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閲微草堂筆記(212)火の玉

巻八 火の玉
 小作人の張九宝が言うことには、かつて、ある夏の日、田を耕し終えると空はもうすでに暗くなりかけていた。皆と共に畦道に座っていると、火の玉がまるで赤い練り絹のように一筋見えた。それは西南の方角から飛んできて、地面に墜落した。
 見れば一匹の狐で、色は青白く、傷を負って血を流し、倒れ伏したまま苦しげに息をしていた。九宝が慌てて鋤を振り上げこれを撃つと、狐は渾身の力で跳び起き、再び火の玉に変化して東北へと去って行った。

 その後、行商で車を牽いて棗強県(河北省衡水市)を訪れた際、人から聞いた話によると、某家の婦人が狐に惑わされたため、道士を招いて退治した。捕縛し、甕の中に封じてあったのだが、子供たちがこっそりお札をはがしてしまった。狐がどんなものか見てみようとしただけなのだが、狐は甕を壊して飛んで行ってしまったという。
 九宝がその日付を問うと、まさしく墜落した狐を見た日であった。

 この道士の呪術は験があったといえよう。しかし、幼く無知な者がこれを覗き見ようとするのはどうすることもできまい。
 古来、力を尽くし物事を成そうとしている時に、無知で愚かな者の手によってそれが失敗するということがあるが、おおよそこの話のようなものである。

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