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【こぼれ話007】マチルダとウッディ〜機動戦士ガンダム レビュー

マチルダとウッディ

第24話「迫撃!トリプル・ドム」第29話「ジャブローに散る!」でそれぞれ壮絶な最期を遂げたマチルダとウッディ。マチルダはオデッサ作戦の直前、黒い三連星の手にかかり戦死し、ウッディもジャブローに潜入したシャアのズゴックに叩き落とされ戦死した。

2人は婚約関係にあり、オデッサの戦いが終われば結婚する約束をしていたというこの2人。婚約者だけあって描かれ方も非常に似通っている。今回はこの2人について考えてみたい。

ホワイトベースにかける想い

2人とも誠実かつ冷静な性格で、職務にも忠実である。ダメダメな描かれ方をされがちな連邦軍の兵士の中にあってこの2人は非常に有能な人物として描かれている。

職務に忠実なだけではない。多くは語らないが熱い想いも内に秘めている。

黒い三連星のドム3機の襲撃を受けピンチのホワイトベース。ミデア機に駆け寄るマチルダはホワイトベースへの想いを独り言のようにつぶやいていた。

マチルダ「あと一息でホワイトベースは生き延びるというのに、こんな所でむざむざと傷つけられてたまるものか」

第24話

誰に向けて言ったわけでもない、思わず口をついて出たマチルダの偽らざる本心であろう。ホワイトベースにかける想いが存分に伝わってくる。

他方、ウッディも負けず劣らずホワイトベースに対し熱いものを持っている。

ウッディ「私はマチルダが手をかけたこのホワイトベースを愛している。だからこの修理に全力をかけている」
ウッディ「マチルダが命をかけて守り抜いたホワイトベースを、私の前で沈めさせることはできん!」
ウッディ「ジオンめ、それは俺達のホワイトベースだ」

第29話

ウッディの登場回は第29話の1回だけで、セリフもそこまで多くはない。しかし、その少ないセリフの中でここまでホワイトベースのことを口にするのはウッディのホワイトベース愛が本物だからにほかならない。

2人の死の描かれ方

2人の死の描かれ方もまったく同じだった。

マチルダはオルテガのドムの手にかかり、コックピットにダブルスレッジハンマーをくらって死亡。

第24話

ウッディはホバークラフトでシャアのズゴックに接近し、クローで叩き落とされて死亡。

第29話

左右は異なるが2人の死はまったく同じ構図で描かれている。

ガルマとイセリナの死も同じ構図で描かれていたことを想起すれば、マチルダとウッディの気持ちも通じ合っていたと思わせる印象的な演出である。

ただ、マチルダは補給部隊、ウッディは整備兵であり、どちらも後方支援部隊である。本来なら前線で自ら戦闘行為をするような立場にはないはずだ。2人は自分の職務から逸脱した行動をとって戦死しているわけだ。

ウッディ自身「お互いの任務」を果たせばそれでよいといっており、2人ともそのことを十分理解しているにもかかわらずである。言行不一致甚だしい。ここはホワイトベースにかける熱い想いが2人にそういうとっさの行動をとらせたと言うほかないだろう。

危機を救った2人の死

では2人の死は無駄だったのか。いや、そうではない。今のホワイトベースやガンダムがあるのは2人の活躍があればこそである。

マチルダがミデア機でドムに接近したのはガンダムのピンチを救うためである。

このときガンダムは2度目のジェットストリームアタックを仕掛けられ窮地に陥っていた。そこにやってきたのがマチルダの乗るミデア機である。マチルダはミデア機をドムに衝突させガンダムの危機を救った。

