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第一回日中医療漫画会議

(作者:出口信也・Gen Z Group共同創設者)

先日、『Ns'あおい』(2004年)や『町医者ジャンボ!!』といった本格医療漫画で有名なこしのりょう先生と、新型コロナの治療と予防をテーマにした『ドクター郭静:感染都市武漢』(2020年)の作者である轉(テン)輪手槍先生の二人と、コルクの佐渡島さんを招待して、おそらく歴史上初めての日中医療漫画会議を行いました。

医療漫画事情

日本で人気のある医療漫画ですが、今年でちょうど50年を迎えようとしています、一番最初の本格医療漫画は架空の風土病であるモンモウ病治療に携わる青年医師小山内桐人の苦悩を描いた手塚治虫先生の『きりひと賛歌』(1970年)と考えられており、その後『ブラック・ジャック』(1973年)の成功でジャンルを確立しました。高度経済期を迎えた日本が、金銭的な豊かさだけでなく健康的な豊かさを求めるようになり、ブラックジャックが読者に問い続けた「命の価格」といったテーマから、医療に携わる医者や看護師の苦悩といったテーマ、そして精神病や身体障害といった社会に無視されてきた病気に苦しみといったテーマというように、50年をかけて多種多様に変化してきました。近年では英語で「グラフィック・メディスン」と呼ばれる学術分野へとも発展しています。

中国では漫画が大人気です。本屋さんが少なかったため紙媒体よりもテレビで見れるアニメが先行して人気を得ましたが、近年のスマホブームの恩恵を受けて所謂「縦スク漫画」がZ世代(15-25歳)の男女を中心に市民権を得はじめています。特に近年注目を浴びているのが「快看漫画(クヮイカンマンガ)」と呼ばれる漫画用スマホアプリで、すでに登録ユーザーが2億人を超え、中国国内で5割以上のシェアを誇っている。そして、3000作品以上のオリジナル漫画を掲載し、Z世代の1日あたりの平均滞在時間が30-45分もあります。人気漫画はフォロワー数が数千万、コメント数が一話につき数十万という作品も多くあります。基本的に一話毎に課金されるシステムで、最初の5-20話は無料、それ以降は一話につき50-60円が課金されていきます。

漫画の人気が上昇しているものの、人気の中心は恋愛ものや学園ものが多く、本格医療を描いた漫画は今回の『ドクター郭静』が中国で初めての作品となりました。中国の漫画産業が成熟・多様化していくに従い、医療ものだけでなく、職業ものの漫画もこれからどんどんと増えていくんだろうなと思います。

漫画家紹介

《こしのりょう先生略歴》

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こしのりょう先生は20歳で漫画家としてデビュー。1994年まで広告代理店で勤務をした後、2004年に代表作の一つとなる『Ns'アオイ(中国名白衣天使葵)』をモーニングマガジンで連載開始。正義の看護師あおいの姿は2006年にはドラマ化されました。2011年からはもう一つの医療漫画代表作である『町医者ジャンボ!!』の連載を開始。協和発酵スポンサーの新抗体物語等、医療系漫画を多く描かれている先生です。

图2


《轉輪手槍先生略歴》

图3

轉輪手槍先生がマンガ家としての第一歩を踏み出したのは約20年前、まだ中国の漫画産業の黎明期であした。中国の漫画雑誌「幽默派对(ユーモアパーティ)」のアルバイト漫画家として【虫虫小强历险记(虫お化け小強の冒険)】を発表。その後、代表作となる【幽冥诡匠】、【诡案录】、【仙山传奇】、及び【枪爷异闻录】等、ホラー・スリラー系漫画を中心に、快看漫画やビリビリ漫画、テンセント漫画と言ったインターネット上のプラットフォームで出版を続け人気を集めることとなります。2016年には木偶漫画工作室を共同設立し、漫画及び児童向け出版に携わっています。現在、Wechat上(日本でLINEにあたるソーシャルメディア)で300万人のフォロワー数を持ち、轉輪手槍先生の作品の通算閲覧数は5億回を超えており、中国で最もフォロワー数の多い漫画家の一人です。ドクター郭静:感染都市武漢で初めて本格医療漫画の作成に携わりました。

