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リブランディングの舞台裏②ーー顔と性格

ブランドとしての"顔と性格"をつくる

「真珠加工大卸」として、40年以上にわたって真珠の美しさの追求と真珠業界の発展に貢献してきたGENERAL PEARL。そんなGENERAL PEARLがリブランディングに着手し、あらためて、“芯から愛せる本物”を届けるべく、新たなスタートを切った。すでに改装を済ませたショールームやブランドサイトを筆頭に、今後も段階的にコミュニケーションのアップデートを予定している。なぜリブランディングすることに至ったのか?これからどう変わるのか?、背景にある思いや試行錯誤について、ゼネラル真珠株式会社 代表取締役の井口己征と、broom inc. 代表・クリエイティブディレクターの井本拓夢との対談をお送りします。

三幕構成の【中編】です。
ここでは、ブランドアイデンティティの構築過程について語りました。




目に見える具体のカタチへ


ーービジョンやポジショニングなど、ブランドの基本的な方向性が定まってからは、どのようなことをしたのでしょうか?

井本:
ここまでで定めた戦略や想いを、
実際に目に見える具体のカタチへと落とし込んでいきました。

まずは、おおよそのデザインコード("らしさ"を表現するための色や形の組み合わせ)の検証、
そしてそれを体現する媒体の筆頭である「ロゴ」のリデザイン、
その後、顧客体験のこれまでとこれからを見据えた上でのコミュニケーションやツールの具現化、
という順に進めていきました。

井口さん、この頃のことって覚えてますか?
今思い返すと、自分の中で思考や検証が完結したことで、お話ししていないこともある気がするので、
いい機会ですし、ちょっと振り返ってみれればいいな、と。

井口:
そうですね、わりとはっきり記憶しています。というのも、僕は旧ロゴを結構気に入っていたので、「あ、変えるんだ」ってなったんですよね。
でもきっと井本さんの中には、旧ロゴと新ブランドビジョンの親和性への違和感や、この先に見据える展開が頭にあり、一つのストーリーが見えているんだろうなと思いました。
なので、ロゴ変更については即答でGOサインを出したのを覚えてます。
この時点では、ブランドビジョンは定まっていたものの、その先の展開自体は僕の頭に何も描けてなかったんですよね。
だからこそ、新ロゴと共に描き出される未来の姿を見るのが、なんだか他人事のようですが楽しみな思いでした。

旧ロゴ → 新ロゴ

井本:
井口さんの言う通り、ブランドビジョンを通して描いたお客さまの人物像や、"偏愛的"というキーワードに象徴されるGENERAL PEARLのこれからの空気感をしっかりロゴには体現しておいてほしいと思っていました。

言うなれば、ブランドとしての方針を、非言語でぎゅっとした北極星的な役割というか。

ともすれば、旧ロゴに見られる可愛らしさやキャッチーさよりも、
おそらくもっと無骨で、でもその中に美しさも宿っている、そういうカタチがいいんだろうなぁと、
検証を始める前段階で、漠然と考えていたんですよね。


“らしさ”を映すと、きっと愛せる


井本:

それでまずは、GENERAL PEARL全体のデザインコードの検証を行ったのですが、一旦あえて、"向かうべきでない"イメージを組むことから始めました。

例えば、わかりやすいのは「書体」。
大手と同じ土俵で勝負しないポジショニングを体現すべく、
王道的な美しさを感じるセリフ書体を"向かうべきでない"としました。
その上で、段階的にどんどん印象をそらしていく。

真珠・ジュエリーを扱うものとしての気品を保ちつつも、
"一粒"に対する執着をはじめとする偏愛的な表現も許容できる
そんなレベル感を探りました。

こうした検証を、書体だけでなく色や形、さらに細かくは線の幅などでも、
行っていったイメージです。

デザインコードの検証プロセスの一例

井口:
これは初めて見ました。
こういうのって、一見創造力とか発想力とかそういう要素が強く見えるんですけど、プロセスそのものはとても論理的なんですね。
ロゴ自体の設計も、同じように進めていったのでしょうか?

