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2013年冬、J‐WAVE公開収録での大恥

「なんで俳優になろうと思ったの?」
オーディションや初対面の方と会った時によく聞かれる。
「朝ドラのあまちゃんを観て、この世界を仕事にしたいなと思ったのが入口です」と答える。
すると、「宮藤官九郎さん好きなんだ」、「今までやったのはコメディが多いの?」とか、または次の質問へ行くことがほとんどだ。

だが、数度「あまちゃんを観てどう思ったから、俳優になりたいと思ったの?」と聞かれる事があった。
…その通りである。僕の返答には、問いの肝心の部分がない。
それは自身が、その芯の部分を言語化するまで思考できておらず、ぼんやりとしているからだ。

「毎話15分であんなに感動できるドラマに出会ったことがない」

「脇役にも全て愛とこだわりがあって、次々出てくる役者さんをあんなに調べたドラマは初めてです」

「世代ではないですが、小泉今日子さんと薬師丸ひろ子さんが共演且つ元アイドルという役柄で劇中で歌も歌い、しかも薬師丸さんの歌の影武者がキョンキョン…!こんな夢のような結びつきがまさにエンタメであり、希望だと思いました」

全て事実なのだが、何か定まっていない。
俳優をやるに至る決意としては、なにかぼんやりしている。

「どう思って、俳優になると至ったのかが言語化できるようになれば、一つ上に行けると思うよ」

ある監督がそうおっしゃってくれた。
そこから常に頭の片隅にあり、考えるようになった。
そしてある日、そこに言語化できそうな解が出てきた。

「J‐WAVEの公開収録だ…」

あまちゃんが放送された2013年夏の数か月後。12月クリスマス直前。
あまちゃんと、このJ‐WAVEの公開収録での大恥によって、僕は俳優を決意したのだ。

《2013年12月。J‐WAVE・家入レオのラディペディア》

その1年前の2012年夏。
高3で部活も引退し、大学受験の勉強を始めていた。
その時期にやっていた天海祐希さん主演のドラマ「カエルの王女さま」。
その主題歌が家入レオさんの「Shine」だった。
僕はその曲を聴いて、ファンになり、無事大学に入学出来たら、ライブを観に行くことを目標に勉強した。

そして無事、受験ストレスによる肌荒れと、視力が大幅に落ちコンタクトになることを代賞に、大学に入学。
その秋、台場にあるZepp Divercityの家入レオさんのツアーライブに行った。
僕にとっての初ライブだった。
初ライブの余韻は特にたまらなかった。
ライブ終了後、このまま家に帰りたくない、余韻に浸りたくて、台場を散歩して、台場のサイゼリヤでミラノ風ドリア、チョリソー(ポテト付き)、コーンスープ、ドリンクバーの個人的黄金セット食べて、アクアシティの映画館でSPECをレイトショーで観て、そしたら終電ないのでダイバーシティ東京近くのベンチで横になり、始発を待った。
11月下旬の台場。めちゃくちゃ寒かったけど、最高だった。
サイゼリヤのコーンスープはなぜあんなに美味しい。

ライブでより火がつき、家入レオさんが日テレ・PONのゲストの日には汐留のスタジオまで行って窓越しから見にいったり、CDフラゲ日にはタワレコのパネルと写真撮りに行ったり、CDお渡し会に参加するなど、とにかく追っかけてた。
そして毎週深夜24時から2時間。生放送のラジオ・家入レオのラディペディア。当時はradikoのような配信アプリもなかったので、毎週その時間は起きて、リアルタイムで聴いてた。

そして12月。そのラジオでの公開収録参加の募集があり、まさかの当選。
しかも、公開収録に当選したリスナー数名の質問に家入さんがその場で答える。

「なんとしてでも選ばれて、家入さんと話したい!」
「公共電波に僕の声をのせたい!」

僕は収録日に近いクリスマスだからこそ盛り上がるだろう質問を絞り出し、番組に送った。

当日。
会場は六本木ヒルズ森タワー33階のスタジオ。

「六本木ヒルズ‥‥」

まずそこに驚き。テレビでしか見たことのない六本木ヒルズ。年収数億の芸能人が住んでいる六本木ヒルズ。朝型より夜型の人が圧倒的に多く住んでそうなヒルズ。平日昼に犬とエントランスから出てくる人が多い印象のヒルズ。住んでる人全員がサングラスを最低3つは持ってそうなヒルズ。

近未来なのかくらいな高速エレベーターに乗り、33階。
社会人になり、沢山のエレベーターに乗ったが、今でもこの時ほどの近未来エレベーターには出会っていない。

33階スタジオ到着。
公開収録用なのかは分からないが、ここでもガラス張りの宇宙船に乗ってるかのようなスタジオ。

そして説明を受け、待っていると、スタッフの方が近づいてきて、

「古堅さんの質問、リスナーとのやり取りの場面で家入さんが読み上げますんでよろしくお願いします!」

「あ、そうなんすね。了解です」

スタッフさん、ブースへ戻る。

来た来た来た来たぁああああァァァ!!・・・んんっ?

