映像講義の収録について、予備校講師からのささやかなヒント
はじめに
コロナ対策として、登校や登塾をいったん停止して映像講義で代替する、という選択をする学校や塾・予備校も増えているようです。僕がメインで出講する予備校も、しばらくの間ではありますが、そうした形式を選択しました。
ですが、先生によっては、「映像授業の撮影などしたことない! どう講義すればよいかわからない!」という方もいらっしゃるかと思います。
そこで、長らく映像授業も担当し、現出講予備校の教務スタッフ&撮影スタッフから「撮られるのウマいっすねぇ!」と褒められた(注…僕はグラビアアイドルではありません)僕が、〈生徒にメッセージを伝えるうえで、より効果的な方法〉について、ざっくりとまとめてみたいと思います。
なお、すべての教科に応用できる、そして誰でもが即座に実践できるということを前提としての内容になりますので、ぶっちゃけて言えば〈上っ面の形式的な要素〉に終始したものになってしまっています。その点については、何卒ご容赦ください。
語り方の演出
これは映像授業に限った話ではないですが、なんらかのメッセージを相手に伝えようとする際に、〈語り方〉というのは、それ自体が大切なメディアになります。〈語り方〉の巧拙によって、メッセージが伝わるか否かはかなり変わってくるわけですね。では、いったいどのようなことを意識すればよいのか…?
①"間"の活用
→文と文、あるいは文節と文節、さらには単語と単語、文字と文字とのあいだに、あえて"間"を置きます。例えば、
「あいうえお」➡「あ・い…………うえおっ!」
というように。
これによって「…………」のところで、聴き手は(ん?……「あ・い」ときたんだから、次は「うえお」だよなぁ…なんでこの人、黙ってんだろう? もしかして、「うえお」以外がくるのか!?)などと、あれこれ考えることになります。つまり、"間"を演出することは、聴き手に思考を促す契機となるのですね。ややもすれば受け身で聴くことになりがちな映像授業では、これはけっこう大切なことだったりします。
②"抑揚"の活用
→声量を抑えたり爆発させたりして、語りにメリハリをつけます。例えば、
「この一文、どんなこと言っているのかな(←ヒソヒソ声)」
➡「つまりは(←超ヒソヒソ声)………○○ってことだよね!?(←でかい声)」
というように。
時折、「生徒を集中させるためにはとにかくデカい声を!」みたいな講師がいますが、どれだけデカい声を出そうが、聴き手は次第に慣れてきてしまいます。そして慣れてきてしまうと、集中力も低下してしまうというもの。逆に意図的にヒソヒソ声を差しはさむと、かえってちゃんと聴かなきゃという気を喚起することができたりするわけですね。
③リアクションは大袈裟すぎるほどに大袈裟に!
→例えば、①で述べたような"間"をとる際、その沈黙の間に撮影カメラの視野の左端から右端までをなめるように見まわしたりすると、生徒に、(あ、今なにか考えてほしいんだな…)と気づかせることができます。ただ、これは本当に大切なことなのですが、〈こちらがわざとらしく演技しているつもりでも、いざ映像を見てみると、意外とショボい動きだったりする!〉という点は、ぜひともご記憶ください。上記のようなものも含め、身振り手振りや表情は、そこそこの演技では映像にはまったく反映されません。恥ずかしい、という概念を捨てて、リアクションは自分の中で最大に大袈裟+αくらいのイメージで演出してください。大河を挟んだ向こう岸の人間に届けられるくらい、大胆に、かつ、オーバーに!
板書の際の留意点
①半身? いらん!
→しばしば、「板書の際には生徒に背中を見せるな。半身になって常に生徒のほうに視線を向けながらチョークを走らせろ」的な"アドバイス"を耳にしますが、いや、できる人はやればよいですが、できない人(←僕)はそんなんやらなくて全然だいじょうぶです。おもいっきり背中を見せてやりましょう。むしろ、背中で魅せてやりましょう。背面を向けて板書をしながら、時折くるっと生徒のほうに身をよじることを意識すれば、普通にリカバリーできますよ!
②チョークの色はシンプルに!
→これは画質にもよるのですが、映像の場合、普通の授業より板書の色分けが識別しにくくなることが多いようです。基本、白(ホワイトボードなら黒)をベースに用い、蛍光の黄色や蛍光のオレンジなど、はっきりと目立つ色をちょこっとだけ使うイメージでよいかと思います。対象とする生徒に色弱の子がいるなら、なおさら気をつけねばなりません。
②字はデカく! とにかくデカく!
→〈10㎝マス=一字〉をイメージすると良いと思います。とにもかくにも、多くの生徒は映像講義をスマートフォンで見ることになるでしょうから、この点はかなり大切になってくるはずです。
③間違いを恐れるな!
→対面授業では、板書の間違いなど「てへへ///」もしくは「お前らが間違いに気づくのを待ってたんだよ~」等のベタなギャクでしのげばいいのですが、こと映像授業…とりわけライブではなくあらかじめ撮影しておく場合には、授業者は「絶対に間違えられない!」というプレッシャーを感じてしまいがちです。
断言します。
間違えても、まったく問題ありません。
きちんと訂正すればよいのです。
むしろ、これは僕の持論なのですが、〈板書や説明のミス→訂正などの"ノイズ"も、生徒の注意力を喚起したり、記憶を定着させるプラスの要因となる〉のだと、わりきってしまいましょう。それこそ、「お前らが間違いに気づくのを待ってたんだよ~……って、アレ、これ映像授業かw お前ら気づいても指摘できないじゃ~~~~~~ん。ごめんちょ!」などとテヘペロしておけばよいのです。
④板書しながらしゃべれ!
