演劇公演にSlack使ってみた
いわゆる小劇場界隈では、演劇公演推進のための各種コミュニケーションに、ほとんどの座組でLINEが使われているのではないかと思いますが、Slackというツールを適用してみたらかなりうまくハマった感じがあるので、どう使ったかを紹介します。
数年前に参加した座組でSlackが使われていてこりゃ便利だと思っていたのですが、基本的に私は役者参加という立場なので、ツール導入みたいなことはなかなか主張しづらく、鳴りを潜めていました。
今回、たまたま劇団主宰からかなり早い時期に声をかけてもらえていたため、企画始動前から主宰に入念なプレゼンを行い、全面的なSlack導入を了承してもらいました。
そのままSlack整備・運用も担当させてもらいました。
そもそもSlackとは?
アメリカ発のビジネス向けコミュニケーションツールです。チャットがメインで、基本機能は無料で使うことができます。演劇公演に使う分には無料の範囲内で十分です。
「チャンネル」というトークルームを話題に応じて自由に作成できることと、多種多様な”emoji”による気軽なリアクションがとれることが大きな特徴です。
組織単位の「ワークスペース」を作成し、ワークスペース上であらゆるコミュニケーションを完結させます。
今回は公演企画単位で一つのワークスペースを作成しているという前提です。たとえば「劇団四季 ライオンキング」というワークスペースを作るイメージです。
多くの人はスマートフォンから触ることになると思います。Android/iOS用アプリ、PCデスクトップ用アプリがあり(いずれも無料)、クロスプラットフォームで使用可能です。
機能活用 - チャンネル
今回の公演用に作成したワークスペース上にチャンネル(トークルーム)を複数作成しました。役者、舞台美術、音響などセクションに応じたチャンネルや、雑談系の各種チャンネルなどで、最終的なチャンネル数は40に及びます。
下記が今回作成したチャンネル一覧です。基本的にはどのチャンネルも参加は自由(役者がスタッフチャンネルに入ったっていい)ですが、チャンネルの目的やメンバーの役割によって参加チャンネルを決めたりしていました。
上記のチャンネル一つ一つが、一つのグループLINEのようなイメージです。
特に主宰の立場だと、スタッフのセクションごとにグループLINEを作っていることもあると思いますが、Slackで上記のようなチャンネル構成をとることで大量のグループLINE管理から脱却できます。
ちなみにプライベートチャンネルといって、「参加者以外には存在すらわからないチャンネル」を作成することもできます。たとえば、主宰陣がお金まわりの話をするためのチャンネルなんかが作られていたかもしれません。
機能活用 - emoji
Slackでは各メッセージに対して”emoji”と呼ばれるスタンプでリアクションをとることができます。LINEにも数種類のリアクションがありますが、Slackのemojiは膨大な量がデフォルトで用意されているほか、自分たちで好きな”カスタムemoji”を作成することもできます。
日本語のemojiを作成することも可能なため、絶妙なニュアンスのリアクションをemoji一つで行うことができます。
機能活用 - アプリ連携
Slackは各種アプリケーションとの連携が豊富で、様々な便利機能を実装することができます(連携設定はPCからのみ)。
今回は下記を導入しました。各アプリケーションの設定方法で参考にしたリンクも貼っておきます。
・Zapier
タスク自動化ツール。
新しいチャンネルが作成されたときに、「#56_チャンネル一覧」チャンネルに自動的に通知されるよう設定しました。
Slackでチャンネルが作成されたら通知する。【Zapier】 | The Cloud Days Hack
・Google Calendar for Team Events
劇団アカウントのGoogleカレンダー上で今回の公演用のサブカレンダーを作成し、それをSlackに紐づけ。サブカレンダーに稽古予定を入れておき、稽古開始2時間前に「#03_稽古場」チャンネルに自動的にリマインダされるよう設定しました。
カレンダーに稽古場住所も入れておくと、リマインダ投稿からワンタップでマップアプリが起動するので便利。
Slack Google Calendar for Team Events - Qiita
・Colla
雑談促進用のインタビューbotアプリ。任意のチャンネルに常駐するbotが1日1回ランダムにメンバーを選んで質問し、その後全体宛に回答を紹介してくれるというサービスです。
