テッカマンブレードとハードボイル道

こんばんは。
備忘録的レビュー、参りたいと思います。
ネタバレを含みます。

アニメ『宇宙の騎士 テッカマンブレード』

★★★★★

昔のアニメ『宇宙の騎士 テッカマン』の名を受け継いだ作品ながら、
内容は一部の固有名詞を共有する以外は全くの別物と言ってもいいとのこと。(Wikipedia)
昔の、と言っても、ブレードの方も92年なので昔のアニメですが。
内容は『謎の宇宙生命体に滅ぼされそうになっている地球人が、謎の変身能力を持つ男の力を借りて戦う』みたいな感じです。
この変身する男こそが、主人公・相羽タカヤであり、テッカマンブレードです。
登場時彼は記憶を失っていたため、仲間たちからは『D-boy』(dangerous boyの略)と呼ばれる。
アニメにはありがちなことですが、この『D-boy』という呼び名が仲間内で一瞬で浸透しててちょっと面白い。創作固有名詞に対しみんな順応性が高い。

上記のあらすじだけではあまり特別なところはないんですが、
本作において特筆すべきはそのハードボイルドさだと思います。
タイトルでググると、「テッカマンブレード 悲惨」とサジェストが出るくらいです。
大したものですね。
私はハードボイルドや悲劇が好きなので、とてもよかったです。

このハードボイルドさはかなり貫かれていて、
悲惨とされる主人公のたどる道程もさることながら、
主人公のドラマとは直接関係のない、
一話で完結する話もいちいちハードです。

死ぬことが分かっている補給ミッションに臨む船長だとか、
殺された仲間の仇打ちのために、勝てる見込みのない敵を呼び寄せる軍の残党とか、
帰ってこない父親を、給仕ロボットと二人きりで待ち続ける古城の少女とかそんなんばっかで、
もうこの概要だけで泣ける、ごはんが3杯は食えるって感じです。

さらに前述の主人公のドラマももちろんハードで、
ネタバレですが「テッカマン」とは敵性宇宙生物によって改造された元人間達であり、
宇宙船に乗っていた主人公とその家族や関係者がみんなテッカマンにされていて、
主人公以外はみんな洗脳された敵性テッカマンなのです。
つまり主人公が地球の未来を背負って戦って、
倒さなきゃいけないのがみんな兄弟とか恩師とかなんですよね。
概要だけでは、まあつらいけどよくあることかな(?)って思わなくもないですが、
詳細なエピソードや演出、セリフや演技が良いので実際に視聴するとかなり上質な重厚感があると思います。
主人公役の森川 智之さんは初主演だったそうですが、
必殺技の叫びでマイクを壊したそうです。(Wikipedia)
最終回付近の気合は特にすごく、鬼気迫るものがありました。

序盤や中盤、まだ主人公の過去が明かされない付近では、
主人公が戦うの嫌がって逃げたりするので、
ちょっとだるみを感じることもあったのですが、
明かされてくると「そりゃ戦いたくねえわ」という気持ちになりました。
またメインのドラマが停滞気味の部分でも、上記の単発のお話がいいので私は見続けることができました。
この現象は過去にドラマ『X-FILE』で感じたことがあります。
個人的見解ですが、主人公モルダー捜査官の幼いころ見たUFOを追う話より、単発の話の方が俄然面白かったのです。
UFOの話は引っ張る必要があるので、結局米政府の隠蔽によって何もかもわからなかった…というオチになりがちだったので…。
ちなみに誤解のないよう付け加えると、X-FILEはめっちゃ好きです。

話をテッカマンブレードに戻すと、大筋である主人公と地球の敵となった家族の話は、最後まで見るとすごくよかったです。
特に一番の宿敵となる双子の弟との話がとてもよかったです。
弟の兄に対するライバル心、嫉妬心と愛着が入り混じったような心情が良く吟味されていて、またそれを裏打ちするエピソード、象徴するセリフがセンス良く盛られていて素晴らしいと思います。
最後のセリフが泣ける。

そう、本作は結構セリフがいいなって思うことが多かったです。
主人公は戦うのが嫌でテッカマンをやめたがっていたり、
相羽タカヤであることを隠して記憶喪失の振りをしていたり、
かと思ったら変身を繰り返した影響で本当に記憶を失い始めて、
仲間がつけてくれた「D-boy」という自身の愛称を忘れてしまったり、
それでもテッカマンとして戦うことを求められたり、求めたり、
「テッカマン」「相羽タカヤ」「D-boy」という三つのアイデンティティーの中で揺れ、苦しむことが一つのテーマのように描写されていたように思うのですが、
最後の戦いに向かう主人公を、恋仲になったクルーが呼び止めたとき。
敵への憎しみから彼は「俺は相羽タカヤでもD-boyでもない!テッカマンブレードだ!」と言い切って、愛よりも復讐と戦いを選ぶ場面は痛ましくてとてもセンセーショナルでした。

彼はその戦いと度重なる変身の影響で、最後はおそらくすべての記憶をなくし廃人となってしまうのですが、
そうなって初めて柔らかく笑うラストは思い出すだけで泣けます。

今回の記事は泣けるって言いすぎですね。
ハードボイルドというとかっこいいようなイメージが先行するけど、
ハードボイルドって悲哀に満ちていて泣かせるものも多いですよね。
ハードボイルドな人物は概して泣かないけれど、
その背中を見送る者が泣く。それがハードボイル道
見ている私は泣く。ハードボイルドじゃないから。
とすると、ハードボイルドな人物がハードボイルドな作品を見たときはやっぱ泣かないんでしょうか?
一番共感しそうなものだけれど。
これはハードボイルドのパラドックスですね。なんのこっちゃ。

あと主人公他何人か出てくるテッカマンたちの造形もかっこいいです。
ハードボイルド特有の地味さが全体に漂っていますが、
それが苦にならない人にはお勧めできる作品ではないでしょうか。

それではまた。

2022/12/01 追記

以前見た時は作業しながらのながら見であまり画面を見ていなかったので、
この度もう一度ちゃんと正座して全編視聴いたしました。
奇しくも約一年ぶりですね。
前回は見逃していた、セリフで語られない情報も多く、もう一度見返してよかったです。
一番印象的だったのは、キャラクターが「安易に赤面しない」っていうことですね。
ラブ的なシーンでも基本的にキャラを赤面させないんです。(例外はありますが)
きっとこれがハードボイルドってことなんだよな。うん。
単発エピソードで出てきたキャラが後の話でもう一度1カット描かれていたりもして、しかもその一瞬で彼らの近況が垣間見えるような画もあって、細部にまで気を配って描いているんだなというのが伝わってきました。
見ていて総集編の多さは気になったのですが、(49話に3回か4回?)それは尺稼ぎの怠慢ではなく、むしろ大事な回に注力するための策なのだと、観ていると何故だか感じました。
作画は全編を通し安定感がなく、結構人的リソースは限られている中での制作だったのは想像に難くないのですが、
その中でもできるだけ雑にならないように、できることを最大限やろうと、大切に描かれているのが伝わるのです。
いやもちろん完全に私の主観なので何の証左もないのですが、
現場の熱というか、制作に携わった人達の作品に対する愛みたいなものが
私には感じられました。
そしてそれゆえに本作は名作なのだと勝手に納得いたしました。

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