見出し画像

妖狩りの侍と魔剣『斬妖丸』 : 「由井正雪と魔槍『妖滅丸』」(③参)" 妖狩り…由井正雪と青龍 "

よし…
よくやった、『妖滅丸ようめつまる』よ
存分に『野衾のぶすま』の血をすするがよいわ
そして、その力をおのが物と致せ

ふふふふ…
お前が手に入れた妖の力は
それがしの野望の実現に役立つであろう…

おお、そうであった…

そこのご浪人!
いかがでござった?
それがしと我が魔槍まそう『妖滅丸』の戦いのほどは?
同業者の其処許そこもとならば分かるであろう!

しかも…
其処許そこもとのその腰に帯びし太刀たち
二本とも只の刀剣にあらず
しかも一本はまぎれもなく
それがしの魔槍『妖滅丸』と同種の魔剣まけんと見た
いかがでござるかな?


********


やはり勝ちおったか…
あの恐るべき魔槍を用いる妖狩りが
あの程度の妖に敗れるはずが無い…

その点に関しては拙者に疑いは無かった
だが、あの魔槍…
まだ『斬妖丸ざんようまる』が震えておる

由井ゆいのヤツは同種と申しおった…
太刀とやりという違いはあるが
確かに彼奴あやつの申す様に似ておる…
いや、似ておるどころか…

むっ…
由井ゆいがこちらへ来る
『妖滅丸』が『野衾のぶすま』の血を
残さず吸い取った様じゃ…


********


もう『野衾のぶすま』の妖力は手に入れた…
この屋敷に張りし結界はそれがしの張ったもの
もう必要無きゆえに結界は解いた

先ほどは戦闘の途中だった故
改めて挨拶あいさつ致そう
それがしの名は
由井民部之助橘正雪ゆいかきべのすけたちばなのまさゆき
由井 正雪ゆい まさゆきと申す
ただ…
人はそれがし由井 正雪ゆい しょうせつと呼ぶがな
どちらでも呼びやすい方で結構でござる

生まれは駿府すんぷの宮ケ崎
仕事は… 妖狩りは仮の姿で
本職は軍学者を致しており申す
江戸は神田連雀町れんじゃくちょうの長屋にて
張孔堂ちょうこうどう』と云う軍学塾を開き
南木なんぼく流の軍学を門下生もんかせいに教えておる

自分で言うのもなんだが
最近、門下生が増え
大変に流行はやっておるので
困った事にはなはいそがしい身の上でござる
うれしい悲鳴というヤツよの
ふはははは…

して、其処許そこもと
それがしと同じ妖狩りの様だが
何処どこのどなたであろうか…?

お聞かせいただきたい


********


ふん…
軍学を教えているだけあって
ようしゃべりおるわ…

しかし礼儀はわきまえておる様子にて
拙者も名乗らぬ訳には参るまい…

ご丁寧な挨拶あいさつ痛み入り申す
拙者の名は…
申し訳ないが
訳あって申したくござらぬ
其処許そこもとにだけ自己紹介させておいて
誠に相済あいすまぬが許されよ

拙者、脱藩だっぱん致し祖国を逐電ちくでん致せし身ゆえ
素性を申す訳に参らぬのじゃ
この通りでござる…

拙者は由井 正雪ゆい しょうせつに頭を下げてびた


********


何、構わぬゆえ
頭を上げられよ
それがしが勝手に自己紹介を致したまで…
其処許そこもとにまで同様に名乗れとは申さぬ

なあに…
それがしの門下生には浪人が巨万ごまんとおる
それぞれが訳有わけありの身の上じゃ
素性など一々確認しておられんわい
気になされるな

しかし…
名無しの権兵衛ごんべえでは呼びにくいのお…
其処許そこもとの子供の頃のあだ名でもよい
教えてもらえまいか…?

いかがじゃな、御同業者殿?


********


気遣きづかい痛み入ります

由井 正雪ゆい しょうせつどの…
拙者はこう呼ばせて頂く事に決めた
確かに名無しでは其方そなたに失礼じゃ…

拙者のあだ名か…

そうじゃな…
拙者は子供の時分より
幼馴染おさななじみ達から名前をもじって
青龍せいりゅう』と呼ばれておった
年をて大人になっても
親しき者からは今でもそう呼ばれておる
そう呼んでもらえまいか…

拙者は正直に由井 正雪ゆい しょうせつに打ち明けた
だが、拙者がこの『青龍』の名を名乗る事も
滅多めったにある事では無い

親しき者しか知らぬのも事実だ


********


そうか…
青龍せいりゅう』どのか…
いい名前じゃ…
四神獣ししんじゅうが一つよな

ところで、青龍どのは
妖狩りを続けられて長いのでござるか?

それがしはかなりの妖を倒して参ったが
青龍どのはいかがかな?
その魔剣は妖の力を如何いかほど持っておるのかな…?

ふふふふふ…


********


拙者はこの時点までは
この由井 正雪ゆい しょうせつに好感を持っておった

しかし…
最期さいごの質問と笑いがこの男の印象を
ガラリと変えてしまった…

この由井 正雪ゆい しょうせつという男…
人好きのするさわやかな風情ふぜい
装ってはおるが、その実態は…

拙者の愛刀は『斬妖丸ざんようまる』と申す
いかにも其方そなたの『妖滅丸ようめつまる』同様に
妖の血をすする事により
その妖力を己が能力ちからと致す

今までに数多あまたの妖を倒して封じて参った

だが…
そんな事を聞いて如何いかが致すつもりでござるか…?
どうも何やらふくみを持っておられると見える
其処許そこもとねらいをお聞かせ願おうか?

拙者は由井 正雪ゆい しょうせつを問い詰めた



※【(よん)に続く…】

この記事が参加している募集

#スキしてみて

526,955件

もしよろしければ、サポートをよろしくお願いいたします。 あなたのサポートをいただければ、私は経済的及び意欲的にもご期待に応えるべく、たくさんの面白い記事を書くことが可能となります。