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俺がGenjiだ! 第VII章 「We Are The World」

第VII章
「We Are The World」

1985年にアメリカで「We Are The World」と言う曲がヒットした。 この曲はアメリカの著名アーティストが中心になって作られたチャリティーソングで、アフリカの 飢餓と貧困をなくすために作られた。 メロディー部分を様々なアーティストが引き継いで唄って作られていて、 ジャンルを越えたアーティストが30人以上も登場し、そのような初めての試みもあり、世界中で大 ヒットし、多くの人がこの曲でアフリカの抱えている問題に関心を持つようになった。

その曲をパロディーにした曲を作った日本のアーティストがいる。 KKさんである。作詞はKKさん、作曲は僕。多くの有名アーティストが参加して作られた曲であるにもかかわらず、意外とその曲の存在は世の中的にはあまり知られていない。 レコード会社や事務所との契約などもあって大々的には公表されなかったのも原因なのかも。その当時僕はKKさんのバンドのリーダーをやっていた。
今回はそのKKさんについて。


そのKKさんのバンドのアルバムを作っていた時のこと。 「ゲンさん(僕のこと)次の曲はWe Are The Worldのパロディー曲で行くから」 と電話があった。
「えっ?We Are The Worldのパロディーですか?どうやって作るんですか」
「明日までにメロディーを考えといて。その上でどうするか考えるから」 KKさんとの曲作りはいつも急な話で、そんなに器用な音楽家ではなかった僕にとって、 いい意味で試練でもあり、勉強にもなり、なおかつ面白くもあった。 この曲を作る以前にも、同じようなことが幾度となくあった。

KKさんのバンド用のレコーディングが次の日に予定されていたのだが、 前日までに何も知らされなくて、心配でKKさんに電話した。 

「明日のレコーディング、どうなっています?」 「そうだったね、どうしようかね」 「えっ、スタジオ、予約してあるんですよね」
「うん、夕方からね」「やる曲とか、アレンジとか、何か決まっていますか」 「いや、何も決まってない、アハハハ、どうしようか」 KKさんはいつもこんな感じだ。普通だったら慌てて焦ってしまうのだが、泰然自若というか、いい 加減というか、マイペースというか、能天気というか、楽観的と言うか、周りの人間がいつも振り回されてしまう。

「ゲンさん、これから時間ある?」 時間がなくても、時間を作らないと。明日の事は何も決まっていないのだ。このまま行くと、何も 用意しないままスタジオに行く事になる。そうなると大変なのは僕なのだ。 「は、はい。今日これからだと大丈夫ですけれど、もう9時近いですよ」 「大丈夫、大丈夫、家に来てもらって打ち合わせしようか。そうそう、ドラム・マシーンも忘れず に持ってきてね」と言われてKKさんの家におじゃますることに。

「アイデアとイメージはもう頭の中にあるんだよ。ただ具体的なものは総理大臣のロックンロール、 と言うキーワードだけね。まだ全部出来ていないけど、こんな感じ。いまメロディーを考えて」 「今ここで作るんですか?」 「そうだよ、そこのピアノで作ってみて。難しく考えなくていいからね」 1時間くらいで大体のメロディーを作ってお伺いを立ててみた。 「こんな感じでどうです」と言って、拙いピアノを弾きながら、KKさんに聴かせると、 「うん、いいんじゃない。そんな感じで行こう」
えっ、こんな感じでいいの?と思いながらも、 「ところで、明日のレコーディングのミュージシャンとか、アレンジの方向性とかは決まっている んですか?」 「いや、決まってないよ、どうしようかね。誰か適任のミュージシャン居る?ゲンさんの仲間でい い人がいれば決めてくれていいよ。任せるね」と言われて、もう夜中の12時近くだ。 これぞと思うミュージシャンに電話してみた。
幸運なことに連絡したミュージシャンは全員空いていた。胸を撫で下ろしたその後のことだ。 

「アレンジとかはどうするんですか?」
「ゲンさんがいれば何とかなるでしょ」「そんなの無理ですよ」「大丈夫、大丈夫。いつものようにドラムを打ち込んで作って、あとはロックだから、構成さえ決めればできるんじゃない」 「じゃあ、ドラムのパターンを用意しますので、それが出来たら構成を考えましょうか」 「そうだね、じゃあ歌詞は今何とか1番だけ考えるからゲンさんは構成を考えてドラムのパターン を打ち込んでみて」
「了解です」

1時間ほどでお互い何とかラフなものが出来上がった。 「ロックといっても、ちょっとひねった方が面白いから、盛り上がる部分と暗い部分のコントラストがある方がいいかな」 KKさんの音楽は普通のアーティストとは違ってブラック・ユーモアがあると言うか、普通の音楽とは少し違うタイプで、どの曲も少し捻ってある。だから普通の曲を作ると、あまりいい顔をしない。今回もそうで、曲のどこかに捻りを作らねばならなかった。 明るくてハードな部分と暗くてしんみりした両極をうまくミックスして、ちょっと変わったロックの曲を何とか形にした。
「後は明日のレコーディングの時にやりながら考えようか」 「えーーっ、まだ完成してないですけど、大丈夫ですか」 「何とかなるって、音楽ってそんなもんだよ」

そんなやりとりがあって、翌日のレコーディング。 KKさんは歌詞を全部作ってきた。そうなると、俄然こちらもイメージが湧いてくる。昨日作った構成を少し調整しながら、参加してくれるミュージシャンのアイデアも取り入れていくと、面白いよ うに全体のイメージがくっきりしてくるではないか。 その後、レコーディングは終始スムーズに運び、無事に終了。
意外(?)と面白い曲に仕上がった。

