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朝から大粒の雨が降っていた日曜日の午後の昼下がり、いつものように卵かけご飯を昼ごはんにかきこんだあとは、ジムでの筋トレをしたあとの心地よい疲労感に包まれたまま、ソファで携帯をいじりながらうとうとしていたら、気付くと本格的に2時間ほど寝入ってしまった。

ベランダの外、いつまにか、やたらとはげしかった雨は上がっていて、雲の合間から陽光が差しはじめている。妻がいつの間にかブランケットを僕にかけていてくれた。部屋干ししていた洗濯物もすべてベランダに干し直したのか、雑然としていた部屋が妙にスッキリしている。

妻が部屋に音楽をかけていた。懐かしいような、子どもの頃の憧憬を呼び起こすような、癒しの歌声。

「これは?」
「うん、なんかヨガでかかっていた音楽、いいでしょ、癒し系で」

shazamで楽曲検索をかけると、SNATAM KAUR と出てきた。インドの伝統音楽でサンスクリット語のマントラを歌うキールタンという音楽だった。妻の通っているヨガ教室のBGMでかかっていたんだろう。

キールタンという言葉が、懐かしい。昔は自分もヨガからインド哲学にのめりこんでいた。十年ほど昔、一緒にヨガスクールに通っていた奴が急に「キールタンを歌いたい」と言って、家にハルモニウムというインド式のオルガンをわざわざ買って、キールタンを歌い出した。彼曰く、キールタンに乗せてマントラの声を出すことによって、心が真っさらになるんだそうだ。歌う瞑想みたいなもんだろう。

上手いのか下手なのかもよくわからないけれど、とりあえず子どもみたいに無邪気に楽しそうだった。(彼は奥さんと離婚した直後だったということもあり)前から突拍子のないことをするなと思っていたけれど、彼にはその時に必要なことだったんだろう。

そんな記憶がありありと思い浮かぶ。彼は今、仕事の関係でマレーシアにいる。来年はちゃんと時間を取って会いに行きたい。話したいことが山ほどあるけど、実際に会ったら思ったほど話せないだろうな、そんな気がした。

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