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妖狩りの侍と魔剣『斬妖丸』 : 「由井正雪と魔槍『妖滅丸』」(①壱)" 邂逅(かいこう) "

拙者せっしゃは見た…
我が目を疑った…
初めて邂逅かいこうした彼奴あやつとそのやり
それは突然おとずれた運命の出逢いであった…


********


その日…
時刻じこくうしとき

拙者は夜の町を歩いておった
どうも泊まり宿の寝床ねどこ
寝付けなかったのだ

拙者の愛刀にして魔剣の『斬妖丸ざんようまる』が
かすかにふるえておる…
あやかしか…
だが、この反応では遠いな…

拙者は着物を着て
『斬妖丸』と『時雨丸しぐれまる』を腰に
宿を後にした

拙者は『斬妖丸』の反応をたよりに妖の気配を追った
近付くにつれ妖気が強まる
拙者にもかなりの強さの妖気を感じる

ついに妖の元へたどり着いた
妖気が最も強くただよう場所…

ここは…
どこぞのはんの大名屋敷か…?
あまり裕福な藩では無さそうだが…
一万石そこそこの小大名しょうだいみょうと言ったところか
妖気はこの内より強く漂っておる

腰に帯びし『斬妖丸』が強く震え出した

左様か、『斬妖丸』…
お前もこの強き妖の妖気に
早う妖の血を吸いたくてたまらぬようよのう…
存分に吸わせてくれるゆえ
今しばし待っておれ

屋敷正面の表門に回ってみたが
このうしときに開いておるはずも無く
門番すら門外に立ってはおらぬ

むっ…
この屋敷内は妖の結界がられておる…
中の者を閉じ込め
外の者を寄せ付けまいとしておる様じゃ…
この様な結界を張れる妖とは
なかなかの強者つわものよ…
相手にとって不足は無い

なれど…
拙者に妖の結界など通じぬわ!

拙者は引き抜きし『斬妖丸』にて
結界の一部を切り裂いた

そして拙者はまわりを見回ししのち
表門の屋根の上にひらりと飛び乗った
表門から横に建つ長屋の屋根へと伝い歩き
敷地内の様子を満月の明かりにて
かし見る

すると…
正面に御殿ごてんの屋根の上に
拙者と同じ様に立つ二つの人影があった
その内の一方は
当大名屋敷の女中らしき姿…
こちらから強い妖気が漂って来る

対峙たいじせし、もう一方は
一見したところ
拙者と同じ浪人と言った風体ふうていだが
なかなかに洒落しゃれた身なりの服装である
かみは、やはり拙者と同じく総髪そうはつ
腰には差料さしりょう一本のみを差し
その脇に鉄扇てっせんらしき物を差しておる
見るからに軍学者と言った風情ふぜいの男であった

この男は
どうやら人間の様だ
だが、妖とは異質だが…
少し異様な気配が感じられて来る…

この男… 一体…?


********


ふふふ… あやかし
そろそろ正体を見せてはどうだ

この大名家の側室殿の女中になりすまし
あるじに近付き害せんと致せし事…
それがしが参った以上
相叶あいかなわぬものとあきらめよ
すぐに引導いんどうを渡してやるゆえ
覚悟するがよい

ああ…
それとな…

貴様の用いし妖の術をそれがし魔槍まそう
封じてくれようぞ
それがしの目的のために
多くの妖の力が必要でな…

ふむ…
今宵こよいそれがし以外の屋敷内の者ども
ことごとく貴様の妖術にて眠らされしが
飛び入りにてめずらしい来客が参った模様もよう

そこな客人っ!
其方そなたもこの結界内に入れたからには
只者ただものでは無き御様子
それがしと同業の者とお見受け致した

お初にお目にかかる…
それがしの名は『由井 正雪ゆい まさゆき』と申す!

これよりそれがしと妖との珍しき戦いをお見せ致そう!
其方は決して手を出す事無きよう
その場にて
とくと御覧ごらんあれい!

行くぞ、『妖滅丸ようめつまる』!


********


何…?
彼奴あやつ
拙者と同業だと申すのか…?
すると彼奴あやつも拙者と同じ妖狩り…

むっ…?
彼奴あやつめ…
腰の一本差しの太刀たちを抜こうとせず
腰の帯に差しし長さ二尺ほどの棒を
手に取りおった…

おおっ!
棒が倍以上に伸び
先端からやり穂先ほさきが飛び出して
長さ五尺余りの手槍てやりに姿を変えた…

妖滅丸ようめつまる』だと…?
それがあの槍の名か?
あの男、確かに魔槍まそうに封じると申した…

むうっ!
拙者の腰で『斬妖丸ざんようまる』が激しく震え出した
こんなに激しい『斬妖丸』の振動は
如何いかなる妖でも見られぬ!

『斬妖丸』があの槍に共鳴致しておるのか⁉
あの『妖滅丸』と云う槍…
まさか、『斬妖丸』と同様の…

あの由井 正雪ゆい まさゆきと名乗る男…
彼奴あやついったい何者じゃ…?


※【(弐)に続く…】

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