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経営に活かしたい先人の知恵…その45

◆単純な問い掛けが組織と人を成長させる◆


 ソクラテスは弟子に教えることはせず、「質問を繰り返すことで物事の本質に気づくようにリードしていった」という。この逸話は、「ソクラテス的問答法」として今に伝えられているが、この手法は自ら考え、自ら行動する人間を育てるために、大いに活用すべきだと私は考えている。

 経営学者・レビット(ハーバード・ビジネススクール元教授)は、「経営者が行うべきもっとも大切なことは、単純な問いを投げ掛けることである。我々はなぜそれをするのか。なぜそのようにするのか。代替案は何か。そのコストはどのくらいか。なぜコストが上がるのか。それをもっと安く、上手にやれるのは誰か――優れた経営者がこうした類の問い掛けをするのは、部下たちが考えるように仕向けるためである」(「優良な経営者」より)と説いている。

 私の知る優良な経営者にも、質問上手なタイプが多い。沖縄の「サンエー」(プライム市場)創業者折田喜作氏が、その代表的な存在だ。サンエーの1986年度のスローガンは、「もっと(同社では『まだまだ』」と表記)いい方法はないか考えよう」というものだった。

 当時、同社の社員は一生懸命真面目に働いていた。しかし、熟考なしに行動するものだからいかんせん非効率。無駄な働きは、企業にとっての損失ばかりでなく、頑張っても成果が上がらないのだから、働く本人にとっても辛い。そこで、このスローガンが打ち出された。しかし、1年経っても成果が出てこなかったので、翌年も同じスローガンが継続され、それでも満足できなかった折田氏は、翌々年も同じスローガンを掲げている。

 さすがにその後は、この「考える」をスローガンにすることはなかったが、誰もにその意識を継続させるべく、1989年には会社の玄関口に、彫刻『考える人』を鎮座させている。サンエーの2024年2月期の売上は2101億9千万円、経常利益168億9千万円だったが、この好業績の原動力になっているのが、この「考える」ことへの拘りにあると理解されたい。

 アマゾン創業者・ベゾスも折田氏同様、「もっといいものにするにはどうすればいいのか。効率を上げるためにはどうすべきなのか」と、問い掛け続ける経営者だと言われている。アマゾンの現場では、現状の作業を別の角度から見直すように促され、新しいことを試してみることが奨励されているとのことだ。

 現状のやり方をベストだとは思わないで欲しい。今ベストだと思っているやり方は、それを考えた時点でのベストに過ぎないということだ。間違いなく「時」は流れている。時とともに従業員のスキルは上がるし、世の中も変化していく。時勢に合わせ、「もっといい方法はないか」と考えて、新しいことにチャレンジし続けなければ、組織は衰退に向かっていく。

 部下が自ら考え、自ら気づくようにリードすることには大きな意義がある。同じことでも、気づかされるのと、自ら気づくのでは、その後の行動パターンが変わってくる。気づかされてやるのでは、やらされ仕事になってしまい、モチベーションは上がらない。しかし、自ら気づいたことなら、自ら積極的に取り組むようになるのだ。しっかり肝に銘じたい。

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