ゲルの凍結
ほとんどが水でできているハイドロゲル。
凍らせるとどうなるのでしょうか?
最も身近なゲルの一つ、寒天とゼラチンで試してみましょう。
それぞれの粉末を熱湯に溶かし、冷やしてゲル化させます。
寒天は1%、ゼラチンは10%の水溶液を作ります。
ゲル化させた後、一方を冷凍庫に一晩入れておきます。
そして、室温でゆっくりと解凍させます。
ゼラチンは凍結させた方が白濁しています。
触り心地はもちろん、脆さにも違いがあります。
冷凍した方が脆く、ボロボロと崩れます。
冷凍していない方も簡単に崩れますが、凍らせたゼラチンよりも柔らかいです。
寒天は元より脆いゲルなので、軽い力で簡単に崩れます。
ところが、凍らせた方は崩れません。
というより、スポンジ状になるんです。
押すと水が溢れ出します。
では、洗濯糊で作るスライムはどうでしょうか?
こちらは、ポリビニルアルコールとホウ砂で作るハイドロゲルですね。
一晩凍らせて解凍すると…
見た目に殆ど違いはありません。
触って見ても、違いは分かりません。
つまり、凍らせても変化しないんです。
十数回、凍結解凍を繰り返しても、洗濯糊スライムの状態はほとんど変わりません。
厳密には、ポリビニルアルコールの分子量やけん化度で結果が変わりますが、洗濯糊に使われているポリビニルアルコールだとほとんど変化しないんです。
ハイドロゲルは凍結すると離水が起きます。
氷の結晶によってゲルの網目構造が変化してしまうんです。
この性質は、ゲルを構成する高分子の化学構造と網目のサイズに左右されます。
氷の結晶成長によって大きな穴が出来、スポンジ状になると水が出て行ってしまいます。
寒天はその典型的な例ですね。
ゼラチンも寒天ほど離水していませんが、網目構造が変化したことで脆くなりました。
対して、ポリビニルアルコールとホウ砂で作ったゲルはほとんど変化がありませんでした。
氷の結晶による構造変化が小さいんですね。
水は固体の方が体積が大きなため、凍ると膨らんで高分子の網目を押し広げます。網目構造が氷の結晶で傷つき、崩れてしまうこともあるんです。
凍らせても変化が少ないゲルは「冷凍耐性がある」と言えます。
特に、食品においては重要な性質です。
冷凍耐性がないゲルでも、離水を防ぐ物質を混ぜることで変化を最小限に抑えることが出来ます。
食品の多くはタンパク質や多糖類のゲルのため、冷凍による変化を抑える工夫がされています。
もちろん、冷凍のさせ方にも工夫がされています。
かつては、冷凍食品は味気ないものが多かったですよね。
しかし、冷凍耐性を持たせる手法の開発・冷凍技術の進化により、冷凍食品は出来たてと遜色ないものになりました。
最近は、言われないと冷凍食品だと分からないものが多いですね。
冷凍によるゲル構造の変化を防ぐことは、食べ物の美味しさ保つことでもあるんです。
余談ですが、凍らせた高分子の水溶液をゲル化するという方法もあります。
洗濯糊を凍らせ、3%のホウ砂水溶液に漬けてゆっくりと解凍すると、入れた容器の形のゲルが出来ます。
もちろん、水溶液の濃度やホウ砂水溶液の濃度によって変わりますが、工夫すれば形を固定することが出来ます。
以下の写真は、カルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液を凍らせ、アルコール(IPA)に漬けて作ったゲルです。
解凍後、水に漬けて24時間経過しても溶けません。
アルコールによって高分子鎖が凝集し、ネットワークを作ることでゲル化しています。
ちなみに、洗濯糊で同じことをやるとこうなります。
ポリビニルアルコールが凝集し、白い塊になってしまうんです。
どちらも水に溶ける高分子ですが、異なる性質を持っています。
ただ、これは凍らせなくても出来ることですねw
ゲルの凍結による変化は、寒天がとても分かり易いので、興味があったら試してみて下さい。
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