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ニケ… 翼ある少女 : 第26話「狙撃手との戦い」

「あれか…」

 竜巻たつまきに乗って空を飛ぶひょうが見下ろした先の公園出入り口付近に停車していた黒の大型バンが、ちょうど走り出すところだった。ひょうは空からバンを追跡する。さえぎるものが無いため、見失うおそれは無かった。

「必ず行く先を突き止めてやる。それに奪われたサンプルも取り返す。」

 ひょう竜巻たつまきの中から黒のバンを見据みすえてつぶやいた。そして、バンの上空やや後方からバンと同速度の飛行で追跡を続けた。

 黒いバンが停車していた出入り口付近の公園内にある公衆便所のかげで、空を飛んで行く竜巻たつまきを見上げる一人の男がいた。BERSバーズ特殊潜入部隊のたちばな少尉だった。

「ふふふ、ひっかかったな、風小僧かぜこぞう。お前が追ってるサンプルはここにあるのさ、俺が持ってるんだ。そっちは、お前をひっかけるためのダミーだ。これで今回の俺達のミッションはコンプリートだな。さて、北条さんにニケのサンプルを届けに帰るか。」

 たちばな少尉は遠ざかっていく竜巻たつまきを見送りながら、口から獰猛どうもうな牙の様な歯をのぞかせてニヤリと笑った。そしてポケットに手を入れて、サンプルが入った金属製の容器を確認してから公園を出た。たちばな少尉は、そのまま公園を遠ざかって行った。

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 公園出入口近くの林の中からたちばな少尉を監視していた別の人物がいた。たちばな少尉が公園を出ていくのを見送った後、その人物は、ポケットから取り出した携帯電話を使って何者かに連絡を入れた。

「Mr.北条、こちら暗号名コードネーム狙撃手スナイパーです… たちばな少尉がニケのサンプル奪取に成功しました。はい、間もなく持ち帰るでしょう。 
 ですが、少々厄介やっかいなことが起きました。たちばな少尉の部下のカマキリと電気ウナギが、現在ニケに確保されています。もっとも、ヤツらからの情報漏洩ろうえいのおかげで、例の暗号名コードネーム風小僧かぜこぞう』がダミーの方を追って行ってくれたんですがね。
はい… 処分してよろしいんですね… 了解しました。では、早速さっそく…」

 たちばな少尉を見張っていた男は携帯を切って、持っていたバッグのジッパーを開けた。中には男の商売道具である、折り畳み式の高性能狙撃ライフルがおさめられていた。中身を確認した男は公園内のニケ達のいる方へと歩き始めた。 
 そして、自分からはニケ達のいる場所が見通せるが、向こうからは見えにくい林の中を選んで腰を下ろし、高性能狙撃ライフルを手慣てなれた指さばきで組み立てて、弾丸を装填そうてんした。

目標ターゲット捕捉。距離は約380m、風速3mの追い風、コンディション良好。使用する弾丸は対BERSバーズ用特殊マグナム弾。狙撃を開始する。」

 狙撃手スナイパーは自分の行動を撮影中のヘッドセットに記録させるべく状況をつぶやいた後、ライフルの銃床を左肩に固定して構え、銃に取り付けたバイポッド(二脚)を地面に着けて銃を固定し、自分は寝そべる姿勢を取って目標をスコープの中央に捕らえた。
 使用する弾丸は対BERSバーズ用に開発された特殊ホローポイント水銀弾で、BERSバーズへの着弾時に弾頭が大きくつぶれて拡張する。
 それにより、命中すればその大きなエネルギーのほぼ全てを内臓にたたき込み、なおかつ弾の中に詰められた水銀が体内に広がって、高い毒性で致命的なダメージを与えることが出来る。たとえ生体強化改造兵士であるBERSバーズでも、一発で死に至らしめるか、行動不能にすることの出来る弾丸である。

「まずはウナギだ…」

「ブシュッ!」

 消音機サプレッサー付きのライフルから発射された対BERSバーズ用特殊マグナム弾である特殊ホローポイント水銀弾は、一発で電気ウナギ男の頭部を吹き飛ばした。

 ひょうから言われてBERSバーズの二人を見張っていたくみは、ちょうど電気ウナギ男の方へ目を向けていた時だった。
 くみの目の前にいた電気ウナギ男の頭が、一瞬で消失したのだ。頭を失った電気ウナギ男は、痙攣けいれんしながら仰向あおむけにゆっくりと倒れた。
 ニケと同じく狙撃された仲間を見ていたカマキリ男は、自分の頭を両手で(もっとも右腕は肘から先が無かったが)抱えて、地面に転がって叫んだ。

