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リブランディングの舞台裏①ーー経緯と方向性

「真珠加工大卸」として、40年以上にわたって真珠の美しさの追求と真珠業界の発展に貢献してきたGENERAL PEARL。そんなGENERAL PEARLがリブランディングに着手し、あらためて、“芯から愛せる本物”を届けるべく、新たなスタートを切った。すでに改装を済ませたショールームやブランドサイトを筆頭に、今後も段階的にコミュニケーションのアップデートを予定している。なぜリブランディングすることに至ったのか?これからどう変わるのか?、背景にある思いや試行錯誤について、ゼネラル真珠株式会社 代表取締役の井口己征と、broom inc. 代表・クリエイティブディレクターの井本拓夢との対談をお送りします。

三幕構成の【前編】です。
ここでは、リブランディング実施の経緯と方向性について語りました。




真珠加工大卸として40年


ーーGENERAL PEARLは、そもそもどういった会社なのでしょうか?
創業の経緯やこれまでの歩みについて教えてください。

井口:
弊社は1976年の創業より、真珠加工大卸を営んで参りました。加工大卸とは、真珠を加工して製品化し卸業者へ卸す「メーカー」です。弊社で製造した製品は複数の卸業者を経て、百貨店・路面店・通販などで販売されてきました。
2011年より、業界では先駆けとされるEC事業を開始しました。私自身がWebサイトの開発などを手掛けていた経緯があったので、自らサイトを構築し、広告を打ち始めました。
正直、インターネットで真珠が売れるとはあまり思ってなかったですね。当時はリーマンショックの影響を引きずっていて、父も会社を畳むつもりで従業員0人の超零細企業でしたから、僕も半信半疑で可能な範囲でやっていこうかなって感じだったのを覚えています。その当時まだ20歳ちょっとだったということもあり。
ところが、EC事業は開始直後から多くの反響を頂き、またたく間に成長していきました。なかば在庫消化試合のつもりが一転、あらたな仕入れと製造が始まりました。それからも試行錯誤しながらなんとか成長を続けることができ、2度の増床のための移転を経て、2016年に現在の場所にショールームを構えるに至りました。

ゼネラル真珠株式会社 代表取締役
井口 己征 / Kisei Iguchi
89年東京都生まれ。10代の頃よりIT業界に携わり、早稲田大学を退学しWEB制作会社を立ち上げる。WEBデザイン、ソーシャルゲーム開発、WEBアプリケーション開発をはじめとし、開発からマーケティングまで幅広く支援。2011年、家業であるゼネラル真珠株式会社においてEC事業を立ち上げ、2015年代表取締役に就任。真珠ブランド「GENERAL PEARL(ゼネラルパール)」を展開し、2021年東日本ジュエリーショップ大賞受賞。

井本:
たしかに、"真珠をオンラインで"って、お客さんの立場になって考えると、手間がかからない点はいいんですけど、むしろ手間をかけて選ばないと、真珠の場合、価格的にも品質的にもちょっと怖いとも思いますし、
EC事業を開始した当時の井口さんの心持ちにも頷けるなぁ、と。
成長があったのは、そのあたりのケアが当時からあったからなんですかね?

井口:
2011年当時のEC市場はまだまだ黎明期でしたからね。売れないだろうというより、ちょっとまだ早いだろうなという感じですかね。
そのためにもとった手段はシンプルで、オンラインでも店舗で買うのと同じ安心があるということを発信してました。お客様は、オンラインショップ同士で比較しているのではなく、近くの店舗と当社を比較しているのが明らかでしたので。そうして成長していくなかで、不明瞭だった需要そのものが明確に見えてきました。
僕らは市場から必要とされているという実感と嬉しさから、ゼネラル真珠を多くの方に愛される真珠ブランドに育てたいという思いが強く芽生えていきましたね。


果たして自分たちは何者か?


ーーリブランディングすることに至ったきっかけは何だったのでしょう?

井口:
順調な成長も、変化がなければいずれは売上は頭打ちすると想定していました。だから、頭打ちがやってくる前に変化させなければならない。
それまで僕たちは【低価格で高品質】という、弊社の最も強みである部分を武器に営業してきましたが、ありきたりなフレーズは他の会社様のサイトでも頻繁に見かけることが多くなってきました。
「このままでは埋もれる。埋もれないためにも、僕らだけにしかない価値を生み出し、提供し、広く認知してもらわなければならない。」
このとき初めて、自分たちが何者であるのかという問いにイマイチ正確に答えられない自分を自覚しました。
今一度、自己と向き合い、その姿を明確にしたうえで進んでいこうと考え、根本からのリブランディングへの道を歩み始めました。

井本:
井口さんの危機感・課題感は、まさにその通りだなと思いました。
どんな業態でも【低価格・高品質】は、お客さまにとって、
大きな魅力とは思いますが、競合が同じような水準で並んでくるのも、また常と思います。
そうした中で、単なる価格競争に陥ってしまえば、
"わざわざGENERAL PEARLで真珠を買う理由”がなく、他で買えばいいや、となりますしね。

井口:
そうですね、そういう状況に陥るのが最も恐ろしかったですね。
ところで、井本さんは当時の​​GENERAL PEARLについて、どう思っていましたか?

