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番外編:ボローニャ近郊にあるC学校の校長へのインタビュー:イタリアの学校のインクルーシブな学習環境づくり|フルインクルーシブ教育の現場を訪ねて~イタリア・ボローニャ滞在記~|大内紀彦

【編集部より】第9回では、ボローニャ近郊にあるC小学校でのインクルーシブな学習環境をお伝えしました。今回は番外編として、C小学校校長へのインタビューをお届けいたします。ぜひ、第9回と併せてお読みください。

5度にわたってC小学校を訪問するなかで、同校の校長にインタビューに応じてもらえるという幸運にも恵まれた。実際に学校運営の全体を担っている校長の立場から、イタリアのインクルーシブな教育をめぐる現状や課題について率直なご意見を語っていただいた貴重な証言となっている。インタビューは1時間半ほどの時間を割いて行われたが、ここでは日本の読者にとってとりわけ関心が深いと思われるものを抜粋し付載した。

C小学校の校長へのインタビュー

Q1 クラスのインクルージョンは進んでいますか。インクルージョンは上手くいっていますか。

A 「概ね上手く行っているが、クラスによって差があると思う。支援教師や教育士は、特定の生徒だけを支援するのではなく、クラス全体をサポートすることが必要だ。各教科の教師もクラスのインクルージョンのための計画を十分に理解して、支援教師や教育士と協働することが不可欠になる。各教科の教師によっては、障害児の支援は支援教師まかせという教師がいるのが問題だ。」

Q2 支援教師と各教科の教師は、どのようにして協働のための工夫をしていますか。

A 「小学校に勤務する教師の週の授業時間は24時間、そのうち2時間はミーティングの時間になっていて、そこで協働の方法の打ち合わせをしている。(このたび調査した)クラスが上手くいっているとしたら、支援教師と担任の教師がともにベテランであること、それに加えてすでに5年間生徒を見てきているからだろう。教師たちがころころ変わってしまうと、有効な連携体制を築くのは難しい。」

※イタリアでは継続的な教育・支援活動を展開するために、クラス替えをしないことが一般的になっている。このクラスで担任を務める教師と支援教師は、小学校1年生の段階からこのクラスを担当している。

Q3 学校でインクルーシブ教育を行う意義は何ですか。

A 「インクルーシブな教育がなければ、障害児は結果として社会から阻害されてしまうこともあるだろう。しかし、小さい頃からインクルーシブな学習環境があれば、社会のなかにも共生の場ができる。インクルージョンにすればクラスメイトにも自ずと理解と支援の気持ちが生まれるし、クラスメイトたちも障害児から多くを学んでいる。」

Q4 学校でインクルージョンの教育を行うにあたっての課題はありますか。

A 「全体として障害認定を受ける生徒の数が増えてる。また障害認定はされていないが、支援の必要な生徒(P.D.Pの対象)の数も増えている。各クラスに数名は学習障害のある生徒が在籍している。それに比べて必要とされる支援教師の数が足りておらず、(イタリア全土で支援教師の資格を持たない他の教科の教師が支援教師の立場で仕事をしているケースがある)知識や技能についての専門性を確保できていないという課題がある。」

※P.D.Pとは、障害認定にはいたらないが、教育的なニーズを抱えている生徒に対して作成される教育指導計画のこと。イタリアでは学習障害の生徒はP.D.P作成の対象になっている。

Q5 障害のある生徒の学校卒業後の進路ついて課題はありますか。

A 「イタリア全体の大きな課題として、障害者の就労の問題がある。一般企業のなかでも、社会的協同組合のなかでも障害者が雇用される仕組みはある。しかし障害が重い場合は、就労の場をなかなか得ることができず、日中をデイケアセンターで過ごすケースが多いので、障害者の就労の場を増やしていく必要がある。」

※イタリアでは50人以上の従業員数を抱える企業の法定雇用率は7%、社会的協同組合B型では、従業員の30%は社会的に不利な立場にある人々を雇用することになっている。したがって、日本にくらべると健常者と障害者の労働の場における統合はイタリアの方が格段に進んでいるといえるが、それでも重度の障害者は就労の場を見つけられないことが多い。

Q6 「いじめ」と「不登校」は、日本の学校が抱える大きな問題となっています。イタリアではどうですか。

A 「イタリアでは、「いじめ」は、少なくとも小学校や中学校の段階では、それほど大きな問題にはなっていない。イタリアでは1クラスに複数の指導者がいるので、普段から生徒の様子をよく観察して予防に努めている。「不登校」も無くはないが、生徒が学校に登校して来ない場合、役所のソーシャルワーカーが中心になって対応することになる。」

※「不登校」のケースにソーシャルワーカーなどの福祉分野の専門職が対応できるのは、イタリアの教育が、医療や福祉と緊密に連携していることに由来する強みだといえる。

ぜひ第9回とあわせてお読みください!

おおうち・としひこ………1976年生。イタリア国立ヴェネツィア大学大学院修了。神奈川県特別支援学校教員。訳書に『イタリアのフルインクルーシブ教育―障害児の学校を無くした教育の歴史・課題・理念―』(明石書店)など。趣味は、旅行、登山、食べ呑み歩き。


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