妖狩りの侍と魔剣『斬妖丸』 : 「大海妖」（後編）

おのれ！
大海妖だいかいようめ、くらえいっ！

「ズバッ！」

よし！
ヤツの触手しょくしゅを『斬妖丸ざんようまる』で
一本斬り落とした！

あと七本っ！

大海妖め、怒り狂いおったか！
全ての触手で襲いかかって来おった！

よし、『斬妖丸』っ！
一気に行くぞ！

鎌鼬直伝かまいたちじきでんっ！
真空乱れ刃しんくうみだれやいばっ！

ズバッ！ズバッ！ズバーッ！

よし、全部いったあ！

夫婦岩めおといわの周まわりと
小島周辺の海域一帯に
切り刻まれた大海妖の脚が降り注いだ

海では鱶ふかが食い物にありつきに
集まって来た様だ
鱶どもの背ビレが幾いくつも海面に見えておる

ふふふ…
喰え喰え
全て食い尽くせ…

「ビシュシュッ！」

うおっ！

海面の鱶どもを
見つめていた拙者の胴どうに
突然に何かが巻き付いた！

な、何…

叫ぶ間も無く
拙者は持ち上げられ
夫岩に叩きつけられた！

ぐはっ！
ごふっ！

ぐおぉ…
肋骨あばらぼねが数本折れたっ！

拙者は口から激しく
血と泡を吹き出した…

拙者は薄れようとする意識の中で
自分の腹に巻き付いたモノを見た

た…蛸タコの触手！
だっ、大海妖…？

そんな…
脚は全て『斬妖丸』で斬り落としたはず…

しかし、それは紛まぎれもない
大海妖の触手だった

再生したというのか…？
『斬妖丸』で斬ったのに…？

拙者はふらつく身体で
眩暈めまいを振り払い
震える右手に持った『斬妖丸』で
我が身に巻き付く
大海妖の触手を斬り払った

「ぐぎゃおおおっ！」

響き渡る異様な叫び声と共に
拙者はすぐに
触手の戒いましめから解き放たれた

むうっ？

拙者の見ている目の前で
『斬妖丸』で斬った触手の断面の
すぐ上部が切り離されたのだ…

そうか！
こいつは『斬妖丸』に斬られた箇所を
すぐさま自ら切り離し
そこから触手を再生させたのだ…

すると…
こいつの触手は全部無事…？

ぐはっ！

また拙者は血を吐いた…

やられる…
このままでは…

後ずさった拙者の左手に何かが触ふれた…
それは拙者の隠れていた葛籠つづらだった
葛籠は戦いの衝撃でひっくり返っていた
その傍そばには…
拙者のもう一本の太刀たちが横たわっていた…

おお…
『時雨丸しぐれまる』…
無事だったか…

愛刀『時雨丸』を掴つかんだ拙者の頭に
考えが閃ひらめいた！

ぐっ…！

拙者は再び襲ってきた大海妖の触手を
痛む身体で転ころがって躱かわし
抜き放はなった『時雨丸』をヤツの触手に突き立てた

大海妖の触手が『時雨丸』を突き立てたまま
引き下がった

『斬妖丸』よ！
あの触手に突き立った『時雨丸』に
最大級の『迅雷じんらい』を浴あびせるぞ！

ヤツを雷いかづちで感電させてやる！
雷雲らいうんを招来するぞ！

来たれ雷雲っ！
我が頭上にっ！

「ピカッ！」
「ゴロゴロゴロッ！」

よし、来たぞ…
特大の雷雲が…
やるぞ『斬妖丸』！

今度こそ…
ヤツに思い知らせてくれる！
生贄いけにえとなりし乙女達と家族の無念を！

喰らえ、大海妖っ！
特大の怒りの雷いかづちをっ！

『怒涛迅雷撃どとうじんらいげき』っ！