「好きな季節はいつですか?」「こどもの頃やっていた習い事って何ですか?」など、演劇とはまるで関係のない質問ばかりですが、emojiでリアクションしたりして意外と盛り上がりました。
特にはじめましてのメンバーが多い場合には、お互いの意外な一面を知ったり雑談のトリガーになったりすると思います。
今回は「#50_雑談」チャンネルでbotを動かし、「1日3人に質問しにいく」「19時に質問しにいく」「(翌日)18時に回答を紹介する」という設定をしていました。
誰にどんな質問が飛んでいるか把握できないので、プレッシャーを感じることなく気軽に使ってもらえます。
完全にビジネスで使われることを想定されているためか、botが平日にしか動かない仕様なのが惜しいところです。今回は土日祝稽古だったので、稽古がない期間にちょうど雑談がしやすいサイクルになっていました。
Colla(コラ)
運用 - 健康チェック
コロナ禍における稽古ということで、稽古場に来るメンバーには当日のセルフ健康チェックが課されていました。
Slackにデフォルトで備わっているリマインダ機能(/remindコマンド)を使って稽古日に健康チェックをするようリマインダさせていました。
健康チェック用のGoogleフォームを作成
「#18_感染症対策」チャンネルにセルフ健康チェックの運用方法、Googleフォームのリンクを投稿しておく
Slackのリマインダにより、稽古日の朝に「2.」の投稿を引用して通知する
→今回は基本的に土日祝の稽古だったので、「毎週土曜朝8時」「毎週日曜朝8時」「(祝日の日を指定して)朝8時」でリマインダを設定しました。
コマンドは英語onlyなので以下のページを参考にしながら設定していました。前置詞の使い方の復習になります。
Slackのリマインダー設定方法を超わかりやすく説明します! | Business Chat Master(ビジネスチャットマスター)
運用 – 個人チャンネル
各メンバーに任意で「#twi-xxxx(xxxxは個人名)」という個人チャンネルを作成してもらいました。
過去に参加した公演で使われていた運用で、お気に入りだったのでそのままパクりました。というか、Slackを導入したかった最大の理由はこれです。
要するに座組内Twitterで、基本的にチャンネル作成者が自由につぶやくのですが、チャンネルに参加している他のメンバーも返信したりemojiでリアクションしたりすることができます。
Twitterには書きづらい内輪ネタをつぶやいたり、作品の捉え方を語ったり、演技上の悩みを垂れ流したりと、個人的には更新されて一番ワクワクするチャンネルでした。字数制限もないので長文も書けますしね。
つぶやく側からしても雑談チャンネルより使い勝手が良く、全体的に更新頻度が高い印象がありました。
チャンネル作成時には初期設定で参加させるメンバーを選ぶことができるのですが、今回は初期状態では誰も参加させず、参加したい人が自主的に参加する「来る者拒まず」スタイルで運用していました。
もちろん作成自体は任意なので座組全員が作成していたわけではありませんが、最終的には、演出部+役者の稽古場メンバーのうち8割近くが作成していました。
その他やったこと
・Slack説明会
今回は稽古場顔合わせから稽古開始までに2週間程度あったため、この間に希望者を対象にSlack説明会を行いました。リモートで説明しながらその場でワークスペース参加、チャンネル参加、通知などを設定するところまで一緒にやり、最後に個人チャンネル作成を強く勧めていました。
・emoji追加
ネットで使い勝手がよさそうなemojiを探して作成・登録していました。以下のサイトなどから簡単にemoji画像を作成できます。
絵文字ジェネレーター - Slack 向け絵文字を無料で簡単生成 (emoji-gen.ninja)
Slackへの登録方法は公式で案内されていますが、画像ファイルを一つずつ登録する必要があります。Google Chrome拡張を使えば一括で複数ファイルを登録可能です。
Slack絵文字は一斉登録できるらしい? GoogleChrome拡張で。 - Qiita
ちなみに画像ファイル名がそのままemojiのショートカットキーとして適用されるので、ショートカットキーの使用まで見越す場合は事前にファイル名を調整しておくのがおすすめです。
・「#53_slack使い方」チャンネルの整備
ここでは具体的な記載内容は割愛しますが、「Slackとは」「チャンネルについて」「メンションについて」「ブックマークとピン留めについて」など知っておいてほしい基本機能の概要を簡単にまとめていました。
