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山のように積み重なった仕事は「脳のリソースを空ける」ことに全振りすると円滑に進むのでは、という話

仕事が複雑化してきたり、やることがどんどん重なっていったりすると、とにかくその仕事を片付けることに集中しがちだ。もちろんその行動は正しい。目の前に大きな仕事の山がある。対処しないとその山はなくならない。であればやるしかない。当たり前の話である。

一方で、ずっと大量の仕事を処理し続けていると、脳の処理能力が落ちる。つまり生産性が下がっていく。生産性が下がった状態で更に仕事をこなさないといけないから、仕事を完了させられる時間軸がさらに長くなってしまう。脳が100%の処理能力であれば1日で終わる仕事も、50%の処理能力なら単純計算で2日かかる。

ではどうすれば良いかというと、「脳の処理能力を落とさずに仕事をし続けるにはどうすればよいか」を考えるしかない。脳の処理能力は、脳をフル稼働し続けると擦り切れていってどんどん低下していく。故に、常に脳を100%稼働させるのではなく、最大でも70-80%稼働で仕事を処理し、残りの20-30%で脳を休ませる、というサイクルを作ることが重要になる。タイトルにある通り、「いかにして脳のリソースを空けるか」が焦点だ。

ただし、脳のリソースを空けるといっても、単純に20-30%休んでいたら生産性がその分落ちるだけである。重要なのは、「何をやらないか、何を考えないかを『適切に』選択する」ことだ。

その際のコツは、「仕事を単純なモデルに置き換えて考えてみる」ことである。大量の資料を作らないといけないとしたら、まずは「誰が」「何を」「どの程度」知りたいのかを抽出して考えてみる。大量のデータを突合しないといけないとしたら、「どのデータを正として」「どのデータを突合し」「どこの部分の差分を見つけ出せばよいのか」だけに絞って考えてみる。例えばこういうことである。

物事を単純なモデルに置き換えて考えるのはかなり汎用的な力だ。この能力が図抜けて高い人も世の中には存在し、そういった人は知的生産性が非常に高い。著名なのはノーベル経済学賞を受賞している経済学者、ポール・クルーグマンである。

彼がたびたび引用する話として、「ベビーシッター協働組合の寓話」というものがある。経済学で「流動性の罠」と呼ばれる現象がどのようなメカニズムで発生するのかを単純なモデルで説明している寓話であり、もちろん現実社会を全て映し出しているわけではないのだが、本質を掴むうえで示唆に富む内容だ。山形浩生氏がHPで論文を翻訳しており、詳細はこちらを見てみてほしい。

ちなみにこの寓話はクルーグマンの専売特許というわけではなく、元々は経済学者のスウィーニー夫妻が自分たちの経験を基に分析した結果を論文にまとめたものだ。クルーグマンが好む思考様式だったので、たびたび引用しているということである。

なぜ「単純なモデル」に還元することが推奨されるかというと、考えるべきことが著しく少なくなるからである。細かな要素を1つ1つ拾い上げていくと100個のことを同時に考えなければならないとしても、3つの論点に集約してモデルに還元することができれば、考えることは3つだけになり、その3つを考えていけば自動的に残りの97個も考えたことにできる。最初の話に戻ると、脳のリソースを空けることができるので、その分は脳を休ませることができ、パフォーマンスが維持される。この好循環を回し続けることができる。

大量の仕事、細かな仕事、複雑な仕事に飲み込まれてしまったら、必ず単純なモデルに還元してみる。モデルを忘れてしまいそうになったら、一度立ち止まってモデルに立ち返る。これを徹底することで、とても終わりそうもない仕事も「急がば回れ」方式で最も効率的に完遂することができるというのが個人的な経験と観測に基づいた考えであり、現時点で私自身が拠り所にしている仮説でもある。



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