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経営に活かしたい先人の知恵…その60
◆社内に「無用な人間」などいない◆
荘子の逸話に「無何有の郷」というものがある。男が荘子に「私の家に大木があるが、その太い幹はこぶだらけで、墨縄の当てようもない。その小枝は曲がりくねって、定規も当られない。だから道端に立てておいても、大工も振り向かない始末だ。大きいばかりで無用の代物だ」と嘆いたところ、荘子は「どのようなものにも得手と不得手があるものだ。今お前さんは、せっかく大木を持ちながら、それが役に立たないことを気にしている。それなら、いっそこれを無可有の郷、広漠として果てしない野原に植え、その傍らを彷徨いつつ無為に過ごし、その木陰で悠々昼寝したらどうかね。この大木のように斧やマサカリで命を落とす恐れもなく、危害を加えられる心配のないものは、たとえそれが無用であっても、少しも困ることはない」と、答えたというのだ。
荘子の先輩格の老子には、「無用の用」との教えがある。例えば、バケツのような形状のものは、中に空間があるからこそ器として使えることを例に挙げ、「無用に思えるものは、決して無用ではない」と説いている。これは企業にも同じことが言え、社内に無用な人間は存在しないと考えるべきであろう。
ところが、少なくない企業トップが、「我が社には人材がいない」と嘆く。本当にそうなのか。アメリカの著名な経営学者が、エグゼクティブ対象のセミナーで、「あなたの会社には無用の長物と思える従業員がいますか」と聞いたところ、多くの経営者が手を挙げた。しかし、続けて「そうした人たちは、最初から無用の長物だったのですか」と聞くと、手を挙げた経営者の全てが「いいえ」と答えたという。
スキルに差はあっても、入社した時にはそれなりに意欲のあった人間が、会社生活を送るにつれて、やる気を無くしていくのはなぜなのか。度々指摘しているが、筆者はその原因は「やる気を削ぐ」上司にあると考えている。自分の言葉、行動で、部下が傷ついていることに気づいていない上司が多い。上司に悪気はないのだろうが、知らず知らずに部下のやる気を削いでいくケースが多いのだ。
35歳にして台湾の行政院に入閣し、デジタル政府委員に登用されて話題になったオードリー・タンは、「仕事を始めたばかりの社員はたいてい主体性が高く、意欲もある。重要なのはいかに彼らを管理するかではない。彼らの主体性や意欲が、組織の中ですり減ってしまわないように、いかに管理職を教育するかだ」と、自著に書いている。実に的を射た指摘だと思う。
管理職が部下を「無用の長物」化させているからこそ、管理職教育が必要なのだ。「易経」にも、「言葉と行動は、リーダーにとって、枢(くるる=戸を開閉する仕掛け)や機(石弓を弾くバネ)のように最も大切なものであるから、慎まないといけない」とある。まずは、この教えを学ばせることが、管理職教育の第一歩だと、筆者は考えている。