後からワークスペースに参加してきた人にも、「このチャンネル遡って読んでおいて!」と言うだけである程度使い方を理解してもらえるようになっていたのではないかと思います。
ここまで書いた作業は稽古開始前にだいたい済ませていたので、稽古が始まってからはSlack運営としてはほとんどやることはありませんでした。たまにemoji追加したり、リマインダ設定の調整をしたりぐらいですかね。
Slack導入の壁
・ツールに慣れない
シンプルにして最大の壁です。
ツール使用の技術的な難易度は決して高くありませんが、人はよくわからないツールを積極的に使おうとしないものです。
事前の説明会で、通知設定を確実に実施してもらう(必要な連絡に気づけるようにする)ことと、Slackアプリを開く習慣をつけてもらうようお願いしていました。
・スタッフさんの温度感
自分が役者で参加することが多いのでどうしても役者目線で語ってしまいがちですが、スタッフさんは稽古場メンバーと比べてコミュニケーションの頻度、温度感が異なるのが実態だと思います。
極論、役者については一定数の人を巻き込めばある程度Slack使用に強制力を持たせられます(稽古場連絡がSlackでしか流れないとSlackを見るしかないので)。
スタッフさんはもしかしたらLINEで個別にコミュニケーションをとれれば十分という場合もあるかもしれないので、ケースバイケースで判断が必要だと思います。
今回は、スタッフチーフを主宰が兼ねているセクションが多かったことと、外部から参加してもらったスタッフさんも元からSlackに明るい方が多かったため、かなりスムーズに導入できたと思います。
・写真、動画共有
SlackはLINEと比べて写真共有が弱いです。弱いというか、LINEアルバムが強いです。
SlackではLINEでいう「トークルームに写真ベタ貼り」しかできないので、大量の写真共有には不向きです。
また、無料プランだとストレージが5GBしかないので、動画ファイルを直接貼ったりするとすぐに上限を迎えます。
通し動画等はYoutubeで限定公開アップし、URLをチャンネルに投稿して共有していました。
運用前からSlackでの写真共有は難しいと思っていたので、写真共有目的でのみLINEグループを作成していました。
「#58_写真」チャンネルには傑作写真が抜粋されてたまに流れていました。
Googleドライブとの連携は強いので、単純にファイル共有・集約の目的であればGoogleドライブ使用がおすすめです。
・導入にはある程度求心力がいる
個人的な所感ですが、主宰など中心的な人物を巻き込まないと全面的な導入はなかなかハードルが高いのではないかと感じています。
今回は主宰陣が協力的かつ事前準備の時間が十分にとれたのでスムーズに導入できました。根回し大事。
感動したこと
・個人チャンネルが予想以上に盛り上がったこと
単なる日常投稿もありましたが、公演を意識したつぶやきが多かったので各メンバーがお互いに楽しんでいたようです。
また、主宰陣も積極的に使ってくれていたので、全体のモチベーション向上にも繋がっていたのではないかと思います。
・「#05_本番の感想」チャンネルという発想
初日マチネのカーテンコールから楽屋に戻った瞬間に主宰から「個人宛に感想とか来るだろうからそれを集約するチャンネル作って!」と言われ、秒で作成しました。各メンバーの個人的なつながりで観に来ていただくお客さんも多かったので、公式のアンケートに加えて数多くの感想を共有してもらうことができました。
これを自分で思いつけなかったのは悔しい。
メンバーの反応
・色々な話題を並行して進めやすいので便利。
・個人チャンネル本当にいい。
・ブックマーク機能で見返したい投稿をまとめられるので助かる。
・稽古場や健康チェックのリマインダ助かる。
・LINEと違ってSlackを開いた時点で公演のことに集中できるのでいい。
などなど。
ちゃんとしたアンケートをとったわけではないのでネガティブ意見は収集できていませんが……。
最後に
ということで、今回は入念な下準備の甲斐もあり、かなりいい感じでSlackを使いこなせたのではないかと思います。
興味がある演劇界隈の方々はよかったら参考にしてみてください。
ちなみにこれを書いている現在参加している別の座組でも部分的に導入させてもらっている(個人チャンネルとCollaの雑談系のみ)のですが、有志により「筋トレ部」なるチャンネルが作成され、日々のトレーニングの成果が報告されています(笑)。可能性は無限大です。
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