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もしもの世界で Part.2

”だからとて”が紡いでいく、
僕らの別の可能性。

一つのボタンの掛け違いで起こる可能性のあった、
一人の青年の物語。

β世界線の君へ


野口くんの毎日は、
人との生の関りがない孤独なものだった。
一人暮らしの彼にとって、
毎日のオンライン授業が唯一の外界との繋がりだったのだ。

彼にはおよそ友人と呼べる人間はいなかった。
語弊があるが、それは大学内の話である。
1年生のころ仲が良かった友人とは、
近頃連絡を取っていないそうだ。

人の温もりに飢えていた彼だったが、
パンデミックによって、
何かワンアクションを起こす気力すら奪われてしまったらしい。

否、
本当は疲れてしまっていたのかもしれない。

人に嫌われないように、
人との繋がりが消えないように、
本来の自分ではない自分を演じることに。

見ず知らずの他人に自ら声をかけ、
学校やバイト先なんかでも。
ただただ怖かったのは、”孤独”だった。

何かを共有する仲間が欲しい。

怖い。
怖い。
僕を独りにしないで。

誰か僕を愛してよ。

そんな子供のような悩みが、
彼の頭から消えることはなかった。

外界から遮断された彼は、
絶望の淵で達観してしまったのだ。

「誰も僕を救ってはくれない。」

負の感情が彼を支配しかけた時、
不意に開いた動画はアイドルのMVだった。

興味こそなかったものの、
グループ名くらいは聞いたことがあった。
高校生の頃だったか、話題になったのを覚えている。
そのグループの中核を担うメンバーは、
彼と同世代だった。

5分と4秒間。

その曲の歌詞は彼の心を大きく震わせた。

孤独埋め尽くして 息する意味教えてくれた
青空も全部は君のため 未来なんて見えず
わがままに想う 神様気付いてない
君が大好きだ ただそれだけなんだ
頑張る理由 君だらけ

=LOVE"だからとて"


彼の目に涙が溢れていたのは必然だった。

孤独の日々の中、
遂に彼を救ったのはアイドルだった。
 








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