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仮想が現実に。

 小田玄紀です

 本日の安倍元首相の訃報には心よりお悔やみ申し上げます。このような惨劇が日本で起きたことに衝撃を隠せないですし、また、今回の犯行が日本または世界にどういう影響を与えるのかを考えさせられる日になりました。

 このような事件が起きた日ではありますが、生かされた者として、今回参加したIVSのイベントはCrypto業界だけでなく日本の新しい産業という観点でも大きな意味を持つイベントであったと思うので、本日という日にはなりますがNoteを更新させて頂きます。

 まず、IVSは日本を代表する経営者・起業家のイベントです。完全招待制のイベントであり、今回は沖縄の那覇に国内外から1800人を超える経営者やVCが集いました。

 ここ最近、こうした経営者のイベントはWEB3.0がテーマになることが多かったです。たとえば、先日参加したBdashCampもWEB3.0が中心テーマになっていました。

Bdash札幌にて

 グロービスの堀さんが主催しているG1ベンチャーでもWEB3.0はメインテーマであり、一番大きな大会場でパネルディスカッションをさせて頂きました。

G1ベンチャーにて

 今回、参加したIVSはWEB3.0がメインテーマというより、WEB3.0だらけのイベントでした。国内外からCryptoを含めたWEB3.0に関する関係者が多く集うイベントであり、この規模のイベントを日本で開催できたことを日本人として誇りに思える規模のイベントでした。

 参加者は1800人を超えたイベントですが、この1800人というのは世界経済フォーラムが主催をしていたサマーダボスと同じ程度の規模です。これをボランティアスタッフを中心として運営をする主催者の企画力と実行力は素晴らしいと改めて感じました。

 今回はIVSで「日本でクリプトのアセットクラスとしての可能性について徹底討論」というセッションで登壇させて頂きました。

IVS那覇での登壇。沖縄なのでサンダルですw

 今回は暗号資産の認定自主規制団体であるJVCEA副会長理事としての立場からも日本における『暗号資産審査』そして『税制改正』を中心として説明をさせて頂きました。

 まず、『暗号資産審査』についてですが、これまで日本では暗号資産審査に非常に時間がかかり、このために日本の暗号資産市場は低迷し、海外に投資家がフライトしてしまっていたという事実があります。昨年9月にJVCEAの副会長に就任し、暗号資産審査タスクフォースを設置して、この暗号資産審査の改善について取組みを推進してきました。

 こちらのNoteにもその取組みの一部を紹介していますが、
 ①DCAI制度の導入
 ②グリーンリストの導入
 ③暗号資産審査体制の強化

 これらの取組みにより、日本の暗号資産審査は昨年から大幅に改善をされつつあります。これはJVCEAのスタッフの方の大きな協力そして努力もあって実現したのですが、従来は月間で暗号資産の処理は4~5件程度しか完了していなかったのですが、ここ最近では月間15件前後の審査が完了しており(これは日本初銘柄だけでなく既存銘柄を含みます)、さらにはグリーンリストの導入により確実に日本の取引所における暗号資産の取扱数は増えつつあります。

 さらに、ここからより改善する取組みを推進していくことで、日本における『暗号資産審査』の課題は今後大幅に改善されていくと考えています。

 次に『税制改正』の点を考えていきたいと思います。暗号資産の税制改正については、自民党としてNFTホワイトペーパーを作成したり、また、『骨太方針』でもWEB3.0への期待および取組みが明記されています。

 これらでも税制改正についても触れられており、多くの人が暗号資産の税制改正は実現するのではないかと期待をしているようです。ただ、実際に税制改正の議論をしている立場として、まだまだ税制改正に向けた機運は十分ではないというのが実際のところです。

 税制改正については、多くのCrypto関係者が何年間も議論や陳情をしてきました。私自身も個人そして団体として様々な陳情をしてきました。しかし、実際に陳情をしていて私自身も引っかかるところが去年まではありました。
 陳情というものは一般的に議員に対して「業界のために税制改正をしてください」という要請をします。議員はその内容を聞いて、それが実現出来るかどうか、そもそも実現するべきかという点を検討します。
 こういう構図のために、どうしても我々は依頼する側になってしまいます。しかし、このスタンスで臨む限りはどうしても表面的な話しか出来ません。そこで、昨年からスタンスを変え始めました。それは「業界のためではなく日本のために税制改正をするべきではないか」というスタンスです。そして、それを実現するために事業者として日本に協力するという姿勢を持つようになりました。

2021年10月の資料

 たとえば、これは昨年10月に議員に説明をした資料なのですが、ビットコインの時価総額は131兆円あるのですが、日本の暗号資産交換業者に預けられているビットコインの量は6300億円しかありません。市場全体の0.4%です。これは実態を考えるとあまりに少なすぎる金額です。つまり、多くのCrypto投資家が税制が高いので、暗号資産を海外に資産フライトしている可能性が高いことがこのデータからも分かります(私の仮説ではその資産フライト総額は10~20兆円規模だと考えています)。

