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文献紹介『UFOと宇宙人全ドキュメント』

文献紹介

デニス・ステーシー&ヒラリー・エヴァンス編
花積容子&藤井純一郎訳
『UFOと宇宙人全ドキュメント』
ユニバース出版社、1998年、486頁、本体価格2800円
(ISBN4-89665-121-9)


 本書『UFOと宇宙人全ドキュメント』は、Hilary Evans & Dennis Stacy. ed. UFOs 1947-1997: Fifty Years of Flying Saucers(1997)の邦訳である。
 カバーには「世界UFO事件50周年記念出版」とあるが、文字通りこの本は「空飛ぶ円盤」という言葉が生まれるきっかけとなったアーノルド事件発生から50年目を記念して、UFO研究者31名の論考などを集める形で製作された。
 本書の構成と各論考などの著者は以下の通りである。

◎プロローグ
 ● 世界をゆるがせた8つの重大UFO事件(デニス・ステーシー)
◎Ⅰ 1940年代の事件
 ● 1947年:世界中でUFO目撃事件続出(ジャン・オルドリッチ)
 ● アメリカ空軍への目撃報告(ケネス・アーノルド)
 ● 北欧のゴースト・ロケットとドゥーリトル将軍(アーンデシュ・リエーグレン)
◎Ⅱ 1950年代の事件
 ● UFO史上最上のインチキ事件?(カール・プフロック)
 ● UFOの名だたるペテン師たち(ジェームズ・モズリー)
 ● UFOの導師アダムスキーと彼の信奉者たち(マルク・アレ)
 ● UFO異星人訪問神話の誕生(ジェローム・クラーク)
 ● 円盤の黒い人影:UFOのオーストラリア侵略(ビル・チョーカー)
 ● ドナルド・E・キーホーとペンタゴン(マイケル・ソードズ)
◎Ⅲ 1960年代の事件
 ● 科学者たちのUFO追跡(ジャック・バレー)
 ● イギリスの「UFOの首都」(ジョン・リマー)
 ● アメリカ空軍UFO調査機関「プロジェクト・ブルーブック」最後の数年間(ヘクター・クィンタニラ)
◎Ⅳ 1970年代の事件
 ● カナダの大平原に着陸したドーム型物体(クリス・ルトコウスキー)
 ● UFOに吸い込まれた4人の大学生(レイモンド・ファウラー)
 ● 死んだ雌牛と「緑の小人」の記録(デイビッド・パーキンス)
◎Ⅴ 1980年代の事件
 ● UFO着陸の「科学的証拠」(エリック・マヨー&ジャック・スコルノー)
 ● 女性に科学的知識を授ける宇宙人(リチャード・ヘインズ)
 ● 黒い3角形の巨大飛行物体(ビム・バン・ユトレヒト)
◎Ⅵ 1990年代の事件
 ● 機密解除!スペイン軍75冊のUFOファイル(ビセンテ-ホワン・バレステル・オルモス)
 ● ルーマニア山中で乱舞する7色の光体(イオン・ホバナ)
 ● デンマークのUFO接近遭遇(キム・マーラー・ハンセン)
 ● アフリカの小学校に着陸した輝く物体(シンシア・ハインド)
◎Ⅶ UFOさまざま
 ● 数百万人が宇宙人に誘拐された?(パトリック・ユイージュ)
 ● UFO研究の過去と現在(リチャード・ホール)
 ● 旧ソ連科学者のUFO調査報告(ウラジミール・ルブツォフ)
 ● アメリカのUFO世論調査(ロバート・デュラント)
 ● UFO神話はこうして誕生する(マルセル・デラバル)
 ● UFO調査:6つの基本ルール(ジェニー・ランドルズ)
 ● UFO事件の陰謀と真実(ヒラリー・エヴァンス)
◎英語で出版されているもっとも優れたUFO文献リスト
◎訳者あとがき
◎索引