詳しくはこちらの記事を参照していただきたい。黒い三連星とガンダムとの攻防の妙味を静止画と文章でできる限り表現したつもりだ。

ウッディも同様だ。ジャブローへの降下作戦を実行したジオン軍。シャアのズゴックがホワイトベースに迫っている。

ガンダムがズゴックの前に立ちはだかるが、ズゴックの素早い動きに翻弄され気味だ。

そこに、ウッディのホバークラフトがズゴックに攻撃を仕掛ける。シャアの前にあえなく叩き落とされるが、その直前ズゴックのメインカメラを破壊していた。

これによりシャアは撤退を余儀なくされる。ホワイトベースはウッディの手によって守られたのだ。

このあたりもこちらの記事に詳しく書いたので参照してほしい。

2人がアムロに残したもの

先輩兵士であるマチルダとウッディからアムロは何を学んだのだろうか。

ウッディについてはこちらの記事で詳しく書いたので参照してほしい。アムロがかかっていた呪いを解いたのがほかならぬウッディである。

では、マチルダはどうか。アムロはマチルダとの交流で何を得たのか。マチルダがアムロに補給部隊を志願した理由を語るシーンを手がかりに考えてみたい。

アムロ「マチルダさん」
マチルダ「え?」
アムロ「なぜ補給部隊に入ったんですか?」
マチルダ「そうね。戦争という破壊の中でただひとつ、物を作っていくことができるから、かしらね」
アムロ「物を作る」
マチルダ「戦いは破壊だけでも、人間ってそれだけでは生きていられないと私には思えたからよ」
・・・
アムロ「マチルダさん」
マチルダ「ん?」
アムロ「僕、思うんです。マチルダさんって強い方なんですね」

第24話

普段は自分のことを語らないマチルダが自分の気持ちを説明する貴重なシーンだ。

マチルダは補給部隊を志願した理由を「戦争という破壊の中でただひとつ、物を作っていくことができるから」、「戦いは破壊だけでも、人間ってそれだけでは生きていられないと私には思えたから」と説明している。

戦争とは破壊の連続である。戦争によってありとあらゆるものが破壊される。兵器や建物、コロニーが破壊され、人々の生活や文化も破壊される。当然人命も失われる。当たり前だが、目を背けたくなる非情な現実だ。

そんな戦争の中で、マチルダの志願した補給部隊は兵器や弾薬、食糧など軍事物資を輸送・補給し、破壊された戦艦やモビルスーツなどを修繕することで戦力を再生させる。戦争という破壊の連続の中で、唯一再生を担う部隊だ。戦争は破壊だけではない。そこにマチルダは人間の本性なり希望を見出しているのかもしれない。

そんなマチルダの回答を聞いてアムロは「マチルダさんって強い方なんですね」という。なぜマチルダは強いのだろうか。なぜアムロはそう思ったのだろうか。

マチルダの言う通り、補給部隊は創造や再生を担う部隊である。しかし、再生された戦艦は再び戦地に出撃し、また破壊されて帰ってくる。またその戦艦を再生させ、送り出し・・・、戦争中はこれをいつまでも繰り返さなければならない。

こんなにがんばって再生させても戦地に出ればまた破壊されて戻ってくる。いや、もどってくればいい方だ。出撃し、そのまま戦場の露と消えてしまうこともあるだろう。マチルダはそんな部隊を数多く見てきたはずだ。

そこに徒労感や無力感、絶望感を抱くこともあったに違いない。しかし、また破壊されると分かっていても、マチルダは再生に尽力するはずだ。なぜならそれこそマチルダが戦争の中に見出した希望だからだ。

そんなマチルダを見てアムロは「マチルダさんって強い方なんですね」という。アムロが見出したマチルダの強さとは、戦争という絶望にあっても決して希望を失わない意志の強さである。

ウッディとマチルダという後方支援部隊の先輩士官とアムロの交流は実に象徴的である。アムロは最前線でガンダムに乗り、敵モビルスーツや戦艦をばっさばっさと切り捨てていく。いわば花形だ。しかし、アムロが花形でいられるのはウッディやマチルダといった裏方がいるからだ。

この2人との交流は、この後もずっと糧としてアムロの中で活き続けるに違いない。


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