何なんだ、この感じ。たった2日、いや、時間にしてみれば1日。そんな短い時間で曲から歌詞からアレンジまで出来上がる。これはKKさんマジックだ、とそのとき感じたのを覚えている。 ちょっとしたひらめきを具体的なものにしていく潜在的想像力とでも言うか、KKさんは大したこと をしているわけではないが、KKさんの一言一言が結果的には僕や周りの人間を行動させる所に繋が っているのだ。クリエイティブの原点を教わったような気がした。 その曲はその後完成して「ロックン・ロール最後の日」という曲でリリースされた。

そうそうWe Are The Worldのパロディー曲の話に戻そう。

今回も何も決まらないまま、スタジオに行くことに。
決まっているのは、「We Are The World」のパロディー曲を作ると言うことだけ。 後は、その時点では誰が参加するかは決まっていなかったが、いろんなミュージシャンが参加することは決まっていた。曲のテイストはファンク系ロック。

スタジオで前日に考えたメロディーを聴かせると、 「ちょっとイメージが違うなー、ちゃんとしたメロディーでなくて、何かモチーフ的なメロでいいんだよ。そこのピアノで色々聴かせてくれる?」
そこで僕はまた拙いピアノを弾いていると、 「ゲンさん、いま左手でバッキングしているのがメロディーでいいんじゃないの」 「えっ、こんなシンプルなメロディーでいいんですか」 「クラシックじゃないんだから、ロックなんてそんなアバウトなところから生まれるんだよ」

僕の場合は、少し頭でっかちになって、頑張っていいメロディーを作らなきゃ、と言う気負いが強すぎたようだ。何となく遊んでいたら出来た、みたいな感じが良いのだ。 KKさんのそういったちょっとしたアドバイスの言葉に多くのヒントが含まれている。それはKKさんの元々持っているセンスもあるのだろうが、そのセンスを磨く沢山の経験も影響しているのであろう。

KKさんは、その当時人気だった音楽ヒットチャート番組の司会を⻑年やっていて(現在も続いてい る)、音楽に関してはものすごく詳しい。特に洋楽に関しては“生き字引”とまで呼ばれるほど、なんでもよく知っている。海外の一流アーティストへのインタビューも多く、そういったアーティストから沢山の音楽を作るヒントや考え方を吸収してきたのだろう。音楽の教育を受けてきたことのないKKさんの方が、僕のような音楽教育を受けてきた人間より音楽の本質を理解しているのだ。
KKさんのその一言のおかげで、その後は全体が不思議なくらい簡単に出来上がった。 しかし、その時点で全体の仕上がりがどうなるかは半信半疑な状態で、何となくWe Are The World のパロディー曲のメロディーは出来上がっていた。

「この曲の構成とかはどうするんですか?」と僕が尋ねると、 「オケを録ってとりあえず僕が全部の仮歌を唄うから、4小節ずつぐらいを色んな歌手に差し替えて作っていこうか。10人くらいのアーティストが参加してくれるだろうから、それだけの分の歌える部分を作っていかないといけないので、それも考えて構成を作ってみて。あと、何か仕掛けにな るような部分があるといいけどゲンさん何かアイデアある?」 と言われて、このミディアムテンポのファンクだとどうすれば良いか考えてみた。

「ジェームス・ブラウンがよくやっている曲の途中で合図してブレイクする仕掛けはどうです?」 「うん、面白いね。ワンタイムとか言ってブレイクするやつね。それやろう。ただどこかに、一発 とかじゃ面白くないから、10発みたいなの入れない」 と言うことで、いろんな形のブレイクを作った。

それから、毎日色んなアーティストが入れ替わり立ち替わりスタジオにやってきた。 スタジオに来ることができない人は、カラオケを渡して歌だけ録音してそれをオケに入れて行く。 歌詞はそれぞれのアーティストが独自で考えてくるので、それぞれがすごく個性的。それぞれが関係なく作ってくるので、歌詞の脈絡が無茶苦茶、しかし、並べてみると、それぞれの個性が強力なので、変な統一感が生まれてくる。不思議な感じだった。最終的にはKKさんも含めて12人が参加して豪華なラインナップになった。

桑田◯祐、細野◯臣、タ◯リ、忌野◯志郎、伊武雅◯、伊◯銀次、鮎◯誠、竹中直◯、世良◯則、 もん◯よしのり、石◯凌、

凄いメンバーがレコーディングに参加した。 これだけのメンバーが1曲に参加したことは音楽史上それまでにはなかった。

こんな事が出来たのは、KKさんの人徳と人脈の為せる技だ。 当時は契約のこともあって名前は明らかにされなかったが、 声を聴けば明らかに誰が歌っているのかはわかるはず。 ヒョッとするとソックリさんかも。 惜しくもこの曲は色んな理由でシングルカットはされなかった。 もしシングルカットされていれば歴史に残る迷曲(?)になっていただろう。

 曲名は「You Are Bad Girl ウイアーザニッポンイチ」



KKさんこと小林克也さん、 そしてバンドは「ザ・ナンバーワン・バンド」

このバンドほど自由で面白いギャグ・バンドはなかった。 音楽の楽しさと面白さを満載したバンドだった。今ではこういったバンドは見ない。 克也さんのアーティストとしての才能とその場の閃き感覚は今でも健在だ。 克也さんのこの感覚はその後の僕の音楽人生、いや人生そのものにも役に立っていることは言うま でもない。深く感謝している。

また、ある日急に「ゲンさん明日レコーディングするから曲つくっといてね」 と電話してこないかな。

いつでもOKですよ、克也さん!
                                                               沢井原兒

恋は危ない/ザ・ナンバーワン・バンド
ケンタッキーの東/タモリ&小林克也

Podcast番組「アーティストのミカタ」やっています。

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