井本:
課題感に対しては先ほどの通りで、
GENERAL PEARLそのものやリブランディングを進めることに対しては、
すごーくポジティブな印象を抱いていましたよ!

大手とは異なる「経年変化」に重点を置いた真珠の仕入れや製品づくり、
対面でお客さまへ"一粒"についてとことん語る、ジュエリー業界らしからぬ接客スタイル、など、
すでにコミュニケーションの節々には独自の工夫が溢れ、
なんというか、“らしさの欠片“みたいなものがそこらじゅうに転がっていたので。

リブランディングの動き方としても、
まずはその散らばった“らしさ“を、知覚できる状態へとまとめることに徹しようと、初回オリエン時点で自分たちの役割をしっかり定義できたのも、
そうした印象が影響している気がします。

broom inc. 代表取締役・クリエイティブディレクター
井本 拓夢 / Takumu Imoto
92年愛媛県松山市生まれ。プロダクト→グラフィック→ブランディング、とデザイン領域を"はしご"する中で、手法に縛られない自由な視点と包括的な体験設計に可能性を見出し、現在のbroomの礎となるスタイルを確立、14年 個人で起業。 商品開発やサービス立ち上げなど様々なプロジェクトに携わる。17年 broomを設立、翌年法人化。ブランド戦略の立案から平面・立体のデザインまで、向き合う課題に応じてやわらかく視点を変えながら活動中。20〜21年にはヘルスケアテックminacolor inc.の執行役員/CDOを兼務。受賞歴として、DFAアジアデザイン賞、GOOD DESIGN AWARD、日本パッケージデザイン大賞など。
https://www.broom-studio.com

井本:
それと、伸びしろを強く感じたことが大きく2つあって。

ひとつは、"独自の工夫"の裏返しとも言えることなんですが、
ひとつひとつ個別に工夫が施された各コミュニケーションに、揺るがない信念や態度の"芯"が通れば、
どこを切っても、在るべきGENERAL PEARL像を感じてもらえる分、
もっと好きになってもらえるだろうな、と。
これは、世の中的にもよくブランディングに期待されていることの一つですね。

もうひとつは“顧客体験”。
たとえばショールームでは、真珠のことをよりよく知ってもらうために、
当時から、「飾る」よりも「触れる」ことに重きを置いていたわけですが、これもまた工夫が在って良い。
ただ、実際にその様子を見てみると、良く言えば"親しみやすく"、悪く言えば"雑"にも見えました。
そうしたサービス提供の仕方や見せ方を見つめ直し、丁寧に調整・具現化していけば、
より良い顧客体験を形成できるとも考えていました。

井口:
まさに井本さんの洞察力は正しくて、当時はいろんなことを試して、何も一貫性はありませんでしたね。
ある意味、通るべき道を通ってたんだと思うのですが、当時はお客様に僕らの製品を選んでもらうべく必死でしたね。
ただ、確かに今思えば何をするにもお客様が受ける印象を重視して工夫をしていました。メール文章ひとつをとっても、接客の言葉一つをとっても、細かく一つひとつ作り上げていました。
そういう意味でも、最初から顧客体験を重視してきたのだと思います。

GENERAL PEARL / ゼネラル真珠株式会社
東京御徒町にて1976年より、40年以上にわたって真珠の美しさの追求と真珠業界の発展に貢献してきた真珠加工大卸。「経年変化」に重点を置いた真珠の仕入れ・商品づくりを行う唯一のメーカーです。目先数年の見た目だけを求めるのではなく、長きに渡って美しさを保ち、芯から愛せる”本物”をお届けしたいと考え、研究し、商品づくりを実践しています。
https://generalpearl.co.jp


お客様の心をどう動かしたいのか?


ーーリブランディングはどのようなことから着手されたのですか?

井口:
まずは明確なビジョンが必要不可欠と考えていました。
しかし、そこで早速大きな問題がありました。それは「僕にはビジョンが何もない」という問題です。
経営者としてどうなの?って感じですが、あくまでも商品の品質と価格力で勝負してきたので、それ以上でもそれ以下でもなかったんです。
でもそれは、本当にビジョンが何もないのではなく、自らの内に秘めるビジョンを自覚できていなかったのだと、後に気付かされることになりました。

自分自身を理解することは本当に難しい課題の一つですよね。
あらゆる行動には必ず何かの意識が働いているはずで、けどその意識が自分にとって当たり前のことだと、それを認識することができない。
僕もそんな状態に陥っていて、リブランディングの最初から「そもそも語れるようなビジョンがない(と思ってしまう)問題」が発生しました。

そこで、一つひとつ謎を解き明かしていくかのように、強み、弱み、歴史、お客様からの評価、社内からの評価、外部からの評価、商材の特性などを確かめていきました。
そして浮かび上がってきたキーワードから、この会社の性格を言語化していきます。そしてそこから、僕らが本当にお客様に与えたいと思っているもの、お客様の心をどう動かしたいと思っているのかを突き詰めました。

