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自民党総裁選に思うこと


 小田玄紀です

 自民党総裁選が再来週から正式に始まります。派閥が解消されてから初めての総裁選であり、非常に多くの候補者が名乗りをあげています。

 老若男女を含めて非常に活発な動きがあり、改めて自民党の層の厚さを実感しました。

 しかし、今回の総裁選はその後に控えた衆議院解散を見据えた総裁選となっており、自民党議員の中には『誰が総理になったら、自分の選挙に有利か』という考えで候補者支援に動く傾向も見られます。

 せっかく、これだけ多くの方が名乗りを上げるのであれば、ただの人気投票ではなく、しっかりとマニュフェストベースで議論をするべきであり、それを踏まえて最適な人材が選ばれて欲しいと思います。

 なお、仮に自分だったらどのようなことをマニュフェストとするのかを考えてみました。

⚫︎重点政策
①エネルギー政策
②産業構造転換のための産業育成投資
③資産および税収増加のための税制改正
④雇用改革
⑤外交・防衛強化
⑥資産運用立国のさらなる強化
⑦少子高齢化対策
⑧インバウンド強化
⑨レジリエンス対策

 特に重点を置くべき施策は上記と考えています。それぞれ、以下に詳細を説明します。

①エネルギー政策
 何よりも大事なことはエネルギー政策だと考えています。エネルギーは個人の生活そして企業の経済活動に直結します。

 私が2014年に電力事業を創業したので、実感を持って言えますが、2014-2016年頃は日本では電気が余っていました。

 これから、少子化が進むことや省エネ技術が進化することで電力需要が減り、また、原子力発電所が再稼働していくことで電力供給が増えることから『電気は余る』と考えられていました。

 これは日本の電力需要推移を示したものです。電力需要は減少していき、省エネ化などの野心的目標を達成することで2030年度には今よりもさらに電力需要は下がると予想されています。

 しかし、これから電力需要は高くなる可能性があります。電気自動車や半導体、データセンターなど電力消費がこれまでとは比べられものにならないくらい消費される産業が増えること、また、これから生成AIが普及することでさらに電力需要は増えてきます。

 他方で日本では発電所の閉鎖が進んでしまいました。ESG推進の名の下に、石炭火力発電所が閉鎖され、新規開発がストップしました。

 再エネは増えましたが、ベースロード電源としては使えずに電力需給には合いません。

 電気は原則として貯められないため、同時同量の原則といって電力需給を少なくとも30分単位でバランスさせる必要があります。電力需要が高まり、電力供給が減る中でこれに対応する電源が必要になります。

 また日本は自国での電源が脆弱でエネルギー自給率は10%強しかありません。


 毎年25-30兆円がエネルギー資源調達のために外部流出してしまっています。これは大きな課題です。 

 これらの課題を改善していくことが何よりも重要です。幸いに選択肢はいくつかあります。

 中長期スパンで考えたら核融合発電所や小型原子炉の導入は非常に有効な解決策です。核発電に対するアレルギーがあるかもしれませんが、適切な安全対策と共に導入を検討するべきことです。 

 核融合と核発電は全く異なるものであり、今、日本の技術は世界でもトップクラスの水準になりつつあります。ITERなど海外の核融合施設がトカマク式で研究開発を進めている中で、より難易度が高いとされるヘリカル式の核融合が実証実験段階に至っています。

 早ければ2030年には実証炉が出来る可能性があり2035年には日本国内で実現できるかもしれません。 

 こうした中長期施策に加えて、改めて、石炭火力やLNG発電などは新規開発を含めた導入を考えるべきです。COPなどの国際的環境会議で日本は化石賞といって環境問題に積極的でないというレッテルを貼られたことがあります。それは石炭火力を維持していたためです。 

 こうしたこともあり、石炭火力発電は環境に良くないとして積極的な開発が困難な状態になりました。しかし、今では様々な環境対策技術が開発されており、石炭火力発電所でも昔のようなCO2排出量にはなりません。 

