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文献紹介『人類はなぜUFOと遭遇するのか』

文献紹介

カーティス・ピーブルズ著
皆神龍太郎訳
『人類はなぜUFOと遭遇するのか』
ダイヤモンド社、1999年、493頁、本体価格2900円
(ISBN4-478-85015-1)
文春文庫、2002年、638頁、本体価格952円
(ISBN4-16-765125-4)


 本書『人類はなぜUFOと遭遇するのか』は、Curtis Peebles. WATCH THE SKIES!(1994)の邦訳である。
 題名にもあるように本書のテーマとなっているのはUFOである。
 原著は権威あるスミソニアン協会(※1)から刊行されたことでも話題になり、1995年にはペーパーバック版も発行された。構成は以下の通り。

● 主な登場人物・団体・用語
● 第1章 前兆
● 第2章 「空飛ぶ円盤」神話の誕生
● 第3章 UFO三大「古典」事件
● 第4章 エイリアン・クラフト
● 第5章 ワシントン侵略事件
● 第6章 CIAとロバートソン査問会
● 第7章 コンタクティの時代
● 第8章 全米空中現象調査委員会(NICAP)
● 第9章 一九五七年の目撃騒動
● 第10章 全米空中現象調査委員会VS.コンタクティ
● 第11章 六〇年代
● 第12章 コンドン・レポート
● 第13章 宇宙での接近遭遇
● 第14章 キャトル・ミューティレーション
● 第15章 アブダクション
● 第16章 ロズウェルとエリア51
● 第17章 「彼ら」はすでにここにいる
● 第18章 エイリアン・ネーション
● 補章 その後のロズウェル事件(UFO神話1994―1999)(皆神龍太郎)
● 記
● 解説 UFO神話に真っ向から切り込んだ画期的著作(瀬名秀明)
● 参考文献
● 索引

 これまでこのnoteではUFOに関する書籍を何冊かご紹介してきたが、いずれもUFO現象に対して基本的には肯定もしくは中立の立場を取るものであった。
 しかしこの『人類はなぜUFOと遭遇するのか』は、完全にUFO否定論の立場から書かれた本である。
 もちろん本書刊行以前にもUFOに否定的な本がなかったわけではない。だがそれらの多くは、情報が古かったり翻訳が良くなかったり、または参考文献が明確ではなかったりといささか難のあるものであった。さらに物理学者で早稲田大学名誉教授の大槻義彦博士(1936- )が書いた『UFO解明マニュアル』(筑摩書房、1992)に至っては、著者の持説であるUFO=プラズマ説(※2)に合うよう、UFO事件の細部がねじ曲げられていたりするのだからお話にならない(※3)。
 その点、本書は画期的であった。まず特筆すべきは情報量の多さである。本文は挿絵や写真一切なしの2段組みで、有名UFO事件の否定的情報がびっしりと詰め込まれている。事件を紹介する順番も時系列に沿っているため、まさにUFO年代記といった趣だ。
 また海外のUFO本が翻訳される際に割愛されがちな出典も明記されており、まともな索引もついているため調べたい情報にすぐアクセスできるのも魅力である。
 そして翻訳は疑似科学ウォッチャーの皆神龍太郎氏(1958- )が担当。UFO本の翻訳にはある程度UFOの知識が必要とされるが、日本屈指の超常現象懐疑論者である氏に関してはその点は心配いらない。さらに皆神氏による補章は、原著が刊行された1994年から本書刊行年の1999年までの「ロズウェル事件」の動向が実に要領よくまとめられており、これまた必読である。余談だが、皆神氏の著書『宇宙人とUFO とんでもない話』(日本実業出版社エスカルゴ・ブックス、1996)及びその増補改訂版である『UFO学入門 伝説と真相』(楽工社、2008)には、本書の原著が参考文献として挙げられている。
 作家の瀬名秀明氏(1968- )による解説も見逃せない。瀬名氏は第19回日本SF大賞を受賞した長編小説『BRAIN VALLEY(上・下)』(角川書店、1997。角川文庫、2000。新潮文庫、2005)を執筆する際、UFOに関する本を手当たり次第に読んだというが、その中で本書の原著に出会い大いに感銘を受けたという。瀬名氏のUFOに対するスタンスは肯定派でも否定派でもない絶妙なもので、好感が持てる。
 以上のような長所を持つ本書ではあるが、著者も人の子、残念ながら間違いや疑問点があることも確かである。
 例えば本書の第3章には、

