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カラギーナンとゲル

食品の増粘剤やゲル化剤として広く使われている多糖類、カラギーナン。
ヤハズツノマタという海藻(紅藻類の一種)から取れる多糖類です。

ヤハズツノマタはヨーロッパや北アメリカ、東南アジアに生息する海藻で、北アイルランドではアイリッシュモス(Irish moss)と呼ばれています。ヤハズツノマタから抽出したカラギーナンは、北アイルランドで古くからデザートに使われていたそうです。

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ヤハズツノマタ(アイリッシュモス) Wikipediaより

最初は抽出物もアイリッシュモスと呼ばれていたようですが、海藻を集積する町の名がカラギーナンだったことから、カラギーナンとも呼ばれるようになります。
*サギナ(Sagina subulata)もアイリッシュモスと呼ばれますが、別物です。

カラギーナンが日本に入ってきたのは1960年代。
最初はアイスクリームの増粘安定剤として使用されていました。
その後、様々な食品の増粘剤やゲル化剤として広く使われるようになります。
1%程度の低濃度で寒天と似たゲルを作るため、ゼリーに使われることもあります。

最大の生産地はフィリピンで、カラギーナンはフィリピン経済を支える重要な輸出品となっています。

このカラギーナンにはカッパー(κ)カラギーナン、ラムダ(λ)カラギーナン、イオタ(ι)カラギーナンの3種類のタイプが存在します。
一般的に流通しているのはカッパーカラギーナンです。

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カラギーナンは分子量がとても大きなため、水に溶かし難いです。
というより、多糖類はどれも分子量が大きく、溶かし難いんです。
2%(重量)が綺麗に溶かせるギリギリの濃度だと思います。
熱湯にカラギーナン粉末を入れる前に砂糖(スクロース)を溶かしておくと、粉末の凝集を砂糖が防ぐため、綺麗に溶かし易くなります(他の多糖類にも使えるテクニックです)。
ちなみに、研究に使うときは余計なものを入れたくないので、砂糖を使わないことが多いです(その代わり溶かすのは大変です...)。

熱湯に溶かしたら、室温に戻すだけでゲル化します。
せっかくなので、他の多糖類と混ぜたゲルも作ってみました(濃度はすべて2%です)。

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左端が2%のカラギーナンゲルです。
真ん中はカラギーナン:グルコマンナン= 1:1のゲル
右端はカラギーナン : ローカストビーンガム =4:1のゲル

カラギーナンのみのゲルは透き通っています。
二種類の多糖類を混ぜたゲルは濁っていますね。
これは、異なる高分子(多糖類)が水素結合などで繋がり、絡み合った構造を取るためだと考えられます。繋がった部分とそうでない部分ができ、カラギーナンのみのゲルより不均一な構造になります。

カラギーナンのみのゲルは硬くて脆いです。
スプーンで簡単に切れます。

カラギーナンゲル

一方、カラギーナンとグルコマンナン(こんにゃくの主成分)を混ぜて作ったゲルはとても強く、スプーンで強く押しても切れません。

カラギーナンとグルコマンナンゲル

ナイフを使っても簡単には切れません。

カラギーナンとローカストビーンガムを混ぜたゲルは、カラギーナンのみのゲルに近い物性です。
カラギーナンのみのゲルより柔らかく、弾力があります。
握りつぶしてみると、違いがよく分かります。

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右側のカラギーナンのみのゲルは粉々になっています。
一方、左のローカストビーンガムを混ぜたゲルは、割れてはいるものの大きな塊のままです。
ローカストビーンガムは、混ぜるとゲルが柔らかくなる効果があるんです。

カラギーナンがゲル化するメカニズムは、以下の図のようになります。

カラギーナンの分子構造変化

左が熱湯に溶かした状態で、カラギーナンの分子がバラバラになっています。
これを冷やしていくと、真ん中のダブルヘリックスという構造になります。
最後は、ダブルヘリックスどうしが金属イオンを介して繋がり、ネットワークを作ります。つまり、ゲル化します。
逆に、ゲルを加熱するとネットワークが崩れ、ランダムコイルの状態に戻ります。

このようにしてカラギーナンはゲル化します。

カラギーナンは研究用途でもよく使われます。
実は、カラギーナンを知ったのは学会会場で見たゲルの発表でした。
変な名前だというのが最初の印象ですw

カラギーナンは入手し易いんですが、食品グレードは少量販売がありません。

食用にこだわらなければ、楽天市場で少量かつ安価に入手できます。
両方使ったことがありますが、どちらも大して変わりません。

グルコマンナンは、蒟蒻の精製粉を使っているだけですw

ローカストビーンガムは食品を中心に広く使われている多糖類ですが、一般にはあまり流通していません。

大量に使うときは良いんですけどね...
その点、蒟蒻粉は少量かつ安価に入手できるので使いやすいです。

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