 イメージだけで議論をし、国際会議で非難されるのが怖いという理由からエネルギー政策の選択肢を狭めるのは本質的な対応ではありません。石炭火力であれば国内調達も出来ますので、エネルギー赤字の改善にも繋がります。 

 さらに電力供給体制の改善は日本経済そして日本社会を文字通り明るくするために必要です。

 私は昨年から日本で半導体工場をつくるプロジェクトも管掌しています。全国の地方自治体から工場誘致の提案を受けましたが、日本で半導体工場が展開できる可能性がある場所は5つ程しかありませんでした。

 主な理由は電力供給が足りないからです。電力が足りないから、産業が育たないのです。残念ながらこれが日本の現状です。

 去年、サウジアラビアにいきました。サウジアラビアの国民平均年齢は31歳なのですが、ただ若いからというだけでなく、多くの人が自国の将来に可能性を感じていました。それは電力があり、エネルギーがあるからです。

 サウジアラビアは様々な大規模開発を進めています。観光都市としても産業都市としても金融都市としても伸びる可能性があります。

 電力供給が全ての産業、そして、国民生活の基盤です。そのため、エネルギー政策を抜本的に見直すこと、これが1番大事なことだと思います。

 また、安い電源を大量に安定供給することができれば、世界から産業誘致が可能になります。エネルギー戦略の見直しは、まさに国富増強に繋がりますし、地方に拠点が出来ることで地方創生にも寄与します。

②産業構造転換のための産業育成投資
 続いて重要になるのが将来性があり収益性・成長性が高い産業を日本で育てることです。人口が少子化していくことは自明なので、1人あたり生産性を高める必要があります。

 また、『働いても生活が出来ない』という状態を改善していくためにも『働いたら稼げる!』環境をつくるべきです。 

 今、日本と海外の賃金格差が広がっています。インフレ率の違いなどの要因もありますが、一つの要因は高成長・高収益産業を開発出来るかです。たとえば半導体や生成AIなどは間違いなく、これから世界的な需要も伸びます。今、経済産業省が中心となり、こうした成長分野には補助金や政府からの投融資の体制を強化しています。

 この動きは極めて大きな意味があり、日本の中長期的成長のための投資です。半導体関連については税収や波及経済効果により10年程度で補助金回収が期待される試算になっています。投資回収が10年で出来る政策は中々ありません。

 また、原則としてこれらの投資は企業の設備投資額の1/2〜1/3となります。つまり10兆円政府が補助をすれば20-30兆円のアセットが日本に増えることになります。補助金が何倍もの資産を生むことになるわけです。

 さらに多くの高収入な雇用が生まれ、そこから新しいコミュニティや街づくりが生まれてきます。 

 日本のIPも適切な投資をすれば、より大きな資産となり収益を生む可能性があります。今、日本のデジタル赤字は年間5.5兆円です。毎年5.5兆円が海外企業にソフト対価として支払われています。

 国産IPコンテンツや国産サーバーやシステムを開発することで、国冨の流出を防ぐと共に、むしろデジタル黒字を実現できるのではないでしょうか。 

 Web3もこの点で貢献できます。

 日本の暗号資産口座数は1000万口座を超えて、利用者預託残高も3兆円となりました。この市場は①税収増加を目的とした適切な税制への見直し、②レバレッジ倍率の改正、③暗号資産ETFの導入をすることでさらに大きな規模となります。

 2017年には世界のビットコイン取引量の50%が日本円で行われていました。それが今ではたった1-3%になってしまっています。

 取引量と比例して、日本の利用者預託金も市場全体の1-3%程度となっています。

 適切な政策対応が出来れば、日本市場を世界全体の10-15%に回帰させることは可能です。これは日本に数十兆円規模の資産を増やすことに繋がります。しかも、これらを1円の補助金も使わずに実現できるのです。

 暗号資産業界はハッキングや詐欺や犯罪に暗号資産が活用されるケースがまだ存在するなどの課題もあります。ただし、課題があるから排除するのではなく、課題に向き合いどのように解決するかの思考が重要です。そして、この答えは見えつつあります。
 
