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黄土高原史話 by 谷口義介

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書き手:谷口義介(GEN会員) 研究分野は東アジア古代史・日中比較文化。寄る年波、海外のフィールドはきつくなり、いまは滋賀の田舎町で里山保全の活動。会報に「史話」100回のあと、…
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2023年6月の記事一覧

黄土高原史話<16>猫舌から鬼舌への人類史 by 谷口義介

 トリビアとは、つまらない事柄に関する無駄な知識、という意味のラテン語。  アイザック・アシモフいわく。  「人間とは、無用な知識が増えることに喜びを感ずる唯一の動物である。」  しかし、考古学者は単純なのか、ベンジャミン・フランクリンによる次の定義を信奉。  「人間とは、道具を作る動物である。」  そのうち、火を作るための道具の発明はいつ頃だったか。  140万年前、ケニア・チエソワンジャ遺跡の焚き火跡は、もちろん山火事など自然発火の利用。  クロアチア・クラピナ遺跡出土の

黄土高原史話<15>原点は心の中で懐くもの by 谷口義介

 十数年前、詩人・評論家の谷川雁氏と一夕、不知火町の料理旅館で飲んだおり、氏の著作『原点が存在する』が話題に。そもそも<原点>という言葉を書名で使ったのは氏が最初で、以後「何々の原点」という言い方が広まった由。『二十歳の原点』なるベストセラーもありましたね。  ワタクシ的なことですが、中国史の原点といえば、黄土高原のほぼ真ん中、陘水(けいすい)の中流、陝西省北部の彬(ひん)県、以前は邠(ひん)と書かれました。もっと古くは豳(ひん)。  『史記』周本紀によると、周族が興ったのが

黄土高原史話<14>殷の都は洪水(?)で転々 by 谷口義介

 近い将来、水不足の深刻化で首都を北京から移転せざるをえない」とは、 さる中国政府首脳の談。北京の水源のひとつ山西省の桑干河は、いつ行って も水無し川。  華北大平原を潤してきた黄河も1972年、下流の山東省で史上初めて断流が観察されて以来、97年には13回にわたって水が途絶え、総日数226日、区間は河口より700km遡って河南省の開封にまで達しました。  れより遥か数千年の昔、殷は河北・山東あたりから興りますが、始祖契(せつ)より拠点を八たび遷しつつ南行・西進し、王朝の創始