都構想 投票権を求めて

地下鉄千日前線「鶴橋駅」の階段を上って地上に出る。午前中で人影はまばらだがもわっとした”焼肉”の匂いが8月の暑苦しい空気に漂って汗ばんだ体にまとわりついてくる。アーケード下の韓国料理店や雑貨店がひしめく細い通りを抜けて、生野コリアタウンのほうへ歩いていった。日本最大の在日コリアン地域、生野区桃谷の人権団体「コリアNGOセンター」の代表理事を務める郭辰雄(カク・チヌン)さんに会うためだ。若いころは鶴橋で焼肉を食べるため、今は帰省したときに韓流アイドル好きの娘とグッズを買ったり手軽に韓国旅情を楽しむために立ち寄る機会も多いコリアタウン。秋の都構想に向けて賛成派と反対派が本格的に運動を開始し、SNSでも議論が活発になり始めている。しかし、日本国籍を有しない外国籍住民に投票権はない。自分たちが暮らす街が大きいく変わろうとする都構想の住民投票に意思表示ができない。外国籍のなかでも最も多数を占める在日コリアンはどう思っているのか。それが気になっていた。

「5年前の住民投票の時は大阪市なくなるで、ほんまにええのん?と驚きつつどこか傍観してましたね」

郭さんは橋下維新VS自民公明野党共闘で盛り上がる日々をそんな風に眺めていたと振り返る。2015年の住民投票は僅差で否決されたが、昨年2019年の市長と知事を入れ替えるクロス選挙で松井一郎市長、吉村洋文府知事が誕生したことで今年秋の都構想住民投票が再び現実味を帯びてきた。

前回は傍観せざるを得なかった郭さんだが、昨年秋に阿倍野区の小野潤子さんが発起人として立ち上げた市民団体「みんなで住民投票!(みんじゅう)」の呼びかけ人として永住権など一定条件を満たす外国籍住民の投票権を求めて活動を続けているという。「大阪市には約14万6000人の外国籍住民がいて人口の20人に1人が外国籍です。地域の政策に意思表示をする必要があると考えています」と郭さん。

住民投票は『大都市地域特別区設置法』で選挙権を日本国民に限った公職選挙法の規定が準用される。このため、昨年秋と今年5月、国に対して法改正を求める請願を出し、大阪市には投票ができるよう大都市法の改正を求める意見書を国会に提出するよう求める請願を行なった。(結果は継続審議)

郭さんは1966年生まれの在日コリアン3世。高校までは通名で暮らしたという。若いころのコリアタウンはチマチョゴリや韓国の食材などを在日韓国、朝鮮人が日用品を買いに来るような場所だったが、2000年代の韓流ブーム以降、韓流ショップも増えて全国から観光客が来て賑やかになった。「2001年にUSJが開業して変わった。修学旅行が増えたんです。USJだけだと遊びでしょ、コリアタウンに来て韓国の歴史や文化を学べば格好がつくと思ったんでしょうね。うちのセンターで韓国料理や在日コリアンの歴史なんかを修学旅行生に教えてあげるんですわ。といっても”ライト”にね。僕の名前はカク・チヌンですというと”かっこいええ”とか言われるんですわ。ええ、かっこええんかあって驚きましたね、最初にそういわれたときは」と郭さんは笑った。

今では年間約200万人が訪れるコリアタウンは今や大阪市の観光名所といっていい。しかし、そこで暮らす外国籍住民は維新政治の誕生以来息苦しさを感じることが増えたという。住民投票に対する思いを郭さんはこう語っている。

「外国籍住民の投票を認めていくことは多様性を認めていくこと。国籍や宗教、文化の違いを認めて尊重し合う大阪を作っていくことは大阪市民にとっても多様性のある社会になって活力になる。そんな話やと思うんですわ」


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