君と探した場所、未だ見ぬ翼
第3話 誰のせいでもなく
「ただいま!」
赤黒く重い「スナック二条」のドアを開けると、モルトとタバコの煙が出迎えた。今日は一層モヤがかかっている様に思える。店内は予想通り、、のり子と外村の2人きりだ。
「慶一君!もう0時だぞ!えらく遅いじゃないか!心配してたんだぞ!大体、のりちゃんは慶一君の為に、、」
なぜ遅くなったか?理由も聞かずに向こう側の理屈で並べた言葉が朗々と続く、、慶一の中で何かが切れた。
「体裁よく何言ってやがんだ!あんたこそ!偉そうに、、人のこと言えんのか!奥さんも子供もいるのに、、さっさと自分の家に帰れ!何時までほっつき歩いてんだよ!!お前の居場所はここじゃねえ!!」
瞬間、外村の目が殺気立ち、それを見たのり子が凍りついた。
「け、慶ちゃん!心配してたのに!何処行ってたの?心配してたのよ!」
「心配してたってなんだ?LINEのトークで『今から帰る』ってメッセージ打っても1時間以上未読で放置したままじゃんか!何をどう心配してたんだよ!母親だったらもっと『大丈夫?』とか、『どうしたの?』とか『何かあったの?』とか、、友達の母さんみたいに言ってみろよ!!」
目前に浮かんだ言葉をそのままナイフの様に投げつけた。
その言葉に誰も返す事もなく、慶一という腫れ物に触れないかの様に、一時停止の様な沈黙が続いた。
店内のBGMが次の曲に動き出しすタイミングで、慶一が店にある居間に入った。
「五月蠅い!煩い!うすら汚い大人め!」
ハンガーにかけてあった制服を剥がして母親との記念写真に投げつけた。
もはや慶一は居場所が無いように感じていた。このBillie Joe Green Dayのポスターが貼ってある部屋すらも。
FenderのFender Vintera Seriesをアンプに付けず掻き鳴らす。Green Dayの『American Idiot』のアグレッシブで爽快なパワーコードのイントロやAメロで聴かれる印象的でシンプルなギターリフを繰り返し弾き続ける。
Television dreams of tomorrow
We’re not the ones who’re meant to follow
For that’s enough to argue
Don’t wanna be an American idiot
One nation controlled by the media
Information Age of hysteria
It’s calling out to idiot America
テレビは明日を夢見させる
そんなもんに付き合う気はないぜ
言いたい事は山ほどあるんだ
マヌケなアメリカ人にはなりたくないね
メディアに支配された国
ヒステリックな情報時代が
マヌケなアメリカを声高に叫んでいる
【出典: American Idiot/作詞:Billie Joe Green Day 作曲:Billie Joe Green Day】
慶一が部屋に入ったのを見届けて、のり子が動揺した胸の内を吐露し出した。
「私、だらし無い女かもしれないけど、、精一杯働いて、慶ちゃんのこと、私なりに愛情を持って大事にしてきたつもり。不憫な思いはさせたくないと思って『欲しい』と言った物はできるだけ買い与えてきた。でも、これ以上どうしたら良いかわからない!養護施設で育った私には、やっぱり母親の事がよく分からない!記憶が無いのよ!!仕方ないでしょ?外村さんどう思う?」
母親とは?、、のり子が一番気にしていた事だった。
「のりちゃんは、店の経営者として、母親としてよくやってると思うよ。そして、慶一君もそういうお母さん苦労を見て分かっているからこそ、店を手伝ってくれているんだ。慶一君はとても賢い子だ。でも、、母親の愛情に飢えているのは確かだ。自分だけを見てて欲しい。子供は誰だってそうさ。俺だって、、」
「やっぱり、母親失格?私の愛情が足りないって事なの!?」
「誰がマリア様みたいに完璧に愛情を注ぐ事ができるもんか!みんな不完全だよ!のりちゃん落ち着いて聞いてね。これは、俺のせいでもある。のりちゃんを俺も独り占めにしたい。だからこの店に入り浸ってしまっている。そして、俺のせいで彼には居場所がない。今の慶一君にとって、それがどれだけ悲しい事か。って事は今日見に積まされた。でも、俺も一緒で、家には居場所がない!のりちゃんが居場所なんだよ!けど、、だからこそ、俺の方こそ、のりちゃんへの態度を修正しないといけないかもしれない。暫くこの店から離れようと思うんだ!」外村の瞳が心無しか潤んで見える。
「止めて!私、彰さんが居ないとやっていけない!わたしの居場所はどうなるのよ!?」
「本当に?のりちゃん、、」
「彰さん!」
二人は熱い抱擁を交わし続けた。
「のりちゃん、愛してるよ!」
「私も愛してるわ!ただ、、今は、慶一、、」
「分かってるよ。そうだね、、」
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