『新型コロナがこれからの社会に対して与える影響』

 小田玄紀です

 非常事態宣言が発出されて1週間程度が経ちました。非常事態宣言の内容としては従来通りの自粛と変わりませんが、それでも多くの人の生活や価値観を変えるきっかけになったことは間違いありません。今回の期間は2020年5月6日までとなりますが、今後起こり得ることや想定ケースについて考察をしてみました。

 まず、今後想定されるケースについていくつかのパターンを考察してみました。

 ①5月6日までに落ち着くパターン
  今回の非常事態制限の期間である5月6日までに新型コロナの感染状況が落ち着くパターンです。外出自粛が進み、接触率が80%以上下がることが続き、新規感染者数や重症者数が減ることで実現が期待されます。

 ②新型コロナウイルスが落ち着くまで数か月間かかるパターン
  5月6日までには沈静化されずにもう数か月かかるパターン。5月6日までの感染状況を受けて、より厳しい外出自粛や営業自粛を求めることで数か月間で今回の新型コロナが鎮静化するパターン。またワクチン開発には時間がかかるものの一定割合で効く薬が普及することで深刻な事態は抑制出来るパターン。

 ③新型コロナウイルスが落ち着くまで1年~2年かかるパターン
  外出自粛や営業自粛をしてもなお、感染者数や重症者が増えてしまい、ワクチンや薬が開発される1~2年後までに沈静化にかかるパターン。

 ④さらに悪くなるパターン
  新型コロナウイルスが世界的に蔓延をすることでさらに進化をしてしまい、重症者割合が高まってしまうパターン。


 今回の新型コロナウイルスの感染状況を鑑みても①のパターンが実現する可能性は極めて低いと想定されます。ニューヨークの感染者数はロックダウン後に徐々に減少しつつあり、もしかしたら感染者数の増加傾向は一時的に抑制できる可能性はありますが、理論上は感染者が0人にならない限り、再び従来の接触活動が再開することで再び世界的な感染拡大が生じてしまうリスクはあります。

 その意味では希望的観測としても②が現実的着地ではありますが、これについてもワクチンの開発には1年以上かかるされているので、数か月間で今回の問題の本質的解決にはなりません。ただし、ワクチンと薬は全く別の効果であり、ワクチンは発症を防ぐもので薬は発症した際に治療をするものです。アビガンなどが一部の条件で効果があるのであれば、数か月間で現状程の深刻さからは回避できる可能性もあります。

 ただし、アビガンなども投薬対象に限定があり、また、予防効果はないので現実的にはワクチンの開発と世界的な接種を終えてからが新型コロナが『世間一般のコンセンサス』として終息したとされる時期というのが今の世界的世論の大多数の意見のように思われます。その意味では③が最も現実的な選択肢になり得る可能性があり、これはこれで多くの人にとって経済的にも精神的にも負担を強いられることになりますが、④の状況よりはマシと考えると少しは楽になるのかもしれません。

 以上が主に想定される選択肢ですが、この選択肢を考えておくことは非常に重要です。というのも、現在様々な国が今回の新型コロナ対策として景気回復策を検討していますが、どのパターンになるかによって対策は変わってきます。

 たとえば①のパターンで終息する場合には実質的な自粛がはじまった2月から5月までの間の資金繰り支援およびその後の景気刺激策で足ります。他方で②のパターンまたは③のパターンになる場合には、対策が大きく変わってきます。自粛期間が1年になる場合、この分を政府が補填・補償することはさすがに限界があります(仮に4000万世帯に年間300万円を支払うだけで120兆円になります)。

 なので、現時点において中々政府の支援策が見えないと批判をする意見もありますが、それは仕方がないことで、現在は上記のどの選択肢になるかがまだ見えておらず、仮に現段階で大判振る舞いをしても財源が枯渇してしまい①か②のパターンで終息すると思ったものの、結果的に③か④のパターンになってしまうと、その時点で何の手も講じることが出来なくなってしまうリスクがあるため、目下のところでは緊急融資などで資金繰りを繋ぎ、限られた範囲で助成金・交付金を投じるということしか出来ないというのが誰が政権運営をしたとしても同じ結論になるはずです。

 また、よくこの手の議論になると「医療の現場」という表現で現場が医療を中心に判断されがちですが、やはり生活をしていく上では経済活動も重要です。収入が無くなったら誰も生活が出来ません。そのため「医療の現場」の意見も大事ですが「経済の現場」の意見も大事ですし、「家庭の現場」や「仕事の現場」、「政治の現場」、「メディアの現場」など様々な立場があり、様々な現場があることを認識・理解する必要があります。

 「経済活動も大事」と主張する人に対して、「命よりもお金が大事なのか!」という意見は今回の件に限らず、定型句のように必ず生じる意見ですが、「経済活動が大事」と主張する人は決して命を軽んじているのではなく、「命のために経済活動も大事」という当たり前のことを言っているにすぎません。