「狙撃だ! お嬢ちゃん、せろっ!」

カマキリ男に言われたくみは、急いで地面にせた。

「ちっ! カマキリめ、無駄なあがきを…」

狙撃手スナイパーは舌打ちをしながらも、目標から目を離さなかった。

 数分経過しただろうか…? 二度目の銃撃が起きないので、カマキリ男が目前の林を目指して匍匐ほふく前進でって行こうとしたその時…
「ぐしゃっ!」という音と共に、カマキリ男の頭が消失した。
 またもや、くみの見ている前でそれは起こった。くみは口に手を当てて悲鳴を飲み込んだ。

「ビンゴ! よし、これで俺の仕事は完了だ。女の子は目標ターゲットに入っていない。さて、帰るか。」

 そう言って狙撃手スナイパーがライフルを分解してバッグに納めている最中に、目の前が真っ暗になって彼の意識は消失した。
 狙撃手スナイパーひたいには穴が開いていた。穴の周囲は焼けげていて、血が流れ出ることはなかった。

 ニケは400m近く離れた林の中にひそんでいた狙撃手スナイパーひたいを、目から照射したニケの青い炎青いレーザー光線で一瞬にして射抜いたのだ。狙撃手スナイパーの用いたスコープなどを使わないで一撃で仕留しとめていた。数千m上空から地上の一点を見分けることが可能なニケだからこそ出来る正確無比な狙撃だった。

「もう、イヤよ… ひょう君からたくされた証人が二人とも…」

ニケはひょうが飛び去った方角の空を見つめて、唇をんでつぶやいた。


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「ふむ… どうやら捕虜の二人は始末したようだが、みずからもニケに殺されてしまったようだな。我々の優秀な狙撃手スナイパーは…」

 北条 智ほうじょう さとるは自分のオフィスのソファーに腰掛けて、壁掛けモニターに映し出されている生体監視画面の表示を見ながら前に座っているチャーリー萩原はぎわらに向かって言った。
 部下の生存している間は、ここに彼らの心電図や脈拍等のバイタルサインが表示されるのだが、三人とも『DEATH』の表示になっている。つまり…死んだのだ。

「はあ、その様ですね。おそらく、狙撃手スナイパーは捕虜になった二人を狙撃した後でニケに始末されたのでしょうな。狙撃手スナイパーは少々残念な結果になりましたね、Mr.北条。ヤツの狙撃の腕前はピカいちでしたから…」

「まあ、仕方ないだろう。それよりもこの狙撃手スナイパーのヘッドセットのカメラが撮影した映像から分かるのは、撤収てっしゅうの準備を始めた狙撃手スナイパーが一撃で倒されたという事だ。目標の2名を狙撃した時にはニケはそばに写っていたのだから、その距離を逆に狙撃手スナイパーを狙撃したことになるぞ。スコープも使わずにだ…」

 北条は自分のひたいを指先で軽くたたきながら、チャーリー萩原はぎわらに対して言った。

「確かにそうなりますね。とてもじゃないが人間わざとは思えません。我々の狙撃手スナイパーは狙撃技術を特化させて調整を行ったHybridハイブリッドBERSバーズの一種です。
 奴は標的をはずすことが無いように右目と脳の一部を機械化されており、1km離れた目標でも一度照準を合わせれば百発百中なのです。その狙撃手スナイパーと同等以上の狙撃能力… ニケ恐るべしと言ったところでしょうか。」

敵であるニケを賛辞さんじするチャーリー萩原はぎわらに対して、北条が答える。

「ああ、またニケが欲しくなる材料が増えてしまったな。とにかく、たちばなの持つニケのサンプルが届くのが待ち遠しいな。」

「まったくです、Mr.北条。サンプルを持ったたちばな少尉は間もなく、このオフィスに到着するでしょう。」

 二人は今回のミッションの成功で得た、ニケのサンプル到着に期待を込めて互いに顔を見合わせてニヤリと笑った。



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『次回予告』
ついにニケのサンプルを手に入れた北条 智ほうじょう さとる達…
ひょうが追ったサンプルは偽物で、敵も見失ってしまう。
そして、日本政府を核ミサイルで脅迫する謎のテロ組織からの通知が届く。
ついに『作戦ニケⅡ』第2ラウンドが開始されたのだった。

次回ニケ 第27話「『作戦ニケⅡ』第2ラウンド開始!」
にご期待下さい。

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