本当にゼロからのスタートだったと思います。

井本:
この時点では、ぼくらはまだ伴走をはじめているわけではないのですが、きっと大変なプロセスでしたよね?
様々な業態のブランド開発に携わる中で、このあたりから伴走することも多いので、この重要性と難しさはとても共感できます。
あたりまえですが、"ビジョンを決める"と一口に言っても、実際の経営実態と乖離していては意味がありませんし、「もしかすると事業の可能性を閉ざしてしまわないか?」という心配もつきまとうわけですから、"自社を定義する・何かにフォーカスする"ということは、すごく勇気のいることとも思います。

井口: 
大変というか、正解がないものに対して一つの答えを出さなければいけない難しさを痛感しました。
とはいえ、なんとかこうしてブランドビジョンが形になりました。

このブランドビジョンでは、奥深い真珠の世界に触れたお客様の心が動きだす様子を描いています。
装飾品としての明るさや美しさといった機能ではなく、心の奥底にある好奇心や探究心に火を灯し、新鮮な情熱が静かに生まれていく姿を言葉に表しました。
真珠は美しさだけでは終わらず、その先にある本質的な価値がお客様を一歩前進させる―。
そういった真珠の持つ力をブランドビジョンにこめています。

策定したブランドビジョン
(※ 顧客が受け取る体験・経験を顧客主語で言語化したもの)

井本:
真珠のプロフェッショナルとしての自信に裏打ちされる力強さを感じます。
顧客が良い品や体験を求めるのは常ですが、
それに誰よりも真っ向から向き合うスタンスや、本質的な価値を追求する熱さが、GENERAL PEARLという会社のコアであると、この方針を通じて理解することができました。

井口: 
ブランドビジョンを実現するために、僕たちは、真珠そのものをより深くお客様に知ってもらわなければいけません。良いことも悪いこともすべて含め、お客様自身が真珠を理解することが必要不可欠なわけです。
そうした考えから、真珠と正しく向き合うための土台や仕組み作りが僕たちのMISSIONやVALUEに繋がっています。

このブランドビジョンの言語化が進みつつあるなかで、これから本格化するVIやコミュニケーションの開発を見据えて井本さんらbroomチームに参画していただきました。
僕たちは真珠のプロですが、ブランディングのプロではありません。僕は発注側なわけですが、プロの仕事に余計な口を出さないと決めてましたので、誤解を恐れず言えばそこから結構丸投げだったと思います(笑
丸投げとはいえ、頂いたアウトプットについてはその真意をしっかり理解するための打ち合わせを幾度となく行い、互いの理解を深めていきました。
そんな感じで、一歩一歩着実にリブランディングへの二人三脚が始まっていったのを覚えてます。

井本:
"丸投げ"については、ちょっとぼくの方からも誤認を防いでおこうと思うのですが笑、
任せてもらっている思考範囲が大きいだけで、やっぱり井口さんには井口さんの考えがしっかりあるんですよ。
ぼくらもそれを叩き台にできるから考えやすい。
GENERAL PEARLとして、はたまた、GENERAL PEARLのお客様にとって、何が一番いいんだっけ?
をそれぞれ違う着眼点から考えて統合していくことに意味があると思っています。


市場での立ち位置をつかむ


井本:

そんな具合に、ブランドビジョンの言語化が進みつつある最中、ぼくらは伴走を始めたわけですが、
はじめてまもなくチーム内で、後の様々な表現にもつながる
「偏愛的」というキーワードが飛び交い始めたのを覚えています。

大手をはじめ、他の真珠ブランドのほとんどが、
ジュエリーとしてのきらびやかな世界観を展開しているのを横目に、
GENERAL PEARLの場合は、真珠をジュエリー以前に"物質"として見ているというか、そういう偏愛的な要素を大切にすることで、
GENERAL PEARL独自の奥ゆかしい世界観を確立できるのでは、と。
また、あらかじめリサーチを進めていた真珠業界や競合の出方を鑑みても、
そこでの差異化という点に、しっかり結びつく感覚もありました。

井口:
偏愛的というキーワードはそれまで考えついたこともなかったのですが、聞いてはっとさせられたのを覚えてますね。確かに!って。
その言葉から、より一層ブランドとしての今後の振る舞いをイメージしやすくなった気がします。
よくこう表現するんですが、「真珠ってなに?」と聞かれたときに、大半は「宝石だよ」という答えが返ってくると思うんです。
でも僕らは「炭酸カルシウムだよ」と答えたいんです。
このジュエリーブランドらしからぬ感じをむしろ大切にしていこうという考えになったのは、井本さんのおかげですね。

井本:
GENERAL PEARLの根幹にたくさん触れたぼくが今抱いている、
多くの人が知らないこの認識や感覚をしっかり伝えていきたいな、と。
そしてゆくゆくは勝手に伝播していくような構造にできればいいなとも思います。

だからこそですが、
ここまでで大切にすべきと決めた"芯"を体現できているかどうか、
常に問いながら、今後のブランド開発を丁寧に進めていければいいなと思いました。


中編へ続く