 仮に先ほどの選択肢において①か②のパターンで終息する場合には、何とか政府の一時的な支援・補助で経済が回復できる土台が残る可能性はありますが、③または④に至った場合にはこの土台すら残らないリスクがあります。そう考えた際に重要なことは、今回の新型コロナに関して『終息に関する世間のコンセンサス』をどのように図るかということではないでしょうか。

 昨日時点で新型コロナによる死亡者数は11万人を超え、日本では100人前後になっています。当然、これらの死は尊いものであり、新型コロナが無かったら発生しなかった死である可能性が高い方も含まれます。

 他方でこれは平成30年のデータになりますが、日本人の年間死亡者数は136万人であり、主要な死亡要因としては腫瘍関連38万人、心臓疾患など循環器系が35万人、肺炎などを含む呼吸器系が19万人(内、肺炎が9.4万人)、老衰10.9万人、不慮の事故4.1万人、自殺2万人となります。インフルエンザでも3300人程度が無くなっています。

 人の死を定量的なデータだけで比較をする気はありませんが、現在世界の多くの人が新型コロナに対して恐れているのは、高い感染力であり、そこから重症化および死亡するリスクが未知数という点だと考えています。

 これは昨日時点の日本のデータになりますが、陽性反応が出た人数が6616名で、その中で重症者が129名(1.9%)、死亡者数が98名(1.4%)となります。仮に日本人の10%にあたる1000万人が感染した場合は重症者数・死亡者数は合計33万人になりますし、海外では致死率10%近い国もあるので、もしかしたら死亡者数はもっと増える可能性はあります。

 こうしたリスクがあるからこそ、『今はなるべく人との接触を減らして皆で互いの命を守ろうという』というのが『現在の世間のコンセンサス』です。ただし、先ほども説明したようにワクチンや薬が開発されない限りは再びの感染拡大リスクはあるため、仮にパターン①で終息出来た場合にはこれでもよいのですが、パターン②または③になった場合にはこのコンセンサスでは限界が出てくることが予見できます。

 じゃあどうすればいいのかというところですが、おそらく最も今、我々がするべきことは『コロナの感染方法を正しく理解すること』ではないでしょうか。コロナの解決が一定以上時間がかかることが明らかな今、やるべきことはコロナとどのように共生するかです。

 たとえば、現時点ではコロナの感染は飛沫感染と接触感染ということが分かりつつあります。接触感染というのも肌に接することではなく、感染者の咳やくしゃみなどが付いたものに触り、その手で自分の口や目や鼻を触ることで感染することを意味しています。

 今後、感染者の感染経路が世界的に解明されていくにつれ、より詳細な感染理由は特定できていくと思いますが、感染理由が明確になればなるほど、それに該当する行動を変えていくこと(たとえばマスクを日常的につける、外から帰ったら手を洗う、抗菌手袋をつける、鍋料理を食べる際は取り箸を分けて使う・・・など極々日常的なこと)でコロナウイルスと共生しながら従来に近い経済活動を再開させていくというのが1つの答えになるのではないかと考えています。

 その際に大事なことは、この考えではコロナウイルスの解決にはならないということを多くの人が受け入れることです。ここで大事になってくるのが『世間のコンセンサス』です。コロナウイルスに再びかかる人も一定数は出てくる可能性があり、残念ながらそれによって死亡する人も出てくる可能性があります。ただし、完全に自粛や外出制限が中長期的に続くことは多くの人にとって耐えられないことです。そこで、リスクは残存するものの、感染経路が高いとされる行動は改めることで感染リスクを抑えることをもってコロナへの対応は一時的に終息させるというコンセンサスを醸成していくことが重要になってきます。

 今は毎日感染者数が増える中で、中々受け入られないかもしれませんが、HIVの時やSARSの時も同じように未知の病気・ウイルスに対しては人は恐怖心をもって接してきました。もちろんウイルスは恐怖ですが、大事なことは「正しく恐れる」ことかと考えています。現在はHIVに対しても対処方法が一定以上確立し、HIVによる死亡者数は激減しています(参考までに平成30年度のHIVによる死亡者数は43人)。

 根本的解決までには1~2年以上の時間がかかる可能性が高い、他方で経済活動をその期間止めるということは非常に困難。その中で取ることが出来る選択肢として、「コロナの感染経路を特定し、コロナを正しく恐れることで、感染を防止する行動様式を取ることでコロナと共生していくこと」が今後私たちに求められることではないでしょうか。

 なお、パターン④になった場合はよりリスクが深刻化しますが、映画のウォーキングデッドでも実はウォーカーよりも人間同士の戦いの方が問題です。今は人間同士の意見の言い争いよりも、ウイルスとどう向き合い、どう生きていくか。それが大事なことだと思い、考えとして整理してみました。

 2020年4月13日 小田玄紀


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