 こうして列挙してみるとよくぞこれだけのメンバーを集めたなと感心させられる。寄稿者たちはいずれもUFO研究界の第一線で活動してきた有名研究者で、その国籍は米国や英国だけではなくスウェーデン、ベルギー、スペイン、フランス、ジンバブエなど多岐にわたっており、またアーノルド事件の目撃者である米国の実業家でパイロットのケネス・アルバート・アーノルド(1915-1984)が米空軍に提出した「空飛ぶ円盤」の目撃報告書も収録されるなど、資料的な価値の高い豪華な内容となっている。
 さらに巻末には編者らが選定した実に71冊ものUFO文献リストのほか(残念ながら日本語に翻訳されたものはその内の11冊しかないが)、まともな索引も付いており、これまた参考になろう。
 ただ意外なことに本書には、20世紀において最も有名な空飛ぶ円盤墜落事件であるロズウェル事件についての記述が、皆無ではないにせよ極めて少ない。ロズウェル事件はその知名度や注目度が他のUFO事件に比べると群を抜いて高く、UFO研究家たちの間で長年にわたって議論の的になっており関連書籍も多々あることから(※1)、あえて独立したレポートを収録することを避けたのであろうか? いずれにせよロズウェル事件について調べる際は、本書だけではなくそのほかのUFO本も参照する必要があることを申し添えておきたい。
 UFO研究家に対して「何かにつけ宇宙人がどうした政府の陰謀がなんだと口にする怪しげな連中」などという、ネガティブな印象を抱いている人が少なくないことは承知している。
 確かにそのような研究家がいることは間違いないし、テレビなどのメディアによく登場してきたので、そう思われても仕方のない部分はある。
 だが本書に寄稿している研究者は、狂信的なUFO研究家やUFO陰謀論者の対極に位置する人たちだ。
 例えば第Ⅱ章の「異星人訪問神話の誕生」は、空飛ぶ円盤ないしUFOの正体を異星人の宇宙船とする地球外仮説が、いかにして生まれ広まっていったかを客観的に解説した名論考だが、UFO研究家に胡散臭さを感じている人が読んだら驚くのではないだろうか。というのも、執筆者のジェローム・E・クラーク(1946- )は地球外仮説の主要な支持者として知られた人だからである。
 いや彼だけではない。ほとんどの寄稿者たちはスタンスの違いこそあれども、冷静さと誠実さ、そして真摯な態度を持ってUFO現象の分析や解明に取り組んでいる。未解明の事件を無理矢理「解明済み」としてしまうこともなければ、逆に解明済みの事例を「未解明」であると紹介することもない。インチキなUFO事件は具体的な根拠を提示したうえでインチキであると看破している。このような姿勢は、UFOという複雑怪奇な現象をいかにして肯定または否定するべきかだけでなく、UFOという地球規模の謎に対しどのように向き合うべきなのかを私たち読者に示しているとさえいえよう。
「円周はどこからでも測れる」とは米国の超常現象研究家チャールズ・ホイ・フォート(1874-1932)の名言だが、本書はUFOに興味や関心をお持ちの方ならどの論考から読んでも何かしらの収穫を得られると思われる。そして他の論考へと読み進めて行く内に、UFOが一筋縄ではいかない存在ないし現象であることを実感させられるに違いない。
 早いもので本書が刊行されてからもう25年の歳月が流れた。だがその輝きは失われていない。もちろん古くなってしまった情報はあるし、一部、首をかしげたくなるような論考もないではないが、それでもこの『UFOと宇宙人全ドキュメント』は日本語で読めるUFO本としては最良のものの一つである、といっても過言ではないだろう。
 最後に編者について紹介しておく。
 プロローグを書いたデニス・ウェイン・ステーシーは米国のジャーナリスト兼UFO研究家で、OMNIやAir & Space Magazine、New Scientistといった有名雑誌に寄稿して来た。日本の超常現象雑誌『UFOと宇宙』のアメリカ通信員だったこともある。1985年から1997年まで世界最大のUFO研究団体であるMutual UFO Network(MUFON)の機関誌MUFON UFO Journalの編集に携わり、また書籍タイプの超常現象雑誌Anomalistの発行人でもあった。
 エピローグの執筆者であるヒラリー・アガード・エヴァンスは1929年、英国生まれ。ケンブリッジ大学のキングス・カレッジで英語を学び、バーミンガム大学にて修士号を取得。家庭教師を経て、1953年、広告代理店にコピーライターとして入社する。1964年、妻のメアリー(1936-2010)と共にMary Evans Picture Libraryを設立。1981年には超常現象研究団体であるAssociation for the Scientific Study of Anomalous Phenomena(ASSAP)の設立に尽力し、超常現象関連書籍のほか小説など多数の著作を発表したが2011年に亡くなった。82歳だった。
 UFOに限らず、超常現象に関する書籍はしばしば一方的なものになりがちだが、ステーシーとエヴァンスは単なる肯定と否定の両論併記にとどまらない、見事なまでに均衡の取れた本書を作り上げた。いつかこのコンビに匹敵するバランス感覚を持った研究者たちによって、21世紀の『UFOと宇宙人全ドキュメント』が編纂されることを(そして翻訳されることを)期待したい。


※1:関連書籍も多数あることから~
 本書に「UFO史上最上のインチキ事件?」を寄稿したカール・トムリンソン・プフロック(1943-2006)も、ロズウェル事件に関する本を2冊書いている。ちなみにプフロックはUFOの正体を未知の物体ないし現象だと考えていたが、ロズウェル事件で米軍が回収した「空飛ぶ円盤」の残骸については、米陸軍航空隊の機密計画「プロジェクト・モーガル」において使用された実験用の気球であると主張していた。

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