第5回 Q&A 花、面白い、珍しい。
A:GK
日本映画がさらに進化するには、より多様で「珍しい」作品がたくさん作られることが必要だと思います。
生物史を見てみると、その第一歩はいつも「突然変異」です。
それがゆえに「珍しく」「稀で」「妙なもの」が作られていくことが理想だと思っています。
25歳の時、映画『電車男』を企画しました。
その時の自分は、まさに「珍しい」映画を作ろうと思っていました。
先輩たちが有名監督を起用したり、ベストセラーの小説や漫画を原作とした映画を作るなか、コネクションもノウハウも実績も、、、とにかくなにも持っていない自分はどうやって戦うかを考えていました。
そのとき同業者が注目していなかった、インターネットの掲示板を覗いていました。
そこで「電車男」と出会いました。
今でこそ『ソーシャルネットワーク』をはじめとした、インターネットやSNSを舞台とした映画が当たり前となりましたが、当時は世界中にそのような映画は見当たりませんでした。
とはいえ、ただの「奇抜な映画」にはしたくなかった。
きちんと「映画の文脈」に則った、「珍しい」映画を作りたいと思ったのです。
インターネットの掲示板を舞台に、ビリー・ワイルダー監督の『アパートの鍵貸します』のようなクラシックなフレームのロマンティックコメディを作る。
そんなコンセプトで出来上がったのが映画『電車男』でした。
それが、僕の映画づくりのスタートとなりました。
「花、面白い、珍しい。これらは三つの同じ心である。いずれの花でも散らずに残る花などあろうか。花は散り、また咲く時があるがゆえ珍しいのだ。その時々の世相を心得、その時々の人の好みに従って芸を取り出す。これは季節の花が咲くのを見るがごときである」
500年前に世阿弥は言いました。
人はなぜ花に惹かれるのか? どうして桜の下にあれだけの人が集まるのか?
それはすぐに散っていく「珍しい」ものだからだと世阿弥は言う。
時代の気分を感じながら「花」のような、「珍しく」「面白い」物語を創る。
この世阿弥の言葉は、自分の作品づくりの指針となっています。
いつかそれが、桜のような「普遍の珍しさ」になることを目指して。