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「大宮さん、今日は何時まで大丈夫なんすか」
「いや、自分、特に何時までとかないっすよ」
「家族さんとかの関係あるじゃないっすか、そういうのは特に気にしなくて良いんですか」
「いや、僕、独身なんで」
「え、マジ。独身なんすか、へー」

そこから会話が続かなかった。初対面であまりに落ち着いていたから、てっきり妻帯者だと思っていた。でも確かに指輪はしていないし、そんな話も飲み会では出てなかったけど、まさか独身だとは思わなかった。

なにより、年相応だけど堅苦しくないリラックスした雰囲気があって、安定感があったので、とっくに子どもが二人いるくらいだと思ったのに。余裕がある、独身なのに。いや独身だから、余裕なのか。

見た感じ、いわゆる「なんでこの人、独身なの?」って感じで、今まで、自分の周りにはあまり見ないタイプだった。サーフィンもやってるって言うし、ハイエース乗り回しているし、遊び人と言ったらそうなのかもしれないんだけど、絶対に結婚しようと思ったらできるタイプなんだけど、自分で必要がないと考えているかもしれなかった。

だから、逆に正面から「大宮さんは、なんで独身なんですか?」とも聞く気にもならなかった。たぶん独身でいる理由もなければ、結婚する理由もないのかもしれない。あえてそういうことを聞く気にもならない。自分が歳を食ったせいかもしれないし、逆に変に気を使う必要もないのだろうなと思った。

こういう人を見ると、やっぱり自分とはまた違う人っているんだなあ、って感じる。自分だけの価値観が世の中で絶対じゃないって。別に結婚して子どもなんていなくても、お一人様でも、世の中全然普通なんだよって。当たり前なんだけど。いや本当に、人間一人一人違うんだから、至極当たり前のこと言ってるだけなんだけど。

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