「…トークを面白がってもらえば、またラジオに呼ばれ、そこから他のJ‐WAVEの番組に呼ばれ結果を出せば、また縁が生まれ、俳優になれるんじゃないか」

このルート、僕の結果次第ではありえないとは言えないな…
欲とプレッシャーが溢れ出た。

そして家入レオさん、スタジオ入り。
全パーツが僕らの数段小さく整っている且つ、肌の輝きが凄い。

番組がはじまり、中盤。
遂に公開収録・観覧者の質問が読まれるコーナー。

「続いて、ラジオネーム・ごめんなサイドステップさん」
僕の質問を家入さんが読み始めた。

「僕は一度も彼女が出来たことがないのですが、今大学で気になっている人がいます。一度ごはんに2人で行きました。今度その人をクリスマスに誘おうと思っています。ただバイト先の店長がクリスマスの人が足りなくて困っていて、さらに「クリスマスはハードル高いから、別日にした方がいいよ。だからシフト入ってほしいな」と懇願もしてきます。
その子をクリスマスに誘うか、店長の為にバイトを入れるべきか、どちらがいいのでしょうか?」
(たしかこんなニュアンスのメールだったと思う)

「え~!羨ましい!!青春ですね!」
的なニュアンスで家入さんも喰いついてくれた。

ただここからが、邦画のよくあるキャッチコピー的な感じで言うと、終わりのはじまり。

家入さん「彼女さんいそうな感じしますよ!」
(たしかこんなニュアンスの事を家入さんが投げかけてくれていたと)

僕「そうなんすよね~~!!」

何がそうなんすよねだよ。帰れ、ばか。
世の「そうなんすよね」史上、最悪の声量とトーン。
欲まみれで、とにかくガツガツさが凄い「そうなんですよ」

そこからは、まさにつまらない素人のでしゃばり。
またほぼ無名のタレントが今日売れようとしてるときのような身勝手な空気の読みの悪さ。

これは唯一の救いなのだが、自身が行ってる途中でそれらに気づいた。
そしてその瞬間、アイドルの方が緊張やプレッシャーでよく記憶がなくなると言うがそのような現象が僕にも初めて起きた。

・家入さんのどんどん困っていく顔
・僕の話がまとまりがない且つ、言葉は違うが同じことを何度も繰り返して言ってる

それだけがうっすらと残っている。
だから肝心の家入さんが、質問にどう返してくださったのかも全く覚えてない。その後の番組の記憶もほとんどない。
ただ手ごたえの悪さは確実にもっていた。

そして収録が終わり、エレベーターへ向かっていると、

同じく観覧に来ていた僕と同年代の女子2人が
「…頑張ってましたね…」
と言い、去っていった。泣きそうになった。
あそこまで「頑張ってましたね」=「スベッてるの見ててこっちまでキツかったです」のサブテキスト的頑張ってねを初めて聞いた。

記憶がほとんどないので、主観的に判断してるだけでもしかしたらそこまで悪くない、むしろまあまあよかった、自分に厳しく判断しすぎたのではないかと一縷の望みも願っていたのだが、やはり身勝手で見苦しく、スべっていたんだな…

そして数週間後。あの公開収録のOA日。
リアルタイムで聴いた。…予想以上に出しゃばっていた。
あと自分の声、こんな声してるのかと幻滅もした。

恥ずかしかった。
「これ公共の電波に流れてるんだな…」

その夜は眠れなかった。あと怖かった。明日電車に乗り、大学に行くのも少し怖気づいた。大学で誰かに気づかれて、陰でコソコソ言われてたらどうしよう。

ベッドでそんな事を数時間考えた時、ふと思った。

この悔しさと恥ずかしさどうにかしたい。いつか絶対払しょくさせてやる。
あまちゃんを観て、漠然と俳優という仕事に興味を持ったぼんやりが、この恥ずかしさと悔しさがプラスされて、チャレンジしようという勇気に変わった。

そして現在。
まだ家入レオさんにもお会いできていないし、ラジオ番組も出たことがない。まだ恥ずかしさも悔しさも払しょくできていない。

いつかお会いできたときに、タイミングがもしあれば、
「あの時の公開収録のあと、その子をクリスマス誘ったら、わたしクリスマスは家族でホームパーティーがあるのと言われ、断られました。
でもその時期の家入さんが出した『太陽の女神』と『チョコレート』の楽曲のおかげで救われました」と伝えよう。
もし言える際は、ガツガツ言わず、また同じ話を言葉を変えて何度もループさせないを肝に銘じて。

あと公開収録の時に「…頑張ってましたね…」と声をかけてくれた女子2人は、その後ライブやイベントで何度かお会いした。その際向こうから声をかけて下さり、

「イベント当たったんですね!またお会いできてうれしいです!」
「お久しぶりです!今日は座席どこですか?え、めちゃくちゃ前じゃないですか!」

など毎回向こうから、楽しく話しかけてくれた。
あの時のサブテキスト的頑張ってましたねは、心からの「頑張ってましたね」だとこの2人を見て、確信した。
心の底からやさしい家入さんファンの2人だった。
それと同時にサブテキスト的頑張ってましたねと解釈した僕の心のゆがみを感じた。
そんな解釈して本当にすみませんでした。
いつかお2人に僕のラジオも聴いてもらえるように頑張ります!

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