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1136_realm

満員電車に揺られていると、狭い車内では文庫本も取り出せずに、じっと耐えてただただ時間だけが過ぎるのを待つしかない。次の駅に着けば、ドッと人が降りるはずだから。

自分の目の前の高校生が英単語帳を凝視していた。そこには、「realm」と書いてあった。

realm  領域、範囲、分野、部門

realm、realm、realm
その単語が頭の中から離れない。今この狭い車内で体を小さく縮こまって、周りの人に迷惑をかけまいと、自分の領域にひきこもって、存在している。

自分というrealmの中に、どうやら僕は内在しているようだ。なんとも不思議な感覚だった。僕は僕という人間の形をした器か容れ物に入っている、何かだ。何かとは何だろう、エネルギーとか、魂とか。言葉には言い表せない何かだ。

僕という人間は単なるrealmなのであって、その中にある本質はまた別個に存在していて、たぶんここにはいないはずなんじゃないかとさえ思えてくる。

次の駅で自分の周りの人がドッと降りていく。
途端自分のrealmが拡張したようにも感じた。僕は僕というrealmの中に収まりきらない何かだ。

思わず文庫本を取り出す。本にはヘンリーダーガーについての記載があった。彼はアメリカのアウトサイダー・アーティストおよび作家だ。

彼は生前ほとんど知られていなかったが、彼の死後、彼の膨大な作品群が発見され、大きな注目を集めた。

ダーガーの主な作品には、未発表の長編小説『The Story of the Vivian Girls, in What is Known as the Realms of the Unreal, of the Glandeco-Angelinian War Storm, Caused by the Child Slave Rebellion』がある。

彼は、彼自身の魂の内部に存在するthe Realms of the Unrealの中で一生を過ごしたのかもしれない。そして、その夢想の王国の物語を描き続けた。

子どもたちを奴隷にする大人たちの戦い続ける少女たちの物語。彼の魂の内部に連綿と描かれ続けるRealm。

僕はいったいどこに存在しているのだろう。Realmはどこにあるのだろう。

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