 プロジェクト・サインは、一九四八年初頭に、コンサルタントグループを召集したが、彼らの仕事は、プロジェクト・サインが『本物の』空飛ぶ円盤事件に集中できるように誤った目撃報告を取り除くことにあった。オハイオ州立大学の天文学部長を務めていた天体物理学者のJ・アレン・ハイネック博士は、そんなコンサルタントの一人であった。

本書36頁

と書かれている。だが1948年当時、J・アレン・ハイネック博士(1910-1986)はオハイオ州立大学で物理学と天文学を教えてはいたものの、職階は准教授であって天文学部長ではない。ハイネック博士は1960年にノースウェスタン大学の天文学部長に就任しているので、そのことと混同してしまったのであろうか。ASIOSの『UFO事件クロニクル』(彩図社、2017)の「イースタン航空機事件」の項目にも同じ間違いがあるが、本書の記述を鵜呑みにしたものと思われる。
 また本書の51ページでは、「未確認飛行物体(UFO)」という用語が初めて公に使用されたのは、1949年4月30日付『サタデイ・イブニング・ポスト』紙に掲載のシドニー・シャレットによる記事だとされているが、同誌(Saturday Evening Postは新聞ではなく雑誌である)の該当号を調べたところ、確かに「unidentified flying object」という一文は出てくるものの、「UFO」という略語はどこにも使われていなかった。念のため、1949年5月7日号のSaturday Evening Postに掲載された空飛ぶ円盤に関する記事(こちらも執筆者はシャレット)も調べてみたのだが、「UFO」はおろか「unidentified flying object」すら使用されていなかったのである。
 インターネットで調べると「UFOという言葉の生みの親はシドニー・シャレット」だの「UFOという用語を提案したのはシドニー・シャレット」だのといった言説を目にするが、今のところそれらを裏付ける決定的な証拠はない。シャレットは問題の記事を米空軍の協力の下に執筆したので、「unidentified flying object」は空軍の誰かが暫定的に作った言葉だったかも知れないのである。
 いささか話が脱線してしまって恐縮だが、著者は「記」の中で次のように書いている。

 空飛ぶ円盤神話の魅力の一つは、ビリーバーであろうと懐疑論者であろうと、誰でもシャーロック・ホームズになって、謎を探求することを楽しませてくれる、という点にある。

本書425頁

 解説の中で瀬名氏も指摘しているが、この言葉は、UFOを信じることもしくは疑うことと探求することは決して相反するものではなく、両立できるということを示している。だが、いかに名探偵シャーロック・ホームズといえども、多様にして膨大な知識ならびに手がかりがなければ難事件を解決することはできない。本書はUFOという超常現象に挑む際の有力な手がかりの一つではないか……UFO肯定派歴30年以上の筆者の私感である。
 では最後に本書の著者を紹介しよう。カーティス・ピーブルズは米国の航空宇宙史家。1955年に生まれた彼は青春時代、航空機や宇宙開発などに夢中になり、1977年から著述業を始める。1985年にカリフォルニア州立大学ロングビーチ校で歴史学の学士号を取得し、1990年代にはスミソニアン博物館に、そして2000年代にはNASAのドライデン飛行研究センター(現在のアームストロング飛行研究センター)に勤務した。本の執筆や講演など精力的に活動していたものの、2013年に病に倒れ不可逆性記憶喪失となり、2017年にこの世を去った。62歳であった。
 残念なことに、本書と前述の文庫版は共に絶版になってしまっているが、古書なら入手可能である。特にプレミアがついているわけでもないので、UFOに興味のある方は是非ともご覧いただきたい。


※1:スミソニアン協会
 英国の化学者ジェームズ・スミソン(1765-1829)が、米政府に寄贈した全ての遺産を基に、1846年に設立された学術研究機関。本部はワシントンに置かれ、スミソニアン博物館の運営でも知られる。

※2:UFO=プラズマ説
 UFOはプラズマの発光体の誤認であるとする説。航空宇宙ジャーナリストでUFO否定論者のフィリップ・J・クラス(1919-2005)が1960年代に唱えたが、その後すぐに撤回された。

※3:UFO事件の細部が~
『UFO解明マニュアル』の問題点は、本書の訳者である皆神氏の『宇宙人とUFO とんでもない話』(日本実業出版社、1996)及びその増補改訂版である『UFO学入門 伝説と真相』(楽工社、2008)、そして以前にもご紹介した『トンデモさんの大逆襲』(宝島社、1997)所収の「日本のアンチ・ビリーバーは、だからトホホなのだ」に詳しい。さらに大槻博士の主張や論法の問題点については、志水一夫氏(1954-2009)の『宜保愛子イジメを斬る!! オカルト論争解明マニュアル』(スタジオ・シップ、1994)をご参照のこと。

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