見出し画像

経営に活かしたい先人の知恵…その17

◆戦略と戦術の使い分け◆


 『良い戦略、悪い戦略』の著者リチャード・P・ルメルトは、ジョブズ氏の「捨てる戦略」(その16参照)を紹介した後、「戦略を立てる時には、『何をするか』と同じぐらい『何をしないか』が重要である」と指摘している。企業経営で何より大事な戦略も、決断同様、二者択一の意思決定だとまず理解しておきたい。

 しかし、いかに良い戦略を立てても、行動に移さなければ意味がない。行動するとは、戦術を考えるということだ。戦略(決断)と戦術(行動)についてどう考えればいいのかだろうか?

 私は、戦略と戦術を分けて兵法を説く『孫子』を参考にすればいいと考えている。『孫子』は、戦いを仕掛ける前に、敵国と自国を、五事(道・天・地・将・法)で比較検討して、「戦うべきか否か」を決断しなければならないと言うが、これは戦略に他ならない。

 企業経営において、「道」とはトップが道理をわきまえているかどうか、「天」とはタイミング、「地」とはポジショニング、「将」とは部門担当も含めてのトップそのもの、「法」とは会社の組織やルールが整備されているかどうか、と考えればいいだろう。

 戦術とは戦略を成就させるために、いかに戦うかを考えることであり、戦略は一度決めたら簡単に変えてはならないが、戦術は「融通無碍・変幻自在・臨機応変」でいいと、『孫子』は繰り返し指摘している。日本でも馴染みの深い『三国志』の諸葛亮孔明の戦い方は、この言葉の実践版と言えるだろう。

 戦略と戦術を分けて考えることは、企業経営においても、とても大切だ。例えば、ある会社の下請け企業として実績を積んできたとする。しかし、発注先と上下関係で仕事をしていたのでは、大きく飛躍することはできない。そこで戦略として発注先との決別を決定したとする。この場合、いきなり大手の仕事を断る必要はない。下請け企業は、大手の厳しい要求をクリアしてきただけに、技術力は素晴らしい場合が多い。その技術を活かして何ができるかを、じっくり研究することだ。新しい事業の目処がついたところで、大手の仕事を断るようにすればいい。

 沖縄の流通業「サンエー」(プライム市場)は、沖縄に進出してくる本土の大手流通業者と戦うと決めたが、自社の実力がない期間は、正面衝突を避けて、大手の進出してこないエリアに店舗を展開していった。結果、本土の大手企業が進出してきても、その地盤は揺るぐことなく、成長を続けている。これが戦略と戦術の巧みな実践例だ。

 戦略は組織のトップが立てるべきだが、戦術は可能な限り、現場に任せた方がいい。『孫子』は、「君命は従うべきものだが、場合によっては反対したほうが良いこともある」と指摘している。財界総理と呼ばれ、企業経営ばかりでなく行財政改革にも辣腕を振るった土光敏夫さんは「本部は前線(現場)を振り向かせるな。前線は前に進むためにある」と言っている。臨機応変に戦うことが勝利への道なのだから、現場に任せればいいということだ。また、松下幸之助さんは「戦術は君の自己流で自由にやったらいい。そのほうが君の個性がでてきて面白い」と言っていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?