→対面授業の場合、板書している際のカッカッカッカッというチョークの音が響く中での沈黙は、かえって生徒の緊張感を惹起することができたりします。が、映像授業では、これは音声の質にもよりますが、このカッカッカッカッがうまく反響しなかったりもする。その場合、ただ単に授業者が背中を見せながらの無音の状態がしばらく続く、という、生徒にしてみれば非常に不安を煽られる時間が展開されることになってしまいます。
というわけで、板書をしている際には、その板書内容を読み上げながら書く、という程度でかまいませんから、何かしらしゃべりながら書くことを推奨します。もちろん、板書内容とは違う内容をトークできるとさらに良いのですが、こればかりは慣れも必要なので……。
が、どうしても「書きながらしゃべるのは無理!」という先生もいらっしゃるかと思います。そんなときは、前もって板書を用意しておき、しかるべきタイミングでそれに触れる、というやり方がよいかと思います。ただしこの場合、〈生徒に板書をとる時間を与える〉ことを忘れずに! 「じゃあ今からこの板書について説明するから、いったん動画はストップして、ノートに写してから解説聴いてね!」等の指示を具体的に出してあげてください。
⑤板書とかぶるな
→いや、これ実はけっこうあることなんですが、せっかく作った板書が、授業者の身体とかぶってしまって画像に映らない、という事態は何が何でも避けねばなりません笑 対面授業なら、生徒が身をよじって黒板を覗けばなんとかなるのですが、映像ではそうはいきませんから。講義の際の立ち位置と板書の位置とは、きちんと把握しておきましょう。
その他の注意点
①目線に気をつけて!
→僕がウチの撮影スタッフに最も褒められたのはこの点なのですが笑、撮影中にどこに視線を置けば、カメラの向こうにいる生徒と目を合わせているっぽくなるか、という点は、かなり意識したほうがよいです。
下手をすると、映像を見ている生徒目線では、「この人さっきからどこ見て話してんだ!?」ということになりかねません。何度か試しで撮影して映像を確認し、目線を合わせるべき最適な位置を見つけてマーキングしておくのが吉です。
②服装に注意!
→いわゆるハレーション、っていうんでしたっけ、チェックとかストライプとかの服着てると、画面がチカチカするやつ。あれ、本当に気になるので、そこらへんの柄物は避けたほうがよいです。シャツが無地でもネクタイ等でガチャガチャすることも多いので、要注意。画質の悪い映像になると、講師が動いた際に柄物の残像が漂ったりもします。
ただ、黒板の場合は黒やダーク系の服、そしてホワイトボードや電子黒板を用いる場合は白いシャツ等は、背景とかなり同化してしまう可能性もあります。どちらの場合でも、ブルーかピンク系の無地のシャツなら問題ありません。オススメです。
③問いを多用せよ!
→映像授業の最大の難点は、真の意味での一方通行授業になってしまうことです。カメラの向こう側でどれだけ生徒が集中力を欠いた表情をしていようとも、授業者は気づけません。それならば、「語り方の演出」でも述べたように、講師が生徒の集中を促すための様々な仕掛けを用意することが大切になってくるはずです。そこで鍵になるのが、
とにかく何でもいいから、カメラの向こうの生徒に質問しまくれ!
ということです。
もう、変な話、「じゃあ、次に問2をやりましょう。ええっと、問2、なんて書いてある?」とか、「では傍線部Aにもどりましょう……あれ、傍線部Aってどこにありましたっけ?」程度の質問でもいいんです。とにかく問いを投げかけることによって、いかに擬似的なものであれ、そこには対話が生じることになる。〈講師が自分に向かって話しかけてくれている〉と思ってもらうことは、生徒の聴く気を喚起するうえで、非常に大切なファクターとなるんですよね。
最後に
今年度の春期講習でヒシヒシと感じたことなのですが、もちろん全員が全員とは言いませんが、生徒の集中力…というより、〈講師の解説に対する食いつくような目つき〉というのが、例年以上に強かったと思います。
そこにはいろいろな要因があるとは思いますが、僕の中での結論は、休校措置が続く中、
生徒は授業に飢えている!
ということが大きいのではないかと考えております。
ここまで〈ちょこざいな授業テクニック〉についてあーだこーだ紹介して参りましたが、何より大切なことは、
自分の授業を骨の髄から欲している子どもたちがたくさんいるんだ!
という"事実"を噛みしめながら授業を展開されることかと思います。さすれば自ずから、講義の質も上がろうというもの。
そして最後の最後に、お願いがあります。
映像講義を見るという行為は、生徒にとっては思った以上に機械的な作業になりがちです。しかしながら、この状況の中でカメラの前に立つ先生方は、本当に、生徒の今やこれからを憂いて、何とかしたくてそこにお立ちになっているはずです。
その思いを、どうか恥ずかしがらずに言葉にしてください。
「君たちの不安は、私がすべて解消してあげる!」と、堂々と宣言してください。
おそらくはそれこそが、今の子どもたちが求めている最大のことであろうと思うゆえ。
愚にもつかぬことをダラダラと、ごめんなさい。ほんの1ミリでもお役に立てたら、幸いです。
この難局、皆で知恵を出し合って、何とか乗り切っていきましょう。
僕らの社会の未来は、ひとえに教育にかかっているわけですから…!
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