井本:
もちろん感性は大切にしていますが、方向性を探る段階では、どっちかというと、
定めた戦略や思想などの意識すべきイデオロギーに即しているかどうかを重要視しています。
理屈抜き・センスで突き抜けるのもかっこいいとは思うんですけど、まだ出番じゃないというか。
それを土台に進めると、個人の好き嫌いによってブランドの表現が右往左往しちゃう時が来ると思うんです。

そんな考えもあり、ロゴでは特に、同様の検証を行う一方で、
真珠というドメインだけに寄りすがるのではなく、
しっかりとGENERAL PEARLらしい意味を込めたいとも考えていました。

このあたりは井口さんにも提案時に共有しましたが、
"GENERAL PEARLらしい真珠の捉え方"を、シンボルに反映しています。

こういうのって語られない限り、
お客さま含め第三者が見ても気がつくことはほぼないと思うんです。
でも、そうやって"らしさ"を映せれば、自社のロゴ延いては自社のスタンスを愛せる理由にはなると思うんですよね。

ロゴのストラクチャー

井口:
聞いてるだけで膨大な時間と労力が伝わってきますね(笑
ちなみに初めて新たなロゴと出会った瞬間は、良い意味でニュートラルな感情でした。
「これが新しいロゴか、よろしくね」みたいな。
こういうのって、いきなり100%気に入るものじゃなくて、自分たちの思考、言動、製作物がブランドビジョンに向かっていくなかで、どんどん腹落ちしていくものだと思うんですよね。
そういう意味で、今ではこのロゴが実にブランドビジョンを体現しているなぁととても理解できていて、リブランディングが進むごとにどんどん馴染んで愛着が湧いてくるのを実感していっています。

井本:
それは本当によかったと心から思います。
ロゴを見かけた時に、GENERAL PEARLだ!と認識してもらえたり、
ロゴ自体が、GENERAL PEARLを好きな理由の一つになったり、
いろいろ目論みこそあれど、実際に使う人たちが愛着を持てるっていうのが一番と思います。
やっぱり自分のことを好きでいられると、何をするにしてもモチベーションって上がるじゃないですか、
結果きっと、外に出たくなる・発信したくなる、
すると手数や質が上がり、好いてくれる人との接点も充実する。
人間と同じように、GENERAL PEARLも、そういうことになればいいなと思っていたので。

ロゴ

井本:
ロゴの設計過程で生まれた「GENERAL PEARLらしい"真珠の捉え方"」は、
そのまま「THIS IS IT, AND MORE」というタグラインにもなっていますよね。
「たった一粒でも、その背景には、重厚なストーリーがある」という、
お客さまに真珠をとことん知ってもらいたいという想いや、
「重厚なストーリーを踏まえて、この一粒がすべて。」という、
製品や真珠そのものの質を追求する姿勢や覚悟を映した言葉です。

井口:
この奥ゆかしい感じというか、読んだひとを考えさせる感じが気に入ったんですよね。
それでいて簡潔、潔い。
割と直接的にうちを表現しているので、読んだ瞬間に真意を感じとった記憶があります。

タグライン


ブランドとしての顔と性格


ーーロゴやタグラインなど、だんだんと具体が見えてきましたね。

井本:
そうですね、とはいえGENERAL PEARLにとっても、
お客さまにとっても、主語となるのはロゴやタグラインではなく、
あくまで真珠であり、それを通して得られる体験です。

なので、ツールなどを具現化する前に、
そうした"体験"を直感できるようなビジュアルづくりを行おうと提案しました。

真珠を手にすることで在りたい自分へと近づく、
そんな知的興奮をリアルに想像できるビジュアル、
それに、思想、ロゴ、タグラインなどを合わせて、
ブランドアイデンティティを形成しよう、と。
砕いて言うなら、「ブランドとしての顔と性格」をしっかりとカタチにしよう、という感じですかね。

GENERAL PEARLの場合は、そうして"顔と性格"が決まることで、
"立ち振る舞い"を計画しやすくなるとも考えていたため、
ぼくとしては、このプロセスを踏むことにとても前向きだったのですが、井口さんはどうでしたか?
このプロセスに限ったことではないですが、オーナー立場で見ると、
投資も勇気も必要なことだったなぁとも思うので。

井口:
確かにこういったビジュアルに費用を投じても、これ自体が儲けを生むわけではないので、理解するひと・しないひとは分かれますよね。
でも、これについては僕自身ももっとビジュアライズされた新しいGENERAL PEARLを見てみたい思いが強かったですね。
なので、たぶん誰よりもビジュアルを待ち望んでいたのではないかと思います。提案を受けたときも、これも即答でGOした気がします。

そして実際に出来上がったものは見事でした。
どこにもない、唯一無二の真珠ブランドが確かに形付いていく様子を目の当たりにしている気分でした。

井本: 
ブランドビジョンを通してマインドが、ロゴを通して空気感が、と
その両軸から、つくるべきイメージは比較的明瞭だったので、ラフを描く手も捗りました。

撮影にあたっては、フォトグラファーの鈴木さん、モデルの森宮奈穂さんをはじめ、撮影プロダクション、スタッフの方々にもめちゃくちゃ支えてもらいつつ、構想以上のものを具現化することができました。

Photographer: Toshinori Suzuki
https://www.instagram.com/toshinorisuzuki/

計画段階のラフ
仕上がった写真の一部
GENERAL PEARL キービジュアル


後編へ続く