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世界の森林と日本の森林(その14)by 立花吉茂

植物の多様性
 日本の森林の特徴は、構成樹種が多く、多様性に富んでいることである。といっても、他との比較がないとピンとはこないだろう。構成樹種の点からいえば、全国が森林であり、北から針葉樹林、落葉樹林、照葉樹林と異質な三大樹林帯を有し、全体で高木の種類が600種に達するが、広大なシベリアの森林は多くは1~3種類で成り立っているし、ヨーロッパは全体でも100種もない、といえば、日本の森林の構成樹種の多さは理解できよう。構成樹種が多ければ、その自然は多様性に富む。けれども、この説明だけでは、種の多様性は理解できないだろう。
 生物の多様性が重要だ、と言いだされてもう大分年数がたったが、多様性の真の意味は、一般にはやや難解である。「生態系」という言葉をなんとなくわかったつもりで使っているのに、「多様性」もまたなんとなくわかったつもりになりがちな言葉である。いろいろ違ったものが混ざりあって存在していること、ぐらいの認識である。たしかにそうに違いないのだが、「全体の多様性」と「種の多様性」では大分ようすが違う。後者を理解するには、複雑な森林に入りこむよりも、数種類しか植えていない都市の街路樹を見た方がはるかにわかりやすい。
 たとえば、ケヤキとイチョウに対してヤナギとポプラを比較するとわかりやすい。前者は栄養繁殖がやや困難な植物だから、都市の公園部に納入される苗木は種子繁殖によるものであるのに対し、後者は挿し木が簡単で早くそろった苗木ができるから、栄養繁殖のクローンが植えられてある。したがって、前者には個体変異があって、萌芽期の芽の出方や葉の展開の時期が1本ずつ微妙に異なっており、秋の落葉期にも個体ごとに早晩に差が見られる。これに対して栄養繁殖のヤナギやポプラは同じ遺伝子の個体ばかりだから、きれいにそろっている。これがもしそろっていない場合は、電気照明に影響されるなどの環境要因によってそろわないのである。前者の個体変異はまちがいなく種の多様性を示している。公園には、樹木の戸籍簿はないが、植物園にあるのは、この辺の重要性が存在するからである。
(緑の地球61号 1998年5月掲載)


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