妖狩りの侍と魔剣『斬妖丸』 : 「由井正雪と魔槍『妖滅丸』」(➁弐)" 恐るべき魔槍… "
拙者の見守る前で
由井 正雪と名乗る浪人者と
女中の姿に化身した妖の戦闘が始まった
拙者の腰では愛刀の『斬妖丸』が
相変わらず激しく震えている
これは『斬妖丸』の怖れなのか…
それとも悦びなのか…?
あるいは、あの槍との共鳴作用…?
拙者には…
いずれとも判断がつかなかった
女中の格好をした妖が
着ていた女子ものの着物を脱ぎ棄てた
その下から現れ出しは…
体長は尾まで含めれば六尺(約180㎝)を優に超す
鼬の様な姿形をした妖であった
口からは火をポッポッと噴いておる
そして、その妖の最も奇怪なるは
長い前肢と後肢との間に
身体と同じ毛むくじゃらの薄い膜が張られておる
膜は首と前肢の間
後肢と太くて長い尻尾の間にも張られておった
この姿…
森などに棲む鼯鼠ではないか
だがこの様に大きな鼯鼠が居る訳が無い…
やはり正体は妖なるか…?
姿形が鼯鼠に似ておるという事は…
鼯鼠に似た姿の妖は長い手足を伸ばし
膜をぴんと張る事で空中に浮かび始めた
やはり、こ奴は空を飛べる妖か…
これはちと厄介な相手じゃ…
拙者は由井 正雪と名乗る妖狩りが
他人事ながらも少々心配になって来た…
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ようやく正体を現わせしか
妖怪『野衾』よ!
大人しく某の手にかかり
貴様のその妖力を某に寄こすがよい!
油断致すな、『妖滅丸』よ!
参るぞっ!
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やはり同業故か
拙者と同じ様な台詞を吐きおるわ…
拙者は苦笑を浮かべながら
眼前に繰り広げられる闘いを見据えた
おおっ!
『野衾』が自在に宙を飛びながら
口から由井めがけて
激しい炎を吐き出しおった!
こ奴、炎をも操りおるか…
『火車』の業火には遥かに及ばぬが
上空からの火炎攻撃…
恐るべし…
しかし…
由井も負けてはおらぬ
素早い動きで御殿の屋根を飛び回り
『野衾』の炎を躱しおる
由井め、なかなかの体術…
拙者に引けを取らぬ動きじゃ
彼奴は恐ろしい程の手練れよのう…
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無駄じゃ、無駄じゃあ!
その様な炎ごときっ!
『妖滅丸』! 槍車じゃっ!
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おおっ!
由井が槍を高速で回し始めた…
『野衾』の吐き出す炎を
槍の回転で吹き飛ばしておる!
だが、『野衾』も高速で滑空し
移動しながら火炎を放射し続けるぞ…
おお…凄まじき熱じゃ…
由井は槍車で
この移動しながらの火炎放射を防ぎきれるか…?
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ふふふ…
なかなかやりおるわい
そうで無くてはその妖の力
奪うに値せぬわっ!
だが、長引けばこの屋敷が燃えてしまう…
そろそろ、とどめを刺してくれようぞ!
伸びよ、『妖滅丸』っ!
喰らえいっ! 如意槍ーっ!
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な、何とっ!
由井の叫びと共に
彼奴の『妖滅丸』が伸びた!
有り得ん…
長さ五尺(約150㎝)余りの手槍が
五丈(約15m)ほども伸びおった!
それは拙者の錯覚では無かった…
事実…
手槍の『妖滅丸』が十倍ほども長さが伸び
由井の上空を滑空していた『野衾』の胴体を
槍の穂先が根元まで深々と貫いておる…
「ぐぎゃおおおーっ!」
『野衾』の断末魔の叫びが辺り一面に轟いた
如意槍だと…?
意のままに伸縮出来ると云うのか…?
『妖滅丸』…
何という恐るべき槍よ…
そして、その槍を手足の如く自在に操る
由井 正雪…
この様な恐るべき妖狩りがおったのか…
※【(参)に続く…】
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