狂気が物語を面白くする

狂気が物語を面白くする。冷静沈着で感情の波の無い物分りの良い人間ばかりの物語は、きっと味気ない。

物語を読んでいると、結構な頻度で狂気を持った人物が出てくる。狂気に突き動かされて暴力を振るったり、誘拐したり、自殺願望を持ったり、戦争をおっ始めたり、死んだ家族の代わりを求めたり、そーいうのを読むと「この人の行動原理は理解も共感もできないな…」という感想を持つ。

たとえば昭和史を読むと、狂人があちこちに見られる。純朴な、ただただ熱烈に国を想う政治家や軍人たちが、おのれの信条に従って行動した結果、太平洋戦争がだらだらと続いた。当時の人物は皆真剣だったけれど、その熱量が過剰で、方向性が誤っていたから、各種の悲喜劇が生まれた。

狂人たちが舞台を引っ掻き回すから、現代人が読むと昭和史はストーリーに絶妙な起伏があって面白いんだけれど、きっと狂人に付き合わされた当事者たちは堪えられなかっただろう。

愛とか憧れとか、プラスの性質を持って生まれてくるものが膨らんであふれて、執着の域に入ったときに狂気が生まれるんだと思う。

料理でいえば、スパイスだと思う。辛さや匂いを添えて、食材の旨味を引き立てるもの。過剰すぎると不快になる。

だから、きっと適量の狂気は物語を面白くする。


翻って現実では、狂気など御免だ。忌避されるもの。通り魔とかテロとか、狂気の発露はたいていろくでもない。きっと上述の「面白い」というのは、当事者になる覚悟がない人間が対岸の火事を眺める野次馬根性でしかないんだろうと思う。



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