 また、暗号資産の税制改正を議論する際に「日本ではまだ一部の人しか暗号資産投資をしていないからまだ時期尚早」という反論がされます。しかし、それも間違いで、たとえばFXが申告分離課税に移行したのが2012年ですが、その際のFX口座数は300万口座程度でしたが、暗号資産の口座数は昨年時点で既に450万口座と当時のFX市場を超えています。利用者預託金もFXが8600億円ですが、暗号資産は昨年時点で1兆6700億円です(ビットコインは6300億円ですが、それ以外のアルトコインや法定通貨を含みます)。
 つまり、「市場が小さいから時期尚早」というのはFXの税制改正の事実からしても間違っていることになります。

 昨年10月頃よりこのように「税制改正は税制優遇ではなく、日本の国力を高めるために重要な施策である」というロジックで日本のために提言をしていく中で、多くの議員も今まで以上に耳を傾けてくれるようになりました。もちろん、この説明だけが全てではなく、多くの方が長期間に渡る説明をしたことが最も大きな要因だと考えていますが、税制改正を含めてWEB3.0に関する施策が日本のために必要だという論調が形成されるようになってきました。

 しかし、このようにWEB3.0への積極的な見解が示されるようになっても、未だに税制改正までのハードルは高いというのが実態です(なお、ガバナンストークンの法人期末含み益課税など一部の要望は認められる可能性があります。ここでハードルが高いと言っているのは個人の申告分離課税を指しています)。大きく税制改正に否定的な方々の見解は以下のようなものになります。
 ①税収を確保するべき時期に税収減になる施策は出来ない
 ②労働所得は最大55%なのに、暗号資産の税制を株式同様に20%にすることは税の公平性に反する
 ③暗号資産の税制を優遇してしまうと、政府として暗号資産投資を推奨していることになってしまう
 ④暗号資産には様々な種類があるから、それらを一律に税制優遇することは不適当である

 上記以外にも細かい反論はあるのですが、大まかに上記のような指摘が税制改正に前向きでない方々から指摘がされています。しかし、これらの指摘は冷静な議論をしていくことで着地点が見いだせるのではないかと考えています。

①税収を確保するべき時期に税収減になる施策は出来ない
⇒この指摘は先ほども述べたように実態とは異なると考えています。私が理事を務める暗号資産ビジネス協会でも税制検討部会にて様々な議論をしています。

 アンケートを通じて分析をしていますが、税制改正をすることで税収増に繋がるということが昨年の時点からも分析結果が出ています。つまり、暗号資産の税制改正は税収減に繋がるという指摘は誤りです。むしろ、その指摘をすること自体が日本の税収を減少させてしまっていることを認識するべきです。

②労働所得は最大55%なのに、暗号資産の税制を株式同様に20%にすることは税の公平性に反する
⇒課税する側からすると税の公平性は非常に重大なテーマになります。つまり、特定の個人や産業に優遇してしまうと、他の人や産業からそれを批判されてしまう可能性があるからです。そのため、税の公平性は税制を検討する上で重要なことになります。

 その中で、課税側からすると「一生懸命働いている多くの人は給料所得が最大55%になる。他方で暗号資産のように楽に稼ぐものが20%になってしまうのは不公平に繋がる可能性がある」というロジックが成り立つのです。
 
 このロジックが正しい・正しくないは別として、こういうロジックに対する解決策を示していかないと、課税当局としては税制を変えることが困難になってくるのです。
 しかし、この問いは感情論ではなく現実のFACTとして解消することが出来ます。

 まず、これは厚生労働省が開示しているデータなのですが、日本人の平均所得金額は552.3万円(2018年時点)です。税の公平性を考える場合には平均値で評価をしていく必要があるため、この平均所得金額は重要な値になってきます。それでは、所得金額552万円の方の所得税率はいくらでしょうか。

 答えは上記の表の通りです。20%なんです。つまり、労働所得とキャピタルゲイン課税は同一なんです。もちろん、ここに10%の住民税がかかりますが、これは控除額と実質差し引きになると考えたら、実質課税額は20%と考えても差し支えがありません。

③暗号資産の税制を優遇してしまうと、政府として暗号資産投資を推奨していることになってしまう
⇒これも多くの人は実感をしないことかもしれませんが、課税側からすると税制優遇をしてしまうと政府としてそれを推奨しているということになってしまうというロジックが成り立つようです。
 たしかに政府としては「貯蓄から投資へ」というスローガンを抱えて、なるべく株式投資を増やそうという施策を掲げており、また、この一環として株式についてはキャピタルゲイン課税を早くから推奨してきました。
 個人的にはFXがキャピタルゲイン課税になった時にも「政府としてFXを推奨しようという判断で税制改正をしたのか?」という指摘はしたいのですが、そういうロジックはあまり通用しないので、別の観点でこの指摘を考えてみたいと思います。
 それは「貯蓄から投資へ」を実現するためにも「暗号資産投資」をそのステップに入れていくべきではないかという観点です。