 毎年5兆円を超える日本のデジタル赤字を解消するためにもWeb3を活用しない手はありません。

③資産および税収増加のための税制改正
 産業構造の変革を実現するためにも税制改正も有効です。特に税制は企業よりも国民生活の改善のためにも戦略的に行う余地が多分にあると考えています。

 実質賃金は上昇傾向にありますが、それでもまだ実感値としては低いのが事実です。それは給料の増加と比例して所得税や社会保険料などが上がっているためです。

 一つの提案として、賃上げ分については所得税や社会保険料を短期的には上げずに、たとえば5年間で毎年20%ずつ当該増額分の税金・社会保険料を段階的に上げていくことは強く求めたいと思います。

 この施策が実現することで、賃金増加分については実質手取り額ベースで増額を実感することができます。もちろん恒久的な対応はする必要がなく、5年かけて段階的に通常課税率に戻せばよいと考えています。

 ただ、賃上げが続けば続くほど、手取り額は実感値としても増えますし、このことで生活のゆとりも高まりますし、国内消費の増加にも繋がります。

 その他、法人における交際費ですが年間800万円までしか税務上の損金算入が認められませんが、これもそもそも会社の規模や業態によっても変えて行くべきですし、今の実態に合っていません。

 交際費について、たとえば社員一人あたり年間30万円までは損金算入を認め、これを福利厚生として還元する、たとえば当該費用で社員が食事などをした際に補助をする、これは給与課税にはならないことを認めることで毎月2.5万円相当の実質手取りが増えることに繋がります。

 このように税制をうまく活用することで、結果的に国内に資産や税収が増えるための施策が実現でき、さらには国民生活もより豊かになることに繋がると考えています。

④雇用改革
 
雇用形態の多様化が進む中で雇用改革も重要なテーマです。

 特に外国人労働者については戦略的に考える必要性があります。現在、外国人労働者については、出入国管理法によって管理されています。出入国管理庁は法務省の管轄になり、移民・難民・技能実習生・高度外国人労働者が同一に管理されています。

 現在、一部の特区では高度外国人労働者については当該地方自治体にビザ発行権限が付与されるようになりつつありますが、今後、労働人口が減る中で外国人労働者については戦略的に考えていくべきであり、場合によっては高度外国人労働者については経済産業省等にその管掌を持たせることも考えるべきかもしれません。

 その他、働き方が多様化する中で、より長時間働くことを希望する場合には就労を認めるなど、社会の実態にあった多様な働き方を認めていくべきだと思います。

⑤外交・防衛強化
 ロシア・ウクライナやイスラエル・パレスチナ問題をはじめとして、世界では様々な地域で紛争や戦争が実際に起こっています。

 これは他山の石ではなく、日本周辺の緊張関係もこれからどう変化するか分かりません。

 しかし、世界経済フォーラムの様々な会合に参加をしていて実感することとして、どこの国も戦争を求めていません。平和を求める国のリーダーが、それぞれやむを得ない事情で争いに巻き込まれているのが実態です。

 日本として、防衛予算の増加は不測の事態を避けるためにはやむを得ないことですが、それだけでなく、日本の地政学上の利点を最大限活かして、今後戦略的な外交を実現するべきです。

 特に日本の地政学上の特徴として、アメリカ・中国の間に位置すること、周りが海に囲まれており軍隊の侵入には抑止力があることはこれまで以上に今後、再評価されるべき点です。

 スイスのような永世中立国としてのポジションを日本がアピールをして、各国のセーフハウス・セーフゾーンに日本を位置付けることも可能ではないでしょうか。

 日本の食事、文化などを含めて、この立ち位置を実現できる可能性は多分にあります。

⑥資産運用立国のさらなる強化
 日本の強みの一つは金融資産があることです。2023年12月末時点で2141兆円の国民金融資産となります。これは非常に大きな強みであり、今後、日本で少子高齢化が進んでいくにあたっても、国民金融資産があることで将来に渡り、日本人は金融で生活が成り立つ国民になれる可能性もあります。