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轉輪手槍先生の代表作【枪爷异闻录】です。

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日中医療漫画会議

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日中医療漫画会議はZoomを使って行いました。

まず、中国と日本の漫画産業の違いについて意見交換。やはり日本は漫画先進国というだけあってジャンルも様々であり、医療漫画の歴史も深い。一方で、中国はまだこれから始まったばかり。日本の漫画家は中国の漫画家のことをあまり知らない一方で、中国の漫画家は日本の漫画をすごく研究しているとのこと。これまで中国では単純なストーリー、きれいな絵柄が好まれてきたけれど、読者のニーズはどんどんと多様化してきている。少しずつ日本に近づいてきているとのことでした。ただ、読者が漫画を読む方法は全く違っていて、中国では漫画はほぼ99%スマホで読む。だから、スマホで読みやすい、スマホで楽しめる漫画づくりが進んできている。日本ではスマホ用の縦スク漫画が少ない。

漫画の製作プロセスに関しては、中国ではかなり分業化が進んでいて、原作・原画・色付けが全て別の人が担当することが多い。スマホ用の漫画はほぼフルカラーなので、色付け専門の技術者がいる。轉輪手槍先生の場合一か月に2000コマ(一話60コマとすると、大体30話)を作成している。ただ、これは中国でもかなり多い方とのこと(往年の手塚先生の作品量を彷彿させます)。

医療漫画に関しては、調査がものすごく大切で、かなり高度な正確性を求められる。絵に関しては写真などを見て作画できる一方で、実際に医療器具がどのように使われるのか、どういうところに注意をすべきなのか等、専門的な知識が必要。漫画を描くための調査に関しては、日本の作家と比べると中国の作家はまだまだ少ない。その為、作品に深みが出ない。この点は中国の作家はどんどんと日本の作家から学ぶべきだとのこと。

中国では漫画は「儲かる」ビジネスになりつつあるが、漫画アプリなどの運営会社(日本では出版社に相当)の影響力が非常に強い。漫画アプリで読者の反応がすぐ判ってしまう為、どうしても短期的に人気がでる作品が多くなってしまう。日本では漫画の出版数が減っている一方で漫画家の数が多く、漫画家一人当たりの仕事の量が少ない。人気作家に仕事が集中してしまう。

日本と中国の間では編集者の役割に大きな違いがある。日本では編集者は作者と一緒に作品を育てていくケースが多いが、中国では仕事を持ってきてくれるエージェントのような役割が多い。中国でも日本のような編集者がどんどんと必要になってくるはず。

日本では漫画がドラマ化するケースが非常に多いが、中国ではまだまだ少ない。逆に、ドラマが漫画になるケースもある。

中国では漫画アプリが発達しており、読者の声がダイレクトに聞こえる。人気作品では数万、数十万のコメントが来る。もちろんコメントの内容は玉石混淆ではあるものの、読者の反応を直接感じられるのは素晴らしい。

中国の漫画産業は黎明期にあって、もっともっと日本から学ぶことは多いはず。逆に縦スク漫画の表現方法やアプリの使い方等、日本が逆に中国から学ぶことも多いはず。これからも日本と中国が協力してより良い漫画を世界に広めていきたいという結論で終わりました。

日中漫画事情・・・これから

あまり知られていませんが、「漫画の神様」手塚治虫先生が「アトムの飛んだり、戦ったりする姿の原型は孫悟空」と話したことがあります。このアトムの原型になった孫悟空は1942年ごろに見た中国発の長編アニメーション「西遊記鉄扇公主の巻(原題:鉄扇公主)」でした。(出典:http://jp.jnocnews.jp/news/show.aspx?id=54776)

图9

1998年11月、「これは国際問題です」と言い張って上海でのアニメーションフェスティバルに出席した後に倒れ、帰国と同時に入院。翌年2月9日に逝去されました。手塚先生が架けた日中間の橋はその後忘れ去られたままです。でも、今回の医療漫画のような件をきっかけに日中の漫画関係者の間でもっともっと交流が進むことを願っています。

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