抗TSLP抗体の総説と代表的臨床試験
抗TSLP抗体についての総説と臨床研究を取り上げます。
①は国内第一線の皮膚科・呼吸器内科の研究者から出された最新のレビューです。
① Nakajima S, et al. Allergol Int 2020
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=31974038
・TSLPはプロテアーゼアレルゲンやウイルスや細菌などの微生物を含むさまざまな刺激に応答して合成される上皮細胞由来のサイトカインである。
・ TSLPは皮膚、呼吸器、腸管のバリアでの2型免疫応答の主な調節因子と考えられており、遺伝子学的や基礎・臨床研究などからTSLP-TSLP受容体経路がアトピー性皮膚炎(AD)や喘息などのアレルギー性疾患の病因と関連していることが示唆される。
・ヒト抗TSLP抗体Tezepelumabの中等症・重症のADやコントロール不良喘息を対象とした第2相試験の結果が示されている(②③など)。
・TSLP-TSLP受容体経路の阻害がAD、喘息およびその他のアレルギー性疾患に対して臨床効果を発揮する可能性がある。
・他の生物製剤と比較した抗TSLP抗体の有効性を検討する必要がある。
② Corren J, et al. N Engl J Med 2017.(①の論文のRef. 84)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=28877011
P: 中等症・重症の成人喘息患者
I: Tezepelumab 低用量(70 mg q4w)145人,中用量(210 mg q4w)145人, 高用量(280 mg q2w) 146人
C: プラセボ 148人
O: Tezepelumab低/中/高用量はプラセボ群と比較して52週間での喘息増悪率をそれぞれ61%, 71%, 66%低下させた(p<0.001)。
③ Simpson EL, et al. J Am Acad Dermatol 2019(①の論文のRef. 60)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=30550828
P: 中等症・重症の成人AD患者113人
I: Tezepelumab 280 mg q2w
C: プラセボ+class 3の外用ステロイド
O: 12週目のEASI 50は65%であり、良好ではあったがプラセボと比較して統計学的有意差はつかなかった。
<個人的コメント>
TSLPはIL-33やIL-25と同様の上皮細胞由来のサイトカインであり、アレルギー疾患の発症・増悪や2型自然リンパ球(ILC2)のステロイド抵抗性獲得に影響を与えます(Nat Commun 2013. PMID: 24157859)。
また基礎研究ではありますが、ケラチノサイトから出るTSLPがアレルギーマーチを引き起こすという報告もあり(J Invest Dermatol. 2013 PMID: 22832486)、アレルギー疾患におけるKeyサイトカインの1つと考えられます。
②の論文では抗TSLP抗体Tezepelumabが血中好酸球数にかかわらず喘息の増悪頻度を減らすことが示されており(Figure 1A)、既存の抗体薬との使い分けにおけるTezepelumabの意義が期待されるところです。
なお、重症気管支喘息に対してはすでにオマリズマブ(抗IgE抗体)、メポリズマブ(抗IL-5抗体)、ベンラリズマブ(抗IL-5受容体抗体)、デュピルマブ(抗IL-4/13受容体抗体)の4種類の抗体医薬が保険適用で使用できますが、いずれの薬剤もその臨床効果は血中好酸球数に依存する(してしまう)ことが各種大規模臨床試験で示されており、これら試験自体のエントリー基準も好酸球150以上や300以上などに限られたりしています。
代表的な報告を以下に列挙します。
・オマリズマブ:
Am J Respir Crit Care Med 2013. PMID: 23471469
Allergy 2018. PMID: 28859263
・メポリズマブ:
Lancet 2012. PMID: 22901886
N Engl J Med. 2014 PMID: 25199060
N Engl J Med. 2014 PMID: 25199059
Lancet Respir Med. 2017 PMID: 28395936
・ベンラリスマブ :
Lancet. 2016. PMID: 27609408
Lancet. 2016. PMID: 27609406
・デュピルマブ
N Engl J Med 2018. PMID: 29782217(KACJ-6で取り上げた論文です)
③の論文ではTezepelumabのADに対する効果を見ていますが、皮疹NRSスコアの経時的変化をみると抗体の効果はあるもののプラセボと比較して有意差はつかないという結果でした(Figure 3)。
他の試験結果と比較するとやや期待外れではありますが、これに関してはプラセボが良すぎた可能性もあるかもしれません。
①の論文では現段階で進行中・未発表なものとして以下が言及されており、これらの試験結果の発表が待たれるところです。
NCT03347279:
Tezepelumabを中等症・重症のコントロール不良喘息患者1000人以上を対象に投与し、喘息増悪率を主要エンドポイントにおいた試験。
NCT03406078:
喘息症状コントロールを保ちながら、Tezepelumab投与が経口副腎皮質ステロイド投与量を減らすことができるかどうかみる試験。
NCT03138811:
軽度の喘息患者を対象としてCSJ 117(TSLPを標的とするの1日1回吸入製剤)12週間投与の効果をみる第1相試験。
NCT01732510:
抗TSLP薬MK-8226をAD患者に投与する第1b相試験(途中で中止)。
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