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妖狩りの侍と魔剣『斬妖丸』 : 「火車と『時雨丸』」(後編)

人の姿に化けていたあやかし火車かしゃ』が
本性を現しおった

その姿形は
火炎で燃え盛る一輪の車輪と化した
車輪の真ん中に
人間の男の顔が付いておる

火車は全身から炎を上げながら
その場で回転を始める

そしてゆっくりとだが
自分から外側へと
渦巻うずまきが広がるように
進み始めた

火車は周囲にあるもの全てを
激しい炎で燃やしながら
転がり続ける…

あれは…
恐ろしい高熱だぞ
見ろ!
ヤツの回転で描かれる軌道上の
石や岩が溶けておる

速さはさほどでも無いが
あんなモノが一里四方を駆けまわったら
確かにヤツの言う様に
後には灰しか残らん…
村にまで達すれば
火事どころの騒ぎでは無いぞ
全滅じゃ…

おのれ、火車め!

よし!
火には水だ!

『時雨丸』よ
またしてもお前の出番じゃ!
水竜すいりゅうを使うぞ!

火車のヤツめは
中心からだんだんと
渦巻きの軌道を広げながら
進んでおる

こちらから
ヤツの進む軌道上を
ヤツがいた中心めがけて
逆回転の渦状に水竜を仕掛けるぞ

火車の『火炎地獄車』が勝つか
『時雨丸』の『激流水竜巻げきりゅうみずたつまき』が勝つか
勝負じゃ!

放てっ!『時雨丸』!
激流水竜巻げきりゅうみずたつまき』っ!

拙者の号令と共に
『時雨丸』のなかご部分より
霧どころではなく透明な水の激流がほとばしった
激水流は空中にて一度竜の形を成した後
渦巻きとなり火車の進む進行方向と
逆の回転を進んで行った

『時雨丸』から放たれる水流は
とどまる事無く激流の渦となり
火車に向かって進んで行く
だが…
火車も激しい回転を止める事無く
転がり続ける

拙者は激水流のほとばしる『時雨丸』を構えたまま
一方の『斬妖丸』に話しかけた

『斬妖丸』よ
正直言って両者どちらが勝つか
拙者にも予測がつかん
だが火車の動きが止まったら
一気に拙者とお前でヤツを叩き斬るぞ

存分に火車の血を吸え
ヤツのあの力は人の世には危険すぎる
このまま捨て置く訳にはいかぬ…
お前に火車の力を封印するのじゃ

そのために『時雨丸』よ
頑張ってくれい
水竜巻みずたつまきの勢いを決してゆるめるでないぞ
必ず勝つのじゃ!


********


へっ!
水竜だと?
そんなもんで俺様の業火ごうかが消せるもんかよ
それに俺の回転は誰にも止められねえ
よし…
その水竜巻とやら
俺の凄まじい火炎で全て蒸発させてやるぜ
覚悟しやがれ、三一さんぴん侍よお!


********


「ジュジュジュジュジュッー!」
「ドッカーン!」

水竜巻が火車と激突したぞ!
むうう…
凄まじいまでの水蒸気爆発…
どうなっているのか何も見えん…

負けるな、水竜よ…

よし…
水蒸気が晴れて来た…

むうっ?
火車の火が消えておらん…
水竜は敗れたか…?

いや!
水竜はけてはおらん…
火車の回転と進行が止まったぞ!

『時雨丸』よ、よくやった
お前はここで休んでおれ…
拙者はさやに収めた『時雨丸』を
そっと地面に寝かせた

そして…
代わりに『斬妖丸』の白刃を
鞘から抜き放った

行くぞ、『斬妖丸』っ!
今度はお前の番だ!
止まった火車を真っ二つに叩き斬るぞ!

拙者は『斬妖丸』を大上段に振りかぶり
火車に向かって跳躍した

喰らえ火車っ!
お前に焼かれた者達の恨みの剣を!

「てやーっ!」

縦一文字唐竹割たていちもんじからたけわりぃっ!」

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