 なお、アメリカは1京3000兆円近い国民金融資産があります。これがアメリカ経済の強さの基盤になっています。

 上記は2000年からの日米の金融資産の増加率になります。日本は1.4倍に対してアメリカは3倍です。この差異は見方によってはプラスに考えられます。まだまだ日本は伸びる可能性があることを示しています。

 資産運用立国をさらに強固なものとして、様々な金融商品の増加や投資促進をする税制改正、金融教育や投資家保護の仕組み強化を行うことで改善幅は多々あります。

 金融の特徴として、分母が小さい場合はリスクの高い商品を買わざるを得ない環境が続きますが、分母が大きくなれば投資の選択肢も増え、また、リスクヘッジの方法も増えます。

 まさに富が富を生む体制を実現することが可能になります。

⑦少子高齢化対策
 
この問題については先日以下のnoteでも触れましたので、そちらに詳細は委ねたいと思います。

 少子高齢化は少子化と高齢化の問題に分けて考えることができ、特に高齢化は実は問題ではなく、また、少子化も本当に問題なのかは改めて考えるべきです。

 このnoteでも考察をしているように、生産性の高い仕事が出来るようになり、また、国民金融資産が増えれば、実は日本人は相当豊かな生活を実現できる可能性があります。

 ただ、もちろん人口減少の課題があることも事実なので、問題の本質を改めて冷静に考えることが重要です。

⑧インバウンド強化
 
日本を観光立国にすることも極めて重要です。これは今のところ上手くいっており、2030年までにインバウンド収入を15兆円にすることが目標とされています。

 15兆円という数字は極めて大きく、これは自動車関連の輸出額に匹敵します。今から10兆円程度の増額であり、日本経済に与えるインパクトの大きさが伺えます。

 もちろん、観光客が増えることでの観光公害の問題も意識するべきです。ただ、メリットとデメリットがある中で課題を解決してリターンを得る発想はここでも重要になってきます。

 まず、今は日本では国内価格と観光客向け価格は同一にしていますが、これは二重価格にしてもよいと考えています。場合によってはUSD払いを認め、日本円だと1万円でUSD建は100ドルなども許容するべきです。

 現在の物価水準だと、これでも十分に日本の物価は安いですし、それ以上の対価があります。

 宿泊税など観光税も課金して良いと思います。もちろん、安さを売りにしている宿泊施設があることは事実なので、一泊5000円以上の宿泊費のホテルは一泊500円の宿泊税を課金するなどの方法でも良いと思います。ここで得られた税収でインフラ整備や地元住民の雇用創出に活用することが重要です。

 また訪日観光客の消費税還付についてもヨーロッパと同様に出国時に確認をして適切と判断をしたら後日クレジットカード等にrefundする仕組みに変えることで不適切な消費税還付を制限することが可能となります。

⑨レジリエンス対策
 近年は100年に一度の災害が毎年発生するようになっています。国土強靭化を含めたレジリエンス対策も重要な施策になります。

 特に国土強靭化予算というと、無駄な公共工事のイメージが付きまとうかもしれませんが、これからの居住環境をインフラレベルで見直すことが必要です。

 震災や豪雨への対応だけでなく、今後は火山噴火や太陽活性化に対する対策なども求められてきます。

 新型コロナの時にも感染症に強い国家創りを提唱し、感染症対策機器が全国に導入されました。今でもこれは残っており、ウイルスの蔓延防止に貢献しています。

 天災はいつあるか分かりません。被害者そして被害額を抑制するためにもレジリエンス対策は重要になります。

 
 今回、9つのテーマで考察をしましたが、もちろんこれ以外にも課題はあり、ぜひ多くの候補者がそれぞれの政策をマニュフェストに落とし込み、議論を深めてもらいたいです。

 日本がいい意味で変わるきっかけが今回の総裁選だと思いますし、この機会をただの人気投票で終わらせることなく、日本の国力増強に繋がる機会にしてもらいたいと強く願います。

2024年8月31日 小田玄紀

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