軽症喘息へのICS持続投与必要性の是非について(NEJM 2018, NEJM 2019, NEJM 2019)

今回は軽症喘息に対するICS持続投与必要性の是非の研究をとりあげます。

① N Engl J Med. 2018 May 17;378(20):1877-1887. PMID: 29768147
As-Needed Budesonide-Formoterol versus Maintenance Budesonide in Mild Asthma

12歳以上の軽症喘息患者を以下の2群に割り付けて52週間追跡
 プラセボ 1 日 2 回投与+ブデソニド・ホルモテロール頓用群 2089人
 ブデソニド維持療法+テルブタリン(0.5 mg)頓用群 2087人

プライマリエンドポイント
 重度の増悪の年間発生率はそれぞれ 0.11(95%CI 0.10~0.13)と 0.12(95%CI 0.10~0.14)であり非劣性マージン内

セカンダリエンドポイント
 初回増悪までの期間は 2 群で差はなし(HR 0.96,95%CI 0.78~1.17)
 ACQ-5 スコアの変化は 0.11(95%CI 0.07~0.15)の差でブデソニド維持療法群が優位

② N Engl J Med. 2019 May 23;380(21):2020-2030. PMID: 31112386
Controlled Trial of Budesonide–Formoterol as Needed for Mild Asthma

18歳から75歳までの成人軽症喘息を以下の3群に割り付けて52週間追跡
 アルブテロールを症状に応じて頓用 223人
 ブデソニド維持療法+アルブテロールを症状に応じて頓用 225人
 ブデソニド・ホルモテロール合剤を症状に応じて頓用 220人

プライマリエンドポイントである喘息増悪の年間発生率は
 ブデソニド・ホルモテロール合剤頓用群はアルブテロール頓用群より低い(HR 0.49,95%CI 0.33~0.72;P<0.001)
 ブデソニド・ホルモテロール合剤頓用群とブデソニド維持療法群とで差はなし(HR 1.12,95%CI 0.70~1.79;P=0.65).

セカンダリエンドポイントである重度の増悪回数はブデソニド・ホルモテロール合剤頓用群は9回であり、アルブテロール頓用群の23回やブデソニド維持療法群の21回よりも少ない。

③ N Engl J Med. 2019 May 23;380(21):2009-2019. PMID: 31112384
Mometasone or Tiotropium in Mild Asthma with a Low Sputum Eosinophil Level

12 歳以上の軽症喘息患者を295人を喀痰中好酸球比率(2%カットオフ)で2群に分け、6週間の観察期間に続いて、モメタゾン吸入期間12週間、チオトロピウム吸入期間12週間、その後のプラセボのみ12週間の合計42週間追跡。

喀痰好酸球低値群221人での結果
 モメタゾンがプラセボよりも反応した人の割合は57%(95%CI 48〜66%)
 チオトロピウムへの反応のほうが良好であったのは60%(95%CI 51〜68%)

喀痰好酸球高値群74人での結果
 モメタゾンがプラセボよりも反応した人の割合は78%(95%CI 62〜90%)
 チオトロピウムへの反応のほうが良好であったのは54%(95%CI 37〜71%)


<個人的コメント>

日本アレルギー学会(JSA)の喘息予防・管理ガイドライン2018では軽症であってもICSの持続投与が勧められています。しかし、①ではシムビコートの頓用吸入であれば、ICS持続+SABA頓用と遜色ない成績が出ました(Figure 1B)。

また、②の報告でも同様にシムビコートの頓用吸入がICS持続+SABA頓用と同等に喘息増悪を抑制していました。
さらに、重度の増悪の回数をみるとシムビコートの頓用群のほうが良い結果が得られています(Figure 1C)。

これらの結果をもって、国際的な喘息のガイドラインであるGINA2019では軽症喘息に対する推奨はICSとホルモテロール合剤の頓用となっており、
ICS持続投与+SABA頓用吸入というJSAの戦略はother optionという扱いになっています。

ICSの持続吸入がきっと大事となるであろう喀痰好酸球が高い群での振る舞いについて③の報告をみると、たしかにICS吸入はプラセボよりは良好に反応する人が多いという結果がえらえました。
しかし、そもそもそのような方は全体の1/4程度しかいないことも明らかとなり、3/4を占める喀痰好酸球低値群ではICS持続投与の必要性は立証できないという結果になっています(Figure 2C)。

喀痰好酸球は、その比率を定量的に算出することがどこの医療機関でもできるわけではありませんので、軽症喘息の中で本当にICSの持続投与が望ましい方たちを見分けるためのバイオマーカーの探索が望まれます。

また、喘息以外のアレルギー疾患においては、軽症患者における安定期の局所ステロイド投与の中止も検討されることが一般的です。
アトピー性皮膚炎に対するプロアクティブ療法のように、中止か連日投与かの2択ではない選択肢の研究・確立が進んでいる疾患もあります。

さらに、アレルゲン免疫療法の発展により、軽症喘息はその治療目標を「症状や増悪軽減」ではなくて「治癒」に置くことも、原因アレルゲンによっては不可能ではなくなってきました。

たしかに、「すべての喘息患者にICS継続」という戦略は、過小診療を減らして喘息診療レベルのボトムアップを果たすことに大きく貢献しました。
しかし、今後は患者さんごとにその特性を考えた個別化診療を、軽症喘息においても検討し、実践していくべきなのではないかと思っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?