)は草もいまひとつ、その余りにも鮮やかな対比に驚きました。
 さらに観察すると、左の樹木群には、トウヒ、カラマツなどの針葉樹と、カンバ、ヤマナラシなどの広葉樹が混じっており、人が植えたものではなく、自然に繁ってきたもののよう。右側には人工的な整地の跡がみられ、樹木を植えたけれどもそれが活着しなかったことを物語っています。
 ここは道教の聖山で信仰の山ですから、樹木を植えることはあっても(下の方の参道付近に私たちも植えました)、伐ることはないでしょう。自然の状態におかれると、北向きの日陰斜面は樹木が繁り、南向きの日向斜面は木はもちろん草も生えにくいようです。
 じつはこの写真、スーパーのダイエーのエコカードのデザインに採用され、そのおかげでGENの事務所にMacintosh一式(なんと160万円!)を導入することができたのです。
 
しばらくしてから知ったことですが、前者を陰坡(日陰斜面)、後者を陽坡(日向斜面)といって、造林の計画を立てるときに重視しないといけないことだったのです。ここまで鮮やかではなくても、どこの山でも樹木が育つのは陰坡で、育ちにくいのは陽坡なのです。
 なぜ陽坡で植物が育ちにくいのでしょう。最大の理由として陽坡は乾燥がひどいことがあげられます。そして植物が育たないと、局所集中の豪雨によって土が流され、植物が育たなくなる、悪循環ですね。
 すこし突っ込むと、陽坡は日較差が大きいこともあげられるようです。たとえばこの山では、最低気温は零下30度以下まで下がり、植物の細胞も凍りつきます。そこに陽光があたって急に温度が上昇すると、細胞が壊れるのだそう。
 
 もう一つ重要な問題があります。恒山は狭義にはこの山ですが、広義には河北省から山西省にかけて東西の長さ300km、南北の幅80kmの山脈です。造山運動の関係なのでしょう、北側はほぼ垂直に切り立った崖、南側はなだらかな斜面です。
 つまり緑化の容易な陰坡は、面積にすればわずかなもので、場所によっては自然に森林が成立するわけです。その逆に、人手をかけて森林をさせる必要のある陽坡は、面積が広く、困難が大きいわけです。
 その構造はこの恒山山脈だけでなく、大同のほとんどの山に共通しています。緑化がやさしい北斜面は面積が少なく、すでに緑化は終わっており、困難が大きい南斜面は面積が大きく、これからの課題として残されていました。
 多くのことを教えてくれた恒山山頂。忙しさにかまけて長く登っていません。ぜひとも再訪して、この30年にどのような変化があったか、この眼で確かめたいものです。

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