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閲微草堂筆記(205)生魂

巻八 生魂
 母方のおじの張公健亭が言うことには、滄州の州牧(州の長官)である王何某は、愛娘が病を患ったことでひどく頭を悩ませていた。

 ある夜、その家の者が書斎に入ったところ、たちまち、花陰の下、その愛娘が月に向かって一人佇んでいるのが見えた。家の者は慄然として、取って返したが、狐狸妖怪の類が変化したものではないかと疑った。そこで犬をけしかけてこれを攻撃すると、娘の姿は跡形もなく消えた。

 しばらくして、床に臥せっていた娘が語った。

「先ほどの夢の中で、私は書斎で月を眺めており、たいへん清々しい心持ちでございました。ところが、思いもよらないことに犬がそこに現れ、すんでのところで免れることができたのです。今なお動悸と汗がおさまりません。」

 そこで家の者が見たのは彼女の生魂と知れたのだった。医師はこの話を聞いて言った。

「それは身体と魂がすでに離れてしまっているということだ。盧国の扁鵲(中国の伝説上の名医)であっても手の施しようがない。」

 果たして、時を置かずして娘は逝去した。

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