 「貯蓄から投資へ」というスローガンは2003年から提唱されているスローガンです。では実際に2003年からどのようになったのかというと以下の表が答えです。

 「貯蓄から投資へ」は全く変わってないんです。むしろ、預貯金が増えており、株式投資は減っています。債券のみは増えていますが、全体からするとむしろ「投資より貯蓄」になってしまっているというのが実態なんです。

 もちろんNISAなど様々な取組みで投資促進をしてきました。しかし、それだけでは実際には「貯蓄から投資へ」の流れが起きていないという事実を受け止めるべきです。

 では、どうすればいいのか。その本質的な答えではないかもしれませんが、1つの答えが「貯蓄から暗号資産投資へ。そして株式投資へ」という考え方です。

 暗号資産のユーザーを分析してみると、これまで全く投資をしていなかった人が多いということが明らかになっています。つまり、暗号資産は間違いなく「株式投資から暗号資産投資」ではなく「貯蓄から暗号資産投資」となっていることは事実です。もちろん、政府としても暗号資産投資を積極的に薦める訳にはまだいかないという意見は配慮したいと思っています。しかし、暗号資産投資を1つのステップとして、そこから「貯蓄から投資へ」という2003年来のスローガンを実現することには大義が出てくるのではないかと思うのです。

④暗号資産には様々な種類があるから、それらを一律に税制優遇することは不適当である
⇒この指摘も課税側の方々からはよくされます。この点は完全に同意します。暗号資産は現在16,000種類以上あるとされています。中には本当に投資対象として適しているのか不明瞭な暗号資産もあります。私としても全て野暗号資産を税制優遇対象とするべきではないと思っています。では、どこを認めて、どこを認めないのか、それは課税側と我々事業者側で膝を詰め寄せて検討をしていくべきだと考えています。
 1つの答えは、日本の暗号資産交換業者が取扱意をしている暗号資産については、一定の審査基準をクリアしたものなので、それに限定していくというのも1つの答えかもしれません。あるいは他の考え方もあるかもしれません。この点については、様々なセクターの方達で意見を出し合い決めて行くべき点だと考えています。

 以上が『税制改正』に関する見解になります。大事なことは賛成派・反対派で価値観をぶつけ合うのではなく、冷静に課題を特定し、共にその課題を解決していく姿勢を持つことだと思います。その根底にあるのは、それは日本の国力を増強するための施策であるかどうかという点です。

 『暗号資産審査』『税制改正』この2点を解決していくことで、日本における暗号資産市場は大きく、かつ、健全に成長していくと信じています。そして、それこそが資源が限られる日本の成長のためにも求められているのではないでしょうか。

 なお、暗号資産についての評価は海外でも大きな変化が見られています。以前にも投稿をしましたが、私が世界経済フォーラムのYoung Global Leadersとして海外でも様々な提言をしています。

世界経済フォーラム本部@ジュネーブにて

 これは今年の5月ですがスイスのジュネーヴにある世界経済フォーラムの本部に行き、CryptoやWEB3.0に関するGlobal Consensusを持っていこうという提案をしてきました。
 ここで敢えてConsensusとしたのは、Ruleやレギュレーションは各国政府がそれぞれの国家事情があるので、それを尊重するべきとの判断であり、あくまでもコンセンサスとして共有すべきとの配慮からです。
 今回の提言としては大きく
 ①税
 ②AML対策(マネーローンダリング対策)
 ③会計基準
 ④国際的捜査連携
 ⑤セキュリティに関する基準創り
 ⑥SDGsへの取組みの国際的な共有

 を掲げています。私自身が2018年のサマーダボスから世界経済フォーラムの主要なイベントに参加していますが、世界経済フォーラムにおいてもCryptoそしてWEB3.0への期待は大きなものになっています。

 今回のIVSでも多くのCrypto関係者が改めて日本の可能性を示唆していました。

 ・ご飯が美味しいこと
 ・物価が安いこと
 ・治安がいいこと(本日の事件でこれから評価が変わる可能性はあります)
 ・ルールが明確にあること
 ・ビットコインはナカモトサトシの発明だから!

 これだけでも日本が世界から選ばれる可能性は十分です。ここに『暗号資産審査』そして『税制改正』が加われば、日本がCryptoそしてWEB3.0の中心になれない理由があるか。それを考える方が難しいかもしれません。

 日本ではCryptoは「仮想通貨」として初期に認知されました。今は「暗号資産」と名称を変えましたが、今回のIVSで多くの参加者が感じたこと、それは既にCryptoの世界は仮想の話ではなく、現実になっているということです。この事実を正しく認識し、政府・事業者・メディア・投資家、それぞれの立場で出来ることを一人一人が取り組んでいくことが何よりも重要なことではないでしょうか。

 2022年7月8日小田玄紀

追伸:なお、ここに記載している見解はあくまでも個人の見解です。所属する組織や団体の見解とは異なる